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「OSを再起動、だめか。強制停止、反応なし。メンテナンスモードで再起動、くそっ」


 あたりをマナの青い光が漂いだしてから突然稲妻のジェネレーターの稼働率が不安定になり始め、今はいつマナジェネレーターが停止してもおかしくないような状況になっている。

 通信もつながらなくなってしまったので自分にできる限りの復旧方法を試してはいるが一向に治る気配は見せない。

 次第にGがかかっているときのように体に重さがかかっていく。


「ん?」


 突然機体に何かがぶつかるような音がして、次の瞬間不安定だったジェネレーターの出力がわずかに安定し始める。


「何が……「ユートさん!」」


 無線越しではなく機体の接触回線に直接ソフィアの声が飛び込んでくる。


「ソフィア!?今どこにいる?」


「あ、えっと稲妻の肩をお借りしています」


「ここは危険だ、早く不知火に戻れ!リンにそのまま離脱するように伝えてくれ」


「ユートさんはどうするのですか?」


 状況が状況だけに普段見せたことのない勢いでソフィアを強く叱るユートの声にひるむことなく静かにソフィアは言葉を返す。

 わずかに安定し始めたとは言え、稲妻が十全に動けるレベルには達していない。

 この状態で離脱するにしても、離脱しきる前に何かが起こる可能性の方が高いという現実にユートは一瞬言葉に詰まる。


「……自分のことは自分で何とかする。巻き込まれないうちに君は早く不知火と合流してくれ」


「ユートさん、これはマナにより重力を制御して超小型のブラックホールを再現するマナホールというマナ兵器と言われる物です」


 ユートが引く気がないことを察したのか、ソフィアは淡々と状況をユートに説明し始める。


「重力制御?マナにそんなことができるなんて聞いたことがないが」


「マナは、人の願いに強く反応します。今この星ではマナをエネルギーとして主に使って

いるようですが、それはマナの一つの側面にすぎません」


 今まで聞いたこともなかった話に口をはさみそうになるのをこらえてユートは話の続きを促す。


「カササギそれぞれの中心点を起点として発生するマナホールは半径3キロの球状に周囲の物を中心点に引き寄せ、圧壊させます」


 語られる超兵器と言えるレベルの破壊性能にユートも言葉をなくす。

 ただし、とソフィアは言葉を続ける。


「未完成なのか不完全なのかマナの制御が杜撰なのでそこまでの破壊力は出ないはずですが……」


「それでも俺をつぶすことはできるってことか」


「……」


 ソフィアの沈黙にユートは軽く息を吐く。


「で、それを知っててここまで来たってことは何か方法があるんだな」


「はい。今重力制御に使用されているマナの制御を奪還します。ただ、その場合相手のカササギの数に私のツインビーで対抗することになるので出力を補うために稲妻のマナジェネレーターの制御を私に明け渡してくれますか?」


「わかった、どうすればいい」


「ユートさん」


 本来ならば機密の塊の制御を明け渡すなどありえないことだがユートは即決した。

 自分が生き残るためもあるが、リンを悲しませないために。


「ま、あとでナージャに怒られることにするさ。時間がない。早く指示をくれ」


「わかりました。これから稲妻にアクセスするので許可をください」


 そのソフィアの言葉が聞こえた瞬間、稲妻のモニターに外部アクセスの許可画面が現れる。

 すかさず許可をすると稲妻のマナジェネレーターが唸りを上げ始める。


「稲妻のマナジェネレーターから生み出されたマナをツインビーで増幅、制御しマナホールの制御を奪い取ります」


 その言葉とともにソフィアの背部に浮いていたツインビーの二つのフィンが回転数を上げていく。

 効果は抜群だった。

 回転数の高まりとともに稲妻からも青い光が漏れ出し、徐々に光が強くなっていき、その光は周囲を青く包んでいたカササギから発する光を包み込んでいく。


「……お、に……お兄!大丈夫?」


「リンか」


 不知火との通信も復旧し、稲妻が発していたエラーメッセージも収まっていく。


「お兄、そっちは?大丈夫なの?」


「あぁ。ソフィアのおかげで何とかな」


「そうだ、ソフィアは?」


 そのリンの言葉にユートは背もたれに背を預け、視線を上げる。

 視線の先ではソフィアが依然として険しい表情を浮かべながらマナホールの中心点を見つめていた。

 

「ソフィア、どうだ?大丈夫そうか?」


「え、えぇ。この星の不完全な装置で演算を代替しようとしたからなのか、マナ干渉への

防御が脆弱だったので多少の出力差は何とかなりました。じきに収まると思います」


 そう言ったソフィアの声はどこか影を含んでいた。


「何か気になることでもあるのか?」


 ユートの言葉にソフィア考えるようにありえないと口を開く。


「マナのエネルギー利用が主流のこの星のレベルでは重力制御をなんてオーパーツのはずなんです。ユートさんはマナの本質に関して何か知っていますか?」


「本質?エネルギーっていう答えは不正解か。リンはどうだ?」


「……マナを生み出す植物の名前はWISH。この名前の由来や命名者は今も判明していない。数ある説の中でも奇説とされているものの中にWISHかマナ自身が自身の本質を何らかの方法で人類に伝えたというものがあるんだ」


 それは数多にある学説の中でも異端とされている1説だった。

 それでもこの説がリンの頭に残っていたのには理由がある。

 

「WISH、マナは記録にある限り、ある日突然全世界でその名前が当たり前のように使われ始めているの。誰かというよりは人類全員が初めからそれを知っていたかのように」


リンの言葉にソフィアは軽く頷く。


「そしてマナはわずかな研究の後に、当時人類の多くが研究していたエネルギー問題の解答としての性質を示しました」


 人間はわずかな期間でマナをエネルギーとして利用することに成功し、今もマナに対しては多くの研究が行われている。


「待って、じゃあ私たちがマナの性質を発見しているんじゃなくて、私たちが願った性質をマナが作り出しているってこと?そんなことって、それじゃあマナの本質って」


 そのリンの言葉にソフィアは肯定する。


「WISH、マナ、その本質は願い。それを理解して研究をしていれば地球圏はもっと大きく発展していてもおかしくないのです」


 そう言ったソフィアの表情はここではないどこかを懐かしむようなものだった。

 そのソフィアの向ける視線の先ではカササギからあふれ出した青い光が今にも消えそうに明滅している状況だった。


「とりあえず移動しよう。本質云々は安全な場所に行ってから続きを話せばいいだろう」


 そう言ってユートが稲妻を立ち上がらせようとする。

 マナホールの影響を脱しつつあるのか稲妻はユートの指示に従いゆっくりと立ち上がる。

 エラーチェックを走らせながらモニターにより周囲の状況を確認する。


「何とかなったか」


『終わってもらっては困るんですよねぇ』


 突如聞こえたノイズ交じりの通信機越しの聞き覚えのある言葉が聞こえた瞬間、収まり始めていたカササギの光が再び立ち上り、地面が不気味に振動し始める。


「これはっ」


「重力場増大中!お兄また数値が上がってる!さっきより増大する速度が速い」


「ソフィア、離脱するぞ!」


 ユートが呼びかけた瞬間、周辺から音が消えた。

 一瞬の静寂の後、さらりと砂が風に乗り空を翔る。


「ソフィア、捕まれ!」


「くぅっ」


 風はどんどん強くなりカササギが作り出した重力場の中心に向かって吹き始める。

最初は砂を軽く吹き飛ばすだけだったが、次第に強くなりマナフレームさえも自由に動けないレベルまで風が強くなっていく。


「吸い寄せられる!ソフィア、どうなってる?」


「マナホールが再起動しています。先ほどより対マナ干渉力が強固に、これは!」


 ソフィアの声がユートに届いた瞬間、空がひとつ大きく胎動する。

 思わずそちらにメインカメラを向けると、そこには暗闇が広がっていた。


「光をも飲み込むブラックホールを地上で局地的に再現したものがマナホールです。光が吸われてしまうからマナホールは言葉では表現しづらい黒色をしています」


「光まで飲み込むんだったら俺たちもとっくに吸い込まれてるんじゃないのか」


「ブラックホールをそのまま再現したらこの星も一瞬で吸い込まれています。そうならな

いためにマナで効果範囲を制御しているはずです」


 そう言ったソフィアの言葉を否定するように稲妻がずるずると暗闇に引きずられていく。


「の割には俺たちも引きずられているが!」


「おそらくわざと制御を甘くして周囲を引きずり込もうとしているんです。ツインビー出力を上げてください」

 

 そう言っている間にも稲妻は引きずられ続け、もうあとわずかで暗闇に引きずり込まれようとしている。

 ソフィアの背後に浮かぶツインビーは先程より高回転で唸りをあげるものの、若干の抵抗にしかなっていない。


「ソフィア、そっちはどうなってる?」


「先ほどより格段に出力、制御力が上がっています。こうも対マナ干渉力が高いと出力の

差が如実に……」


 顔を如実にしかめながら、眼前に浮かぶ半透明ディスプレイを操作しながらソフィアは言葉を区切る。


「冗談じゃない。ハル、稲妻のリミッターを解除しろ!」


 ユートの言葉に稲妻内部から高温が響き、合わせて機体を不規則な振動が揺らす。

 稲妻のコックピットには危険を知らせるアラートが鳴り響き、モニターは赤く染まる。

 一方で先ほどまでずるずると引きずられていた稲妻が動きを止める。


「どうだ、ソフィア?」


「何とか、今のところ拮抗していますが……」


 この出力がいつまで続くのか。

 ソフィアは言葉を飲み込む。

 状況は絶望的だった。

 この拮抗はリミッターを解除してやっと作り出したものだが、マナフレームを含め機械というのはリミッターを外して長時間正常に稼働するようにはできていない。

 つまりいずれ稲妻のメインジュネレーターが壊れ、この拮抗は終わり、二人は死ぬ。


「きゃっ」


 稲妻の足関節から火花が飛び散り、糸を切られたマリオネットのように崩れ落ちる。

徐々に引きずられていく力に抗うように腕で地面を掴むがそれでも20トン近い機体が引きずられていく。

 青い光はすでに目の前に迫っていた。



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