三章 目には目を。歯には歯を 1
追っ手を退けた紗来奈と乃愛は静かに都市部を走り、車を停めて降りた。
二人が見上げるのは高層商業ビル。低階層には飲食店やブランドショップ店が並び、それから上の階数は様々なオフィスが入っていた。
そんなホテルを見上げていると、二人が装着している片耳イヤホンからエミリアの声が聞こえてきた。
『無事に着きましたね』
「もっちろ~ん」
「着いた」
紗来奈と乃愛は車からキャリーケースとリュックサックを下ろす。それぞれには自分用の装備が納められていた。クリスチャン・ディオールのキャリーケースには乃愛が使う銃と装備が入っていた。手早く組み立てられた銃は16インチ仕様のAR15アサルトライフル。シグザウアー製ドットサイトに小型の予備サイト。細身のハンドガードにはショートフォアグリップが付けられていた。ゴールド着色加工された強化バレルに交換しており、ハンドガードの隙間から鈍い輝きを覗かせる。ホルスターやマガジンポーチ、ナイフなどを付けたタクティカルベルトを腰に装着した。
紗来奈は乃愛から借りたMCXをそのまま使う。予備マガジンと弾薬を確認し、紗来奈もタクティカルベルトの装備を確認する。
『今回のおさらいをしましょうか』
二人は装備の点検や準備を進めながら、エミリアの通信を聞いていた。
『目標のお姫様は、依頼主である資産家の一人娘です。成績は優秀で英語、中国語、フランス語も堪能だとか。人格も問題なし。交流関係も多く、休日はボランティア活動に捧げていた。将来の夢は貧困下にある国の医療発展の為に医者を目指している。眩しいくらいにとても良い子です。そんな彼女の駄目なところを挙げるなら、世間知らずなところでしょうか』
紗来奈はMCXのマガジンに、乃愛はグロック拳銃のマガジンに銃弾を詰めていく。二人は準備を続けた。
『簡単に人を信用してしまう。それが彼女の駄目なところ。まぁ父親が過保護過ぎていたことも原因でしょう。紗来奈さんからの報告で得た倉庫での出来事。商品になりかけていた子供達は、お姫様のクラスメイトとその仲間。クラスメイトは売春を薦め、その仲間は相手を斡旋する不良。まぁ半グレの部類ですね。そのクラスメイトも人身売買で小遣い稼ぎをしていました。親からのプレッシャーや成績の伸び悩み時期からしてストレス発散で自分もろともそうしたのでしょうが、売人の真似事を始めてしまった。お姫様はボランティアだと騙されて巻き込まれてしまった。お姫様の不注意といえばそれだけです。しかしながら、善良な者が堕とされる道理はない。堕ちるのはクズだけでいい』
「そのクズの取引相手が、私達が追っている敵ってこと」
『そうです。人身売買を生業としている犯罪組織は珍しくありませんが、彼らは高品質な商品を取り扱っていることで有名です。十代の処女や童貞の子供達。色々と買い手がいる中でも今回の相手は大物です。中東アジアの富豪です』
「王族じゃないのぉ?」
『そうでしたら日本国内大スキャンダルで湧かせられたんですがね。残念ながら王族ではありません。しかし、とてつもないお金持ちですよ。なんせシリアのアサド政権が崩壊した後、大量の武器と麻薬を入手して密輸しています。それに、今は国の代表として来ていますから』
「大阪万博の関係者として」
『はい。大阪万博の自国パビリオンとしてこの国に来ています。どさくさに紛れて商売をしようとし、相手の組織もバルカンルートに一枚噛ませろとの意味合いで高品質な少年少女を商品にした。お姫様はその経緯で高くクラスメイトから売り渡されたが、そのクラスメイトと仲間は下品な連中に売り飛ばされそうになった。まぁ、そうはならなかったのですが』
紗来奈と乃愛を追ってきた敵の装備は充実していた。AKシリーズの武器ではあるが、金をかけてカスタマイズして近代化されていた。乗り物や服装もチンピラのそれではなく統一された装備だ。資金は潤沢にあることを示していた。
『たとえ中東の富豪だろうが、その取引相手の犯罪組織だろうが、この国で好き勝手にやらせる道理はありません。害悪です。お姫様に傷をつけさせる前に確保し、両者を殲滅してください』
「国交とかそういうの気にしなくていいの?」
『はい。私がどうにでもしますので。お二人は気兼ねなく引き金を引いてください』
「言われなくてもわかってまぁす」
銃と装備の確認を終えた乃愛は、AR15アサルトライフルのチャージングハンドルを引いて銃弾を装填した。
その瞳に輝きはなかった。
「悪い奴らは全員ぶっ殺さなきゃ駄目でしょ」
声色に殺意を乗せた乃愛の言葉に紗来奈も頷く。
「暴力には暴力でしか抗えない。その暴力に私達がなれるなら、喜んで銃を握るよ」
『そうですか。──そうでしたね。貴方達はそんな子供達でした』
少しだけ悲しそうで、溜め息を漏らしたエミリアははっきりと告げた。
『お姫様以外の命は要りません。全員殺してください』
「「了解」」
準備を終えた紗来奈と乃愛はネオンが輝く高層商業ビルを少しだけ見上げ、買い物でもするかのよう気軽にビルへ入っていった。
◇
地下四階、地上五一階の高層商業ビル。低層部には商業施設や医療施設、カンファレンスや劇場などが備わっていた。中層部にはオフィスビルや企業向けの共用施設が配置されており、四〇階以上は高級ホテルのフロアとなっていた。ホテルとなっているが、一フロアぎっしりと宿泊部屋があるわけではない。広々とした大きな部屋にする為に、広大な一フロアでも数部屋しかない。更には各階に宿泊者が利用できる談合室やトレーニング室、大浴場やサウナなど多くの施設を取り揃えていた。
そのビルの高階層にあたる場所を貸し切りにしている集団がいた。とても金払いが良くて関係者一同は訝しんだが、従業員ごときが言える立場ではない。支配人と一部の関係者は知っていたが、害を与えられていないことで黙秘していた。
人身売買を生業とする犯罪組織は組員はもちろん取引相手の宿泊や娯楽場所、その相手に売られる商品の少年少女一人ずつに部屋を割り振っていた。童貞や処女。未成年。染めたことのない髪。にきびのない顔。中東アジアの相手には高く売れる代物であるが為に粗相はできない。些細な傷でもつけることは許されない。
大きなリビングのような部屋には取引相手の中東アジア出身の富豪がたくさんいた。犯罪組織は中でも一人の中東アジア人と固く握手して挨拶した。彼は長く取引している男であり、今回の商談を用意してくれた。
「会えて嬉しいよ」
「私もだ」
「パビリオンの仕事は順調か?」
「この頃凄くイライラすることが多い」
「そうか。ならばうってつけがある。楽しみにしていてくれ」
座るよう促す。合図をすると照明が暗くなり、スーツを着た男に引っ張られながら少年が部屋に入ってきた。首輪をつけられ、薄着の白いネグリジェを着せされていた。
部屋の中央に連れられると商品の説明が声高らかに始まった。年や身長、体重。童貞か否か。後ろの穴は未使用か使用済みか。中東アジア人達は数字を言っていく。オークションだ。最後に叫んだ数字より後が出ず、落札が決定した。商品が泣き喚こうが関係なく引きずり下ろされる。暴れようとも関係なく無慈悲に引き渡され、奥の部屋に連れ込まれた。それを見ていた者達はもう忘れたかのように、次の商品のオークションに顔を向けていた。客にとって目の前にあるのは人間ではなく、道具なのだ。
二人はその光景を眺めていた。
「聞いたぞ。襲撃されたということ」
今ある問題を指摘されながら、犯罪組織のボスは静かに答えた。
「些細な問題だ。すぐに解決できる。反撃の手段も打った。貴方のおかげで武器も資金も満足にある」
「それならいい」
「ぬかりはないですよ。それは警備も商品も同じだ」
煙草を吸い始めると、部下が駆け寄って耳打ちする。それを聞いて煙草を持つ手が止まった。
部下の拠点と連絡がつかない。更にはそれを知って向かわせた三台と連絡がつかない。
「どうした?」
「なんでもない。それより、この後はお目当ての商品だ。シャンパンでも飲みながら見定めててくれ。きっと満足いく」
頷いて了承し、部下はシャンパンを二人のグラスに注ぐ。金色と純白が二層に折り重なり、二人は軽く乾杯して飲んだ。
商品として連れてこられたのは少女だった。少し背が高いが細身で、黒髪は腰ぐらいまで長い。整った顔立ちで顎が細い。恐怖と不安で泣きそうにしていたが、我慢して周囲を睨み付けていた。薄い生地の白いネグリジェを着させられていた。彼女が拉致されて売られたお姫様だった。
「素晴らしい」
「でしょう。教養もある。誰もが欲しい一品ですよ」
「もう少し肉付きがあればいいな。反抗的な態度はいただけない」
──注文の多いアラブ人め。
表情に出さず心の内にボヤく。それがビジネスの基本だ。
会場内が興奮しだした時。遠くから銃声の乾いた音が聞こえたような気がした。聞き間違いだと会場内の人間は笑うが、すぐに数発の銃声が聞こえてきて、客達は不安になっていた。
「お静かに! すぐに対処致します。沈静次第、邪魔をした無礼な者を引き摺り出してショーを行わせますのでしばしお待ちを。おい、客人に無礼をさせるな」
その一声で武器を取り出して部下達は駆ける。男は座り直してシャンパンを飲み干した。
「いいのか?」
「客人には恥をかかせません。これは私達の戦争です。貴方達は品評会を続けてください」
グラスに注いだシャンパンを口にする。余裕あるように喋ったが、この胸騒ぎはなんなのかわからなかった。
なんだかとても、悪いことが起きる前兆を感じているようだった。
◇
正面から堂々と入った紗来奈と乃愛は、エレベーターを使って目標の階まで上がった。今回の作戦はお姫様の確保が最重要だが、ただただ敵を殺すのみの殲滅も作戦に入っている。お姫様の場所も安否もわかっていない。だが、やることに変わりはない。
紗来奈はエレベーター内で煙草を吸い始めた。あまりに自然な動作で火をつけたものだから乃愛は最初気にしなかったが、気付いて顔をしかめた。
「煙草の臭い移るんだけどぉ」
「火災報知器とかの心配じゃないんだ」
「当然でしょ。お気に入りの服と髪型なんだよ!」
怒りながらグロック拳銃にサプレッサーを装着する乃愛。紗来奈もMCXアサルトライフルを再度確認した。
「時間は限られてる。お姫様の確保を優先。邪魔する者は悉く殺す。OK?」
「他の商品はどうするぅ?」
「助ける」
「エミリアさん。怒るかなぁ」
「その時は、言い訳を考えとくよ。まずは敵を全員殺す。そうすればどうとでもできる」
「そうだよねぇ。全員いなくなればいいことだしね」
真顔で頷く乃愛の表情はなかった。マスクに隠れていた下も感情はないだろう。ただ悪党を殺すことしか考えていない思考に切り替わっていた。
「いつも通りで」
「オッケー」
エレベーターが目標の階に到着すると、二人は銃を構えて端に寄った。殺し屋の目つきになっていた。ゆっくり扉が開いて見えた先には、スーツ姿の外国人の男数人が立っていた。紗来奈が即座に男達の頭を撃ち抜く。そのまま前へ飛び込んで振り返えれば、エレベーターの両脇に警備が二人立っていた。紗来奈は片方の警備を、乃愛は飛び出してきた警備を背後から頭と胸を撃ち抜いた。
瞬く間に四人も殺した二人は、フロアに足を踏み入れる。ここから先は敵の領域だ。一つの油断が命を失うばかりか、中途半端に生きていれば死ぬより酷い目に遭うことは知っている。紗来奈はMCXアサルトライフルを、乃愛はグロック拳銃を構えながら素早く進む。
「どうした?」
敵の仲間が様子を伺いに角を覗いた瞬間、紗来奈はその仲間の頭を撃ち抜いた。非常に強力でありながら軽量さと静寂さを兼ね備えた代物に、これは良いと舌を巻いた。
サプレッサーを装着しても短い銃はとても扱いやすい。それに威力のある銃弾を飛ばせる。それだけで満足いく代物だ。自分が愛用している銃の一つに加えようか本気で考える代物だった。
二人は突き進む。敵の喉元を確実に狙っていき、仕留める。大抵は案山子のように突っ立っていただけだが、中には動ける者もいた。だが紗来奈をフォローするように乃愛がカバーする。完璧な相互関係を保ちつつ進んでいく。
進むごとに敵の警備が厳重になっていく。目的の場所に近付いている証拠だ。アサルトライフルが弾切れになった紗来奈はマガジン交換を行い、乃愛がサポートする。しかし敵の数が多く、即座に仕留めることができなかった。倒れた敵が死力を振り絞ってジェリコ941拳銃を握り、震えながら乃愛に狙いを定めた。マガジン交換を終えた紗来奈が気付き、男の頭部に銃弾を撃ち込む。衝撃で拳銃は天井に向けられたが、人差し指に力が入って引き金が引かれてしまった。銃声がフロア内に響き渡り、他の警備達が事態に気付いた。
舌打ちした乃愛はグロック拳銃をホルスターに納め、スリングで肩に下げていたAR15アサルトライフルを構え直し、新たにやって来た警備達を迎撃した。
「ごめん。しくじった」
「どのみちこうなってた。奴らの注意を引ける。いいじゃん。気にしないで殺せるからさ」
「きゃは。確かにねぇ。サキナのそういうところは好き」
「……ノアの、そういう正直なところは好きかな」
「え~。サキナと相思相愛じゃん。どうしよっかなぁ」
「あのさぁ……」
乃愛はグロック拳銃のサプレッサーを外してクリスチャン・ディオールのバッグに片付けた。余裕ありげに話す隣で呆れている紗来奈は弾数を確認する。煙草が吸いたくなったが我慢した。
敵勢は大きくなったが、制限がなくなったことで紗来奈と乃愛は派手に動くことが可能になった。銃声も隠密も関係ない。ただただ殺すのみだ。
音を立てずとも良いとなった途端、紗来奈はアサルトライフルを構えながら突進する。敵の懐に潜り込んで超至近距離でアサルトライフルを放って心臓と脳髄を抉るように撃ち抜いていく。敵が紗来奈に狙いを向けるが、後方にいる乃愛がAR15アサルトライフルで確実に撃ち抜いていく。今度はしくじることはなかった。
敵は多くなっていく。フロアの道は単純だが選択肢は狭まれる。それでも関係ない。二人はただ突き進むのみだ。殺すべき者を殺すだけ。鋼に似た二人の信条はそれに尽きる。
死ぬべき者は死なねばならない。
目には目を。
歯には歯を。
復讐には復讐を。
血には血を。
暴力には暴力を。
死を持って償わせるべきだと、齢一〇代の二人はそう信じている。現実でもそうだ。悪者は裁かれなければならない。
死ぬべき者は死なねばならない。
その信条のみが紗来奈と乃愛を突き動かす動力源になり得る物だ。それ以外には何者にも屈しない。鋼の精神を持って挑むのだ。
悪事を働くものは罰せられなければならない。
悪事を働くものは処せられなければならない。
悪の彼の者らに死を送り届ける者で在り続けなければならない。
銃を握る彼女達は、高品質な商品で在り続けなければならない。全てを殺す者で在り続ける為に。
頭を吹き飛ばしたその直線上の奥。勢いよく扉が開かれた先にいたのは、分厚い防護服で身を包んだ兵士だった。両手で抱えるようにPKPペチェネグ凡機関銃を持って現れた。
「ジャガーノートが来るよ!」
「マジ!?」
反撃せずに二人は離れて隠れる。頭を出して様子を伺おうとするが、ペチェネグ機関銃の銃撃にすぐ頭を隠した。
どうしたものかと考える紗来奈に、乃愛が先に口を開く。
「ノアが引きつける。サキナはその隙を狙って!」
「頼める!?」
「任せて!」
紗来奈は廊下の奥に走り出す。乃愛はAR15アサルトライフルを構えて身を乗り出す。直線上にいた重装歩兵の頭部に銃弾が直撃する。が、規格以上の防弾機能にヘルメットの機能で大したダメージが与えられず意識はそのままだった。PKPペチェネグ機関銃に狙われながら乃愛はその場を後にする。
二人が反対方向に逃げる。重装歩兵は撃ってきた乃愛を影を追う。右往左往していると再びヘルメットに衝撃が走って頭が揺さぶられた。乃愛による銃撃だ。重装歩兵は機関銃を構えて引き金を引く。
強力な7.62×54R弾がいとも容易く壁や柱を撃ち抜き、周囲に破片をまき散らしていた。服が傷つかないよう気を付けながら身を隠していた乃愛は、弾切れになった時を見計らって撃つ。防弾機能が優れていても何発も受けて無事な訳がなく、重装歩兵は少し後退って身を隠そうとしていた。
乃愛が銃撃をやめたタイミングに合わせ、横から飛び出した紗来奈がMCXアサルトライフルを撃ちながら駆ける。フルオートで銃弾を叩き込み、重装歩兵は片膝をついて完全に動きを止めてしまった。更には防弾ガラスで作られたバイザーにも数発直撃し、大きなひび割れとなって視認性が悪くなった。
紗来奈は弾切れになったアサルトライフルを投げつけ、腰元に装備していたネイルハンマーでバイザー付きヘルメットを殴りつけた。本来なら通らぬ鈍器だが、既にひび割れていたバイザーであれば叩き割るのは造作もなかった。砕けたガラス片と共にネイルハンマーを顔面に叩き込まれた重装歩兵は、立ち上がることはおろか悲鳴もあげることができずにのたうち回った。鼻は折られ、右の眼窩骨折と眼球破壊。ぼたぼたと血が溢れていた。
紗来奈は、体を起こそうとした重装歩兵の横っ腹を蹴り飛ばして仰向けにさせると、胴体を跨いで無表情のまま見下ろした。重装歩兵には死神に見えた。その死神は鎌ではなく、ネイルハンマーを振り上げていた。
「待っ──」
制止の声など聞く耳持たず、紗来奈は何度もネイルハンマーで殴った。顔の形がなくなり、肉が裂けて骨を折ろうとも、幾度も殴り続けた。顔を潰した最後に釘抜き部分で喉元を深く抉り、捻って傷口を広げて抜くとぶくぶくと血泡が吹き出した。
嫌そうにネイルハンマーを見た紗来奈は血振りをして、死体の服に擦りつけて血を拭ってから腰のホルスターに戻した。
「これで全員?」
「まだかなぁ。メインステージが残ってるし」
「そっか」
紗来奈は煙草を吸いながらスプリングフィールドXDM拳銃を抜いてチャンバーチェックを行い、乃愛はAR15アサルトライフルのマガジンを交換した。
「コレ使えそう」
紗来奈が見つけたのは敵が使っていたペチェネグ機関銃だ。死体からマガジンボックスを剥ぎ取って交換して持ち上げた。
「重っ」
「邪魔でしょ」
「露払いぐらいなら使えるでしょ。敵もいないし。鈍器にもなる」
「八キロ以上もあるの振り回すなんて馬鹿でしょ。ニコチン足りてるぅ?」
「煩い」
「キレてるし」
他愛ない話をする二人だが、警戒は怠らない。すぐ襲われることはなさそうだったので死体を跨いで廊下を進む。
目的の場所はすぐそこだ。