第3話
俺とステラは、気づいたことや気になった点を互いに話し合いながら、地道な調査を続けていた。
そんなある日――調べ始めてから一か月ほど経ったころ、ステラがふと声を上げた。
「あっ、ラテル。この病気って……あなたが前にかかった病気に似てない?」
「えっ? どれが?」
ステラが持っていた本をのぞき込むと、彼女は少し迷った様子で指を差した。
「ほら、ここ……この症状、ほとんど一致してる気がするの」
確かに、発症の仕方や症状の進行、そして医師たちの対処法まで、俺の病とよく似ている。
「あぁ、確かに……。それじゃあ、まずはこの病気について詳しく調べてみよう」
俺がそう言うと、なぜかステラは驚いたように唖然としていた。
「……あれ? 何か変なこと言った?」
「ううん、そうじゃなくて……ラテルって、もっと落ち込んでるのかと思ってたから。こんなふうに前向きに言ってくれて、ちょっと安心した」
その言葉に、少し照れくさくなりながら、俺は話題を変えるように口を開いた。
「そういえば、俺の出身とか年齢って……気になる?」
ふとした静けさの中、そんな言葉が口をついて出た。
ステラは少し驚いたように目を瞬かせたが、やがて控えめに首を振った。
「うん……正直に言うと気になる。でも、ラテルの事情もあるし……」
その遠慮がちな優しさが、かえって胸にしみた。
「ご、ごめん……。言って、ステラに距離を取られるのが……怖かったんだ」
俺が本音を打ち明けると、ステラは少しだけ目を見開いて――それから、やさしく微笑んだ。
「ラテルが無理して話すことなんてないよ。言いたいときに、言いたい分だけでいいから」
その笑顔に、心の重りが少しだけ軽くなる気がした。
「……いや、今言うよ。俺の出身は、この地の領主の家。……とはいえ、次男だけど。年は、17歳」
それを聞いて、ステラは目を丸くしたが、すぐにふっと笑みを浮かべて言った。
「そっか。でも、それでラテルがラテルでなくなるわけじゃないよね?」
その言葉は、まるで魔法のように胸に沁みた。
「あ、ありがとう……。貴族だって知っても、態度を変えないでくれて」
「そんなこと、気にしてたの?」
「う、うん。今までの人たちは、俺が貴族って分かると、だいたい距離を取るから……。平民は貴族に逆らったら罰せられたりするし……」
「そ、そうなんだ。ここの貴族は、そういう人たちなんだね……」
ステラは少し驚きつつも、真剣に話を受け止めてくれた。
そのやり取りの中で、俺の中にあった「身分の壁」は、少しずつ崩れていった気がした。