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Dear Conquers ~征服者たちよ~  作者: 下原知邪
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4 傭兵としての生活


「傭兵ギルド」と聞いて、どんな生活を想像するだろうか。

毎日劣悪な環境で戦場を走り回っていると思われているのだろうか。



そんなことはない。

傭兵ギルドは案外居心地がいい。



まず、傭兵ギルドに入ると支給品と数日暮らせる金が渡される。

基本的に傭兵ギルドに入るような人は皆無一文だ。せっかく手に入れた新しい手駒を、早々に餓死などで失いたくないのだろう。



この渡される金だが、「もらえる」わけではない。「貸してもらえる」と言うほうが正しい気がする。

この金は返す必要は基本無いのだが、傭兵ギルドから脱退しようとしたときに返す必要がある。


…….もとの金額の数十倍ほどに膨れ上がった利子とともに。



ちなみにこの金額は戦場で賞金首を一人捕まえてようやく払えるくらいだ。

だから、ほとんどの人が一度傭兵ギルドに入るとそこから抜け出せない。そして、ほとんどの傭兵は金を返さなくていいのだ。どうせ返す前に死ぬのだから。




ギルド加入と同時にもらえる支給品は、短剣と簡単な防具。最低限戦闘へと向かう装備を揃えてくれる。

もちろんこれらは「無いよりはマシ」なものばかりだ。正直あまり役立ちはしない。命が惜しいなら、もっと良い武器や防具を揃えたほうがいい。



……そのためにも戦場に出る必要があるのだが。



これは余談だが、私は傭兵にしては良い防具を持っていると思う。軽くて身動きがしやすい。

しかし、これは私は買ってはいない。「戦場でひろった」のだ。


戦場とは、戦闘が終わればそこはお宝の宝庫だ。防具や武器はもちろん、慌てて逃げたやつが捨てていった食糧や日用品まであるのだ。勝ち戦に参加できれば、これらの物を拾うことは許可、されているかどうかは知らないが、作戦に支障をきたさなければ何も言われない。


私の武器や防具、その他諸々は基本的に拾い物が多い。もちろん食糧や消耗品は買っているものもあるが、節約するためにはタダで手に入れることができるものは、手に入れる。それが基本だ。




多くの傭兵は(私から見れば)金遣いが荒い。

それもそうだ。明日には戦場で散ってしまうかもしれない命。お金を貯めておく意味などあまりないのだ。


それもあって、傭兵ギルドの中には傭兵用の様々な娯楽施設がある。


酒場や賭博場はもちろん、風呂や小さな舞台まで、傭兵ギルドの敷地は一つの小さな「街」とも呼べるかもしれない。聞いた話だと、傭兵ギルドが運営する都市まで存在するのだとか。


日々賑やかなここの景色は、きっと多くの人のイメージとはまったく別のものだろう。いや、利用者の気性の荒さは想像通りかもしれない。



ちなみに、その街で働く人のほとんどは女性だ。理由は、まぁなんとなくわかるだろう。







この空間の中で私が唯一の「趣味」、というかやっていること、それは「貯金」だ。




自分には密かな夢がある。

それは「外の世界を見てみたい」という、なんとも情けない夢だ。


今まで自分は孤児院の中で過ごし、そこが燃えた後はすぐに傭兵ギルドへの仲間入り。いわゆる「普通の生活」というものを、私はこの目で見てみたいし、実感してみたいのだ。それはどれだけ幸せなものなのだろうか、と。



このままのペースだと、おそらく30年後くらいにようやく傭兵ギルドを出るだけの資金が貯まる。もちろん、傭兵としてそれだけ長い時間生き残ることがどれだけ不可能に近いのか、それは身にしみて分かっている。ただ、もし生きれたときに自分は後悔したくないのだ。



そんな普段からケチな私にも傭兵ギルドは優しい。

なんと傭兵一人ひとりに個室が与えられるのだ。


大きさは人が一人直立に寝転ぶと、左右に少し寝返りがうてる程度。このような箱が縦横に広がっている空間はなんとも異様な光景だ。

「棺桶の長屋」と傭兵達の間で呼ばれるこの光景、確かにいびきなどの音は全部筒抜けだが慣れればそこまで問題はない。むしろ、視覚的に一人の空間を作れること、これには感謝しかない。それに体が小さい私にとってはここは案外スペースがあるのだ。




この空間で私はよく本を読んでいる。別に勉強したいからではない。本を読むことはお金がかからないからだ。



傭兵ギルドにはそれなりに本があり、時間があるときにはそれらを読むようにしている。ありがたいことに、孤児院で困らない程度の読み書きは教えてもらったから、多少は本の内容はわかる。もちろん内容が難しいものは全然わからない。でも、それで暇な時間は金をかけずに過ぎてゆく。それだけで私にはありがたいのだ。





そうやって時間をつぶしながら、時が過ぎてゆく。


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