子供部屋
部屋の正面にある二つの扉、その階段に近い方の扉を開ける。
そこそこの広さの部屋には道路側に窓が一つ、小さいベットに勉強机、クローゼットに小さな机。恐らく子供部屋だろう。
「儂はベットを調べるぞ」
サファイアはちょうどいいぐらいに収まる大きさのベットに飛び込む。
「じゃあ俺は机でも調べるか」
板の下に戸が一つ、その右側には三つの小物入れが縦に並んでいる……よくある勉強机だ。
板の下の戸を開けると、中には鉛筆や消しゴムやハサミや定規が乱雑に入っていた。その右側の三つの物入れを調べるが上の二つは空だった、しかし一番下には面白いものが入っていた。
「日記帳か」
小さい鍵がかかっているが、開けられそうなものは無かった。
少し申し訳なさを抱きつつ、ハサミで鍵の周りを切って中を読む。
「………………ふぅん」
日付は十年前の物で、事件があった時期に書かれた物らしい。
書かれている内容の大体が友達と遊んだことや小学校であった事で、小さい子供の日記という感じだったのだが……少しだけ毛色の違う部分があった。
「……あの仏壇、何かあるのか?」
それは先ほど調べた、夫婦の寝室にあったクローゼットについての物だった。
この日記を書いた子があの仏壇に手が当たり仏の像が少しずれたらしい、それがばれた時いつもよりもお母さんが怖かったと書かれている。
「……まあ、ずいぶんと信心深いお母さんだったんだな」
寝っ転がっているサファイアに目をやる。
「そっちなんかあったか?」
「ぬいぐるみぐらいかの」
「そうか」
俺はサファイアに日記の事を話した。
「ふむ……」
「どうする? 調べに行くか?」
「いや、全部の部屋調べてからにしようかの……隣もあるし、そこのクローゼットもまだじゃしな」
「じゃあそうしようか」
俺達はクローゼットに手を掛ける。
ガララッというローラーの音と共に戸が開き、中の物が姿を現す。
中には赤のランドセルと、黄色の帽子、リコーダーなどが入っていた。
「お、ランドセルに名札着いとるの」
俺は名札の名前を見る。
ひらがなで『ひょうこ』と書かれており、小さい文字で2年1組と名前隣に書かれている。
「他には……特になさそうだな」
「そうじゃな、隣行くかの」
俺達は部屋を後にした。
廊下に出て隣の部屋のドアノブを掴むが、回るのに開かない。
「……恐らく内側になんかつっかえとