タンスが開いた
「お、タンス開くの」
寝室に入ってまずサファイアはタンスへと手を掛けた、すると先程ととは打って変わって普通に開いた。
「やっぱ魔術かかっとったか」
「何でわかんだ?」
「いや、儂ら二人で全力込めて開かんかったからな。儂の力が思った以上に無くなっとるのかと思ったんじゃが、さっき扉を蹴破れたしの……まあ魔術じゃったんじゃろ。鍵はさっきの仏像じゃろうな」
鍵穴はダミーで、魔術的に閉まっていたという事らしい。
「どうせこの中に隠し部屋に続く何かがあるんじゃ、とっとと探すぞ」
「ああ……だから最初来た時タンスが開かなくて焦ってたのか」
「は? そうじゃが? 逆にむしろ何で貴様が必死にならんのか分からんかったぞ?」
「なるほどな、それはすまん」
タンスの中には行っていたのは、手のひらサイズの木箱だった。
サファイアはそれを手に取り蓋を開ける。
「うっわ」
それを見た時、俺はついそう口に出してしまった。
中に入っていたのはへその緒だ、それも一つではない……二つだ。
「……これは一体?」
どういう事だろうか。そんな疑問が俺の頭を埋めていく。
「ふむ……どうじゃろうな。じゃが、下に降りれば分かる事じゃろう」
「………………?」
サファイアはクローゼットを開けるとカーペットを剥いだ。
しかしカーペットの下には何もなく、ただの床だ。
「そっから下に降りれるのか?」
「そうじゃと思うが……確信を持てんが多分魔術を使わんといかんな」
「ああそうなの、じゃあとっととやってくれ」
「無理じゃ」
「え?」
「これは人間の魔術じゃしな、今の力じゃと解析がせいぜいと言ったところじゃ」
サファイアはそんな事を言う。
「恐らくじゃが、このへその緒を触媒に下に続く穴を開く魔術なんじゃろうがな」
「……じゃあ詰みじゃないか? それとも壁でも壊すか?」
「いや、恐らくじゃが壁も壊せんじゃろ……タンスと同じような奴じゃしの」
「なんか……お前銀河の覇者なのにダメダメだな」
「弱体化しとるんじゃからしゃーないじゃろが! さっきのタンスに魔術が掛かっとるかどうかすら確認するまで確信が持てんほど、知覚にも影響が出とるしの!」
そう言ってじたばたするサファイア、その姿に覇者の威厳などは一切ない。
「で……どうするんだ?」
「あまり使いたい手段ではないが、貴様に魔術を使ってもらう事にする」
「……俺に使えんのか?」
「教えられて理解する脳があれば動物園の猿でも出来る」
「なるほどな、じゃあ早くやるぞ」
魔術を使うというのにはそこそこワクワクという感じだ。アニメや漫画の様な事が出来るのならばやってみたいというのは誰でも抱く感情だ。
「言っておくがの、これは貴様の正気を失わせる可能性のある危険な行為じゃぞ?」
「ちょっと話聞かせてもらっていいか?」
「……いやの、人間と魔術というのは非常に相性が悪くての。使うと精神の汚染が起こって最悪廃人コースなんじゃが」
「………………一旦別の手段を探さないか?」
「一応極めれば触手の召喚なんかも出来――」
「――早く魔術を教えろ」
「……貴様はそれでいいのかの?」
「精神汚染がなんだ、触手が俺を待っている」
「いや、まあちょっとずるい手を使った気もするが……まあいいかの」