3 経緯
私は好きで傭兵ギルドに入ったわけではない。
というか、傭兵ギルドに率先して入るやつなんて物好き以外いないだろう。
傭兵ギルドに入ったら、戦場で散る運命はもう決まっているようなもの。それを分かっていても、どうしても入らなければならない理由があったわけだ。
もともと私はとある街の教会で育った。いわゆる「孤児」ってやつだ。
親はもちろん会ったことなど無いし、周りみんなそんな奴しかいないから親の顔なんて気にかけたこともなかった。
だから、世間から「可哀そう」だと向けられる目線も、自分にとってはそれが「普通」なのだから、何も問題なかった。
確かに孤児院は裕福ではない。
食事だってパンと薄味のスープぐらい。少しでも肉が入ったスープがでればそれはもうごちそうだった。それもあってか私の身長は他のまわりの誰よりも低いのだろうか。
服だって新調することなんてありえない。多少破れていても新しく服を買う、なんて選択肢は無かった。
今となってはそれがどれだけみじめな境遇だったかわかるが、別にそれが悪いと思ってもいなかったし、むしろ同じくらいの年齢の奴らと一緒にご飯を準備したり、掃除をしたり、好きなだけ遊べる素晴らしい時間だった。今思い返してもひどい境遇なんて思ってもいない。
しかも、神父様たちは隙間時間を見つけては、今後役立つからと言って読み書きと計算まで教えてくれた。今後商売ができるようにと孤児院から出た後のことまで考えてくれたわけだ。
一般的にどれだけの人が読み書きができるかはしらないが、傭兵レベルで読み書きができる人なんて2,3割程度だろう。掲示板の情報が理解できるのは、この時のおかげだ。
でも、楽しかった「普通」は唐突に終焉を迎えた。
何もない澄んだ晴れた日。
外が騒がしいと思っていたら、いきなり自分たちが暮らす教会が燃えたのだ。
いや、教会がある街すべてが火の海になったのだ。警報音が聞こえたと思うと、街中のいたるところから爆発が起こる。そして、松明を持った兵士が次々と建物へ火をつけてまわっていった。
一瞬で右も左も火の海となる。
切り捨てられる男。連れていかれる女。道に座り泣き叫ぶ少女。
迫りくる火から逃げ、命からがら街から脱出することができたものの、その時教会の人とははぐれ、結局今まで誰とも再会を果たせていない。
今でも街だったものが三日三晩燃え続けている姿は夢に出てくる。
今まで当たり前だったものが、これほど簡単に崩れる。知っていたつもりだったのだが、いざ現実になると中々受け止めるのが難しかった。
未だにあの火の海に沈む故郷の姿は未だに夢に出る。
それから隣町へと避難したわけだ。
しかし隣町に越したとしても、そこの身分証は持っていない。
身分をあかせないこと、それはもうこの世では「犯罪者」と同じ。今まで身分を明かせないような人達に散々街を荒らされた結果だ、当然とも言える。運がよければ牢屋生活だが、基本は首が飛ぶ。身分を明かせないだけで人生終了なのだ。これが常識だ。
そのため、身分証を作らないといけない。
しかし、身分証が発給される条件はそこそこ厳しい。
当たり前だ。毎日どこかで戦争が起きているのだ。怪しい人なぞ街にいれるわけにはいかない。
「隣街の孤児」なんて、そんな怪しい人が身分証なんてもらえるわけがない。
傭兵ギルドや娼婦ギルドをのぞいて。
傭兵はいつでも人手不足。多少荒れている人だとしても、戦場だとむしろありがたいくらいだ。手駒に使えれば、身分や出身などなにも関係ない。
身分を示せない人を一つの施設に囲い込む。それが、傭兵ギルドのもう一つの目的でもあるのだ。
私は傭兵ギルドに入った。
孤児で身寄りのないために身分を明かせない私は、寧ろその道しかないのだ。
いや、傭兵ギルドに入る人を増やすためにこのシステムが作り出されたとまであると、私は勝手に思っている。
これには思うこともあるが、話してるときりがないだろう。
とにかく、私は傭兵として今を生きているのだ。