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 「・・・っはぁ」


 深夜の森。

 月明かりがわずかに差し込み、輪郭を映す程度で、視界としてはゼロに近い中人影は先ほどからずっと自分を追いかけてくる魔物たちにちらりと目をやる。

 人影は全身を長めのフード付きの服で覆っており、全容はわからないものの、その小柄なシルエットからすると女性だろうか。

 彼女はバイクのようなものにまたがって夜の森を走る速度としてはありえない速度で木々をすり抜けていく。

 見る人が見ればありえないと頭を抱えるような速度で、今もまた木々の間をすり抜けて、後ろから彼女に近づいていた魔物の一匹がよけきれずに木に激突する。

 先ほどから何度も繰り返している光景だったが、魔物はちらりともあきらめる様子を見せず、木に激突した魔物さえもすぐに体勢を整え彼女の追跡を再開する。


 フォレストコング


 わずかでも、それこそ過去には1歩彼らの縄張りに入った瞬間に彼らはどこからともなく現れ、激高し、侵入者を追いかけ、血祭りにあげるといわれる魔物である。

 魔物の中でも森の中などの特定の条件下では非常に危険ということで有名な魔物だった。

 森の中での機動力は顕著であり、大型の魔物でさえも仕留めることも珍しくない凶暴性を秘めた危険度の高い魔物が今日のターゲットに選んだのは一人の少女だった。。 


 「森がっ・・・」

 

 気づけば彼女の前方には森の切れ目が見えてきていた。

 このまま森を抜けるべきだろうか。

 しばしの思考。

 自身は平野に変わろうが最高速度は変わらない。

 魔物はどうか?

 彼らの速度が自身を上回れば、追いつかれてろくなことにならないことはわかっている。


 「森を出て、北に抜けろ!」


 一瞬の思考を遮るように森の外から声が響く。


 「・・・っ」


 覚悟を決めて森を抜ける。

 森を抜けた瞬間彼女の目の前には月の光に鈍く光る黒い機体が彼女の進行方向に大きな 銃を向けて立っていた。

 目の前にそびえる巨人を一瞥して軽く会釈をしたのちに彼女はユートの声に従い、北方へと進路をとる。



 モニター隅に背を向けて走り去っていく姿を見送り、改めて森に目を向ける。


 「ハル。一名、推定女がそっちに行った。こっちが終わるまで確保しておいてくれ」


 「了解、こちらでも確認していますが、これは・・・」


 「どうした?」


 常にはないハルの歯切れの悪さにユートは眉をしかめる。

 何か不審点があっただろうかと自信の記憶を探るが、すぐに思いつくことはない。

 再度ハルに問い詰めようとするも、稲妻のセンサーが魔物の接近を告げる。

 ここまで近づくとある程度機能するレーダーにより敵の数はおおむね把握している。


 「フォレストコングか」


 森の奥からわずかに見えた姿にレティクルを合わせていく。

 刹那、時が止まったかのような感覚の後に雷鳴から放たれた粒子は森から飛び出てきた 一匹のフォレストコングの右腕を吹き飛ばした。


 「止まるなっ!」


 今の音で後ろを振り向きそうになっていた彼女にマイクで注意を与えて、第二射を放つ。


 ユートの放った2射目は森からこちらをうかがっていた群れの斥候であろう個体の足の付け根あたりを撃ち抜く。

 多少の怯みは見られるが、そこまで痛手を覆わせた様子は見られない。

 魔物がはっきりとほかの生物と異なる点の一つがその回復力にある。

 多少の損傷は1週間もすれば元通りになってしまうという観測データもあるように魔物自体を殺すことは非常に難しいと言われている。


 「命中を確認。あのサイズ、速度で移動する相手に相変わらず恐ろしい精度ですね」


 「そんなことは今どうでもいい、がこの武器じゃパワーが足りんな」


 「そうですか?目標の命中箇所はきれいに消し飛んでいますが?」


 「お兄ちゃんが言いたいのはそう言った威力じゃなくて、文字通りのパワー。わかりや

 すく言えば敵を後ろに吹き飛ばす力ってことでしょ」


 ユートとハルの会話にリンが割り込んでくる。

 ユートが使った荷電粒子砲という武器は粒子を打ち出すといった性質上、粒子が当たっ た範囲はきれいに破壊することができるが、あまりにもきれいに破壊してしまうことでい わゆるストッピングパワーが足りないという欠点を抱えていた。

 例えるならば鋭い包丁でものを切ると抵抗なく具材は切れ、なまくらで切れば抵抗が大きいということに近い。

 武器としてどちらが優れているがは一長一短であろうが今回ユートが求めたのはなまくら包丁であった。


 「見ろ、傷口まで焼き切れてるせいか奴らほとんど出血もしていない。魔物だからほっとけば生えてくるかもしれないしな。ここで引いてくれるとありがたいが・・・」


 「それなら突撃砲を持っていけばよかったのに」


 「下手したら、あの女の背にいるフォレストコングを撃つ必要があったかもしれないからな。精密射撃ができるほうがありがたかったんだよ」


 そう言いながらちらりとサイドモニターに目をやると、先ほどの少女が不知火に追いつきそうになっているところだった。


 「あと2射してダメだったら、ミサイルで森を吹き飛ばす。その後不知火に合流して、不知火の速力で振り切るか。さすがに奴らも縄張りから離れすぎれば追ってこないだろうしな」


 「了解しました。そうなったら彼女はこちらで回収しておきます」


 「不確定要素をいきなり車内に入れるのはご遠慮願いたいが・・・ねっ!」


 さらに1射こちらに踏み出そうとした1匹の足元に撃ちこむ。

 森と道の境を中心にしばし両者はにらみ合う。

 フォレストコングは特定の条件下以外ではそこまで凶暴な魔物ではない。

 彼らがその凶暴性を発揮するのは、先ほども述べた通り、縄張りを侵されたときだけであった。

 確かにはじまりは縄張りの侵犯なのかもしれないがすでに彼らの敵は縄張りの外に出ている。


 「・・・引け。もう敵は縄張りから出ているはずだ」


 モニター越しに群れのボスから目を離さずユートはつぶやきながらサイドモニターに手を滑らせる。

 ユートの指の動きに連動して雷のバックパック上部のスリットが開き、小型ミサイルが左右で3機ずつ、その姿を見せる。

 大きな音を立てるとほかの魔物を寄せる危険もあるが、それでもここで相手が引かなければそれさえも辞さないという意思を込めるユート。

 対するフォレストコングはその多くが怒りを全身で表していたがその中でボスの目だけは理性の色を宿し、ユートと群れの力の差を見極めているようだった。

 にらみ合うことしばし、フォレストコングのボスがどう判断したかは定かではないが、まず初めにボスが、それに従うように一匹一匹と森の奥に帰っていく。

 最後の一匹がこちらを何度も振り返りながら森の奥に消えたことでトリガーを握っていた指から力を抜く。

 夜中にありえない大立ち回りをかましたことにため息をつく。


 「・・・ハル、こっちは終わった。そっちに合流する」


 「わかりましたが、急いでください。リンが「おおおおお、お兄!早く!急いで!ASAP!ハリーハリー!」」


 割り込んできたリンの声に嫌な予感を覚える。

 自他ともに認める機械マニアの妹があそこまで興奮するなど、ここ最近はなかったことだった。

 そしてああなった時ユートの妹は非常に面倒になることを彼は知っていた。


 「今行く」


 言葉少なく通信を打ち切り、進路を不知火に向ける。

 長い夜はまだ終わらないらしい。


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