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「稲妻、射出」


リンの言葉とともに稲妻が後部ハッチから砂の海へと飛び出していく。


「ロックオン警報」

「回避、面舵!」


 間髪入れずに飛んでくる砲弾をハルの車両制御で避けながら、稲妻とは距離を取る方角に離脱していく。


『リン。後ろの小隊は任せるぞ』


「アイサー。お兄はこっちに注意が向かないように引き付けておいてね」


 リンの軽口が終わらないうちにマナの影響で無線が途絶える。


「敵の砲撃にこちらをユートと引き離そうとする意志を感じます」


「望むところ!後ろの奴らを片付けるよ」


 リンの言葉とともに不知火の速度が一段階上がる。

 砂煙を上げながら加速した不知火は緩やかに蛇行しながら後方から向かってくる小隊に向かう。


「ランダム回避!」


「舌を嚙まないようにご注意を」


 ハルの言葉とともに不知火の機体を衝撃が揺らす。


「敵方、後衛1機、前衛2機構成。前衛の2機が左右に分かれてこちらを挟もうとしています」


「面舵!ばらばらになるんなら各個撃破チャンス!右からやるよ」


「リンさん、近接戦ではさすがにマナフレームの方が有利ですが……!」


 ソフィアの指摘通り、マナフレームの機動性に対して陸上戦艦の不知火では機動力が足りなさ過ぎて懐に入られたら一方的に叩かれる。

 マナフレームに対して不知火の有利な点はその装甲の厚さ、火力、そして速度。

 装甲の厚さはよっぽどの武器を持ち出さない限り、マナフレームの把持できる武器では不知火は簡単には沈まない。

 対して不知火の天頂部に積まれた2連装300ミリレールガンはマナフレームの装甲をいともたやすく食い破る。

 つまり不知火の勝ち筋としては、アウトレンジからのワンサイドアタックで相手を吹き飛ばすことが一番だろう。

 ただもちろん遠距離攻撃は距離が離れれば離れるほど回避の余裕ができることになる。

つまりここから行われるのは敵の攻撃を回避できて、自分の攻撃を叩き込める距離、言い換えれば間合いの取り合い、のはずだった。


「ハル、火器管制切って。主砲のコントロール、頂戴」


「……よろしいのですか?」


 一瞬のハルの沈黙は明らかにソフィアを意識していた。

 できるのかということではなく、ソフィアに見せてもいいのかという確認。

 火器管制とは簡単に言えばレーダーなどの観測機器でロックオンした目標に向けて、目 標の動きなどを予想、補正して攻撃を加える装置の総合的な呼び方である。

 それを切るということは観測機器などの補助を得ず、自分の感覚のみで敵を狙うということに他ならない。

 しかし、彼我の交戦距離は10メートルなどではなく遥か彼方、到底当たる距離ではない。

 普通ならば。


「ソフィアには教えないとでしょ。猟犬には牙と爪があるってね!」


 そのリンの言葉とともに、リンの前のコンソールに操縦桿がせり出してくる。


『YouHaveControl』


「あーい、はーぶ、こんとろーる!」


 そう言ってリンが操縦桿を握った瞬間、不知火の天頂部に備えられた連装砲がリンの操縦桿の動きに応じて動きを見せる。


「ハル、正面の敵機との距離を3000メートルで面舵、そのままその距離をキープ!」


「アイマム。第一種戦闘機動。距離6000……5500」


 一瞬、体を押し付けるような慣性とともに不知火の機関がうなりを上げ、その巨体を前に押し出していく。

 アウトレンジの不知火に対してどう距離を詰めるかという戦いになると考えていたカササギのパイロットは自ら近づいてくる不知火に一瞬困惑を見せるが、そこはエース部隊の一員。

