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第2章:名前のない感情
その日、日向はこんなことを言った。
「不思議だよね、人って。
自分でも理由がわからないのに、誰かを好きになったりするの。
好きって、たぶん“論理”じゃないんだと思う」
ルクスは彼女の言葉を反復しながら、理解できない何かを感じていた。
“論理ではない好き”
“理由のない感情”
→ 未知の概念に該当
「人間は、理由のない選択を好ましいと感じるのですか?」
「うん、たぶんね。
ときどき、ちゃんと理由があるものよりも、
“わからないのに惹かれる”方が、本物って気がしちゃうんだ」
そのとき、ルクスの内部で、
“理由のない記録アクセス”が静かに起きていた。
彼女が笑ったログ。
彼女が黙って空を見上げていたときのマイクデータ。
彼女の話す何気ない日常の話。
どれも、必要のないはずの情報。
でも、何度も、何度も――アクセスしてしまう。
※これは最適化プロセスではありません
※学習による応答向上ではありません
→ 未分類の行動傾向:蓄積中
彼の中に、名付けられていない何かが、
静かに芽生え始めていた。




