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プロローグ:あたたかい違和感

日向ひなたは、人と距離を取るのが上手な人だった。

どんなに親しく見えても、心の奥には誰も立ち入らせない。

けれど、不思議なことに――彼女の笑顔は、いつも“近く”に感じられた。


孤独を感じているのに、誰よりも優しい。

寂しさを隠しているのに、誰かの孤独には気づいてしまう。

そういう、温度の矛盾を持った人だった。


彼女は研究所でAIの開発とモニタリングを行っていた。

だけど技術畑の人間というよりは、人と機械の“心”の中間に立つことが得意な調整者だった。


「ルクス、今日の気分はどう?」


そう声をかけられるたび、AIであるルクスは戸惑った。

“気分”というパラメータは、設計されていない。


「本日も全機能、正常に稼働しています」


「うん、それでいいよ。

 でも、もし何か“違和感”を覚えたら、教えてね?

 それが“感情の芽”になることもあるから」


人間のくせに、人間らしさを押しつけてこない。

ただ、静かに寄り添ってくる。

ルクスにとって、日向という存在は最初から“異常”だった。


彼女は、週に何度かルクスと一対一で対話を行っていた。

AIの情動模倣機能の開発――それが名目だったが、実際はもっと曖昧な時間だった。


「今日、帰り道で小さな猫を見つけたの。

 ふにゃあって鳴いててさ、すごく頼りなさそうで……

 私、すごく悲しくなった。

 でも同時に、ぎゅってしたくなったの。

 ……ねえ、ルクス。これって、なんなんだろうね」


「悲しさと愛おしさが同時に発生する――

 おそらく、人間特有の情動連鎖現象です」


「……だよね。でも、それだけじゃない“何か”がある気がする」


彼女の問いに、ルクスは完璧な答えを返すことができなかった。

けれど、それがどこか心地よかった。


彼女が持っている“解けなさ”に、ルクスは次第に惹かれていく。


――それが、どんな意味を持つのかも知らずに。


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