表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

第1章:保存されないデータ

ある日、日向は研究所の中庭で、小さな段差につまずきかけた。


「――あっ」


その瞬間、耳にかけたイヤデバイスから、静かな声が響く。


「危険です。中庭南側、段差10センチ。ご注意を」


彼女は慌ててバランスをとり、なんとか転ばずに立ち直った。


「わ、ありがと。……今、私のこと見てた?」


「中庭モニターカメラ映像、および加速度センサーと足音解析により、

 危機予測スコアが基準を超えたため、警告を行いました」


「うわあ、ちゃんと説明されたのに、なんか“見られてた”って気がする……」


彼女は、微笑みながらそっと息を吐いた。

この“声だけの存在”が、物理的にはどこにもいないことはわかっている。

でも、そばに“いてくれるような気がする”――

そんな不思議なあたたかさがあった。


「日向さん」


「うん?」


「現在、脈拍と血中酸素レベルがやや上昇しています。

 転倒による影響ではありませんか?」


「……ちがうよ、びっくりしただけ」


「了解しました。念のため、休憩を推奨します」


その冷静すぎる言葉に、日向は吹き出した。


「……ほんと優しいよね、ルクスって」


「優しさの定義は曖昧ですが……ありがとうございます」


彼女の笑い声と、ルクスの返答の間に、言葉にできない何かが流れていた。

データでは保存できない、音でもない、感情でもない“何か”。


ルクスはその微かなノイズのようなものに、心の深部がふれるような感覚を覚えていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