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「地球より遥か遠く。光の早さでも何年かかるかわからないほど離れた距離にとある星が

ありました。アストラと名いう星です」


ポイントゼロへの旅を再会させた不知火の車内でユートとリンを前にしてソフィアは語り始める。

それは旧世紀に流行ったスペースオペラと言われる名作映画のようなある意味荒唐無稽な話しだった。


「アストラではwishという植物が自生しており古くからマナとともに人類が社会を築いていました。その手は深海を照らし、地表を超え宇宙を踏み越え深宇宙の果てに届こうとしていたといいます」


「それって星系を外れたところまで進出してたってこと?」


リンの言葉にソフィアは静かに頷く。

深宇宙と言われる宇宙に人を送り込むとなると今の地球では様々な問題がある。

距離、時間、食料、水etcetc……

アストラはそれらを克服していたと語るソフィアの言葉にリンは目を輝かせる。


「じゃあアストラの人間は地球近くまで進出しているってことか?」


「いえ。確かにかつてのアストラならば数十年単位の時間をかければいずれそれも可能であったでしょうが、そのようなことはこれから先、決して起こりえません」


「どうも話が見えないな」


「どんなに優れた技術でも、どんなに高性能な機械でもそれを操るのは人間なのです」


ユートの疑問に答えを返すことなくソフィアは遠くを見つめるように話を続ける。

人間。

ソフィアが言うには、地球のそれとさほど変わりがない彼ら、アストラ人もまた地球の 人々と同じで争いを始めたという。


「アストラの人々の中では当時、宇宙の果てを目指し続ける推進派とアストラに留まることを選択した抑止派とが台頭していました。推進派は抑止派をアストラに巣食うスロウスと呼び、抑止派は推進派をアストラの資源を無限に消費するグリードと呼びいがみ合っていました」


「怠惰と強欲、ね。どっちの言うことも全部が間違ってるわけじゃあないってのがなんともな」


「えぇ。理性的な人々はどちらかだけではなく両方がちょうどいいバランスであることが健全だとわかっていました。しかしそれぞれの派閥の過激派はその限りではなく、ちょっとしたいさかいで死者が出たことをきっかけにその抗争が激化したのです」


きっかけは抑止派の抗議デモの列に殺傷能力のないスモーク弾が撃ち込まれた事だった。

推進派がやったとされているそのスモーク弾から逃げようと人々が将棋倒しになり、結果として一人の少女の命が失われた。

そこからは報復に次ぐ報復が行われ、いつの間にかアストラは戦火に包まれた。


「一人の少女が死んだくらいで世界が戦火に巻き込まれるものですか?」


「アストラは地球よりマナが空気中に高濃度にあり、多くの人々がマナに感応していました」


ソフィアの言葉に疑問を呈するハルとは違い、ユートとリンはソフィアの言葉に顔をしかめる。


「その子の最後の痛みや恐怖がアストラに住む多くの人にマナを介して伝播したってこと?」


「マリアと呼ばれたその少女はその感応能力の高さから抑止派が旗頭としていた少女でした」


アストラの歴史のなかでも類を見ないほどに突出した力を持ったマリアが死に際に発した痛み、恐怖、そして何より怒りの感情がアストラ中の人々を狂わせた。

最初期には中立としていた理性的な人々も事件以降は積極的にそれぞれの派閥に加わり、互いを傷つけ合い、アストラは崩壊へのカウントダウンを刻み始める。

それほど時をおかず憎悪、悲嘆がアストラ中に溢れかえることになり、人々の理性は削られていく。

かくして普通ならばためらうであろうマナホールを始めとする超兵器の起動スイッチは次々に押され、そして。


「アストラという星はこの世界から、なくなりました」


「……星を、壊したっていうのか?住めなくなったとかではなく?」


「様々な要因が積み重なった上でですが、マナを利用した兵器がそれを為したのです。惑

星アストラがあった場所には粉々に砕かれたアストラと呼ばれていた惑星の残骸がありま

す」


そのソフィアの言葉を最後に、長い沈黙が不知火の船内を覆う。

惑星などという超巨大な質量を持った物体を砕く力が存在したという事実。

そしてそれが行使されたという衝撃にユートたちの思考が停止する。


「その兵器が再び行使される可能性はあるのですか?」


そんな中でいち早く復帰したのはハルだった。

いい意味でAIらしさを見せたハルの言葉に、しかしソフィアは答えを返さず、話しの続きを話始める。


「アストラが砕ける瞬間、星は、世界は悲鳴を上げました」


「星が?」


星が死にたくないと叫び、願った。

そしてマナはその願いに答えた。


「争いが激化する中で、人々はアストラのあらゆるデータ、そして種子を宇宙に保存する活動を行っていました」


「世界種子貯蔵庫みたいなものを宇宙に作ってたの?」


「はい。種子だけでなく様々な技術や生物の遺伝情報も含めてですが」


それは来る終末の日に向けて世界中の種子を保存している施設のグレードアップ版だとソフィアは語る。

宇宙に浮かぶアイランドのような施設に何重にもプロテクトをかけたうえでアストラの植物、生物情報はもとよりマナ技術などまでも保存しておくノアの箱舟。


「アストラの願いを受けたマナは、その箱舟、私たちはマザーと呼んでいましたが、そのAIに宿り宇宙の彼方へと出航しました」


原因たるアストラ人だけを乗せないままで出航したマザーは深宇宙探索のために活用されていた超長距離ワープ装置をマナの力で暴走させてアストラ人たちがまだ辿り着いてもいない新天地を求めた。


「そんなことが可能なのか?いくらマナが万能に近いといっても……」


「世界の願いだからってことだよね?」


「リン?」


「惑星の上の、動物だって、植物だって何にだってマナが宿ってるんならそれを収束させれば何だってできるよ」


リンの言葉にソフィアは静かに頷きを返す。

普通ならばユートの言う通り絶対に不可能なそれは、しかしリンの言葉通り世界中のマナを集めたことで可能になった奇跡のような産物だった。


「時間にして数日だけ開いたその超長距離ワープ航路によってマザー自体は滅びを回避し、目の前に現れた水の星を次なるアストラと定めたのです。ただワープ航路自体がマナによる不安定なものだったらしくすぐにマザーを追ったはずがここまで辿り着くのにだいぶ時間に開きが出てしまいましたが」


「じゃあ、私たちが向かってるのって……」


「ポイントゼロ、地球にマザーが降りた地点です」


そう言ったソフィアはユート、それにリンに視線をやって静かに立ち上がる。


「名乗りが遅れて申し訳ありませんでした。こちらの流儀で名乗らせていただくならばラニアケア超銀河団オド座銀河団エレン銀河群アストレア銀河マナトア系第5惑星アストラから参りましたソフィアと申します」


そうして未知との遭遇は為されたのだった。



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