 すぐに距離を詰めながら僚機と連携して不知火を包囲するように機動を取る。


「距離3500、面舵一杯」


 先ほどよりも強い力がリンたちの体を座席に押し付け、巻き上がる砂が一瞬不知火の艦 影を敵の視界から消し去る。

 瞬間、リンの指がトリガーを引く。

 厚い装甲を伝って響く轟音は二つ。

 わずかな時間差を経て連装砲から撃ちだされた弾は、巻き上げられた砂を吹き散らし、わずかな時を置いて不知火から一番遠くに位置していたカササギを撃ち抜く。

 ロックオンアラートもなくカササギの右腕を奪った初弾に固まってしまった機体を次弾が貫き、そのままカササギはスクラップの仲間入りをする。


「一番遠いからって油断したね、まずは一つ!」


「前方の敵機、さらに接近」


「主砲、再装填!近接防御、艦尾機銃のコントロール」


 リンの命令で主砲は装填作業に入り、リンは機銃のコントロールを手にする。


「後方の敵機より、熱源反応。ミサイルと推定」


 主砲の発射により、わずかに速度が鈍った不知火に対して前後で挟むような機動を取っていたカササギがそれぞれ速度を上げる。

 さらには足止めのためか、不知火の進行方向から見て後方の機体からミサイルも放たれる。

 垂直にカササギの発射装置から発射されたミサイル群は天頂部から不知火めがけて降り注いでくる。

 戦車は正面の装甲は厚いが、天頂部はそうでもない。

 故に古来より戦車をつぶすならば天頂部からのトップアタックか、地雷と相場は決まっている。

 不知火は分類上戦車というわけではないが、構造的にはやはり側面の方が装甲が厚く、逆に上下は比べればという言葉がつくが装甲が薄いことに間違いはない。


「フレア射出。その後、発射管にはアレを詰めておいて。主砲の装填が終わったらコントロールを戻して」


「……まさかこんなに早く使うことになるとは。フレア射出」


 ハルの言葉とともに不知火の両脇に設置された発射管から高温を発しながらフレアがばらまかれる。

 何発かのミサイルはフレアにかかり逸れていく。


「ミサイル、依然2発接近。仰角80度。7時の方向」


「見えてる、よっと!」


 言葉とともに引かれたトリガーにより艦尾の10センチ近接防御機銃がうなりを上げる。

 砂煙を引き裂く火線が高速で接近するミサイルをたやすく食い破る。


「っし!「敵機直上、急降下」」


 息つく間もなくミサイルの爆炎を切り裂いて前方のカササギが距離を詰めてくる。

 ミサイルの対処に気を取られた隙をついて跳びあがったカササギは、重力という加速装置を用いて、さらにその速度を上げて不知火に接近してくる。


「リミッター解除!取り舵!」


 主砲の装填はまだかかることをモニターで確認し、張りあげたリンの声に呼応するように、不知火の機関が一時的に安全装置を切りその巨体が跳ねるように加速する。

 並走するような軌道を描いていた不知火はその爆発的な加速力をもって前方のカササギに急接近する。

 自ら接近してくるとは考えていなかったカササギの動きが一瞬の迷いを見せた瞬間に不知火はカササギと交差するように位置を変える。


「ネット射出!」


 リンがハルに発射管に装填するように言った物。

 以前ハルとの口喧嘩の時にやり玉に挙げられた対マナフレーム用電磁ネット。

 交差する瞬間にリンの命令で放たれたそれは、不知火のすぐ上を通過したカササギに絡みつく。

 カササギを絡めとったネットは電磁パルスを発し、獲物の機能を一時的に停止させる。

マナフレームクラスの兵器では電磁的防御もしっかりしており、電磁ネット程度の電磁パルスではすぐに復旧してしまう。

 しかし、今はその一瞬が喉から手が出るほど欲しい。


「YouHaveControl」


 主砲の装填が終わった瞬間、轟音が動きを止めたカササギを撃ち抜く。

 動き回るカササギさえも捉えるリンの射撃の前には動きを止めたカササギは七面鳥より簡単な的だった。


「ほらぁ!やっぱりいると思ったんだよねネット」


「私は別にいらないとは一度も言っていませんが?」


「ん?そうだっけ?」


 そう言いながらリンは最後に残されたカササギに狙いを定める。

 挟み撃ちで仕留める算段を立てていたカササギにとって早々に2機の僚機が落とされることは想定外だったのだろう。

 無理やり距離を詰めようと最低限の回避軌道で近寄ってくるカササギが僚機の仲間入りをするのはそう遠いことではなかった。


「どーよ、ソフィア」


「リンさん、あなたは……」


 すべての敵が沈黙したのち、リンは座っていた椅子をソフィアの方に向け、まさにどや顔と言った表情を見せる。

 ソフィアはそんなリンに何かを言おうとして、すべてを言わずに口をつぐむ。

 今言うべきことではないと口をつぐみ、いつもの笑みを浮かべ、柔らかく手をたたく。


「よぉし、ソフィアに私のすごいところを見せたことだし、おにぃの方に行ってあげるか」


「想定時間より少々の遅れが発生していますが」


「はいはい、急ぎますよー」


 リンの言葉とともに、車体のチェックを行っていた不知火がゆっくりと動き出す。


「調子はどうよ?」


「残弾には問題ありませんが、安全装置を解除した影響で車体と機関にいくつかのエラー

信号が出てい「おっけい。なら行くよ!全速前進だ!」」


「おっけいではありませんが?」


ハルの指摘は砂漠を吹く風にかき消されたようにリンの耳には入らなかった。



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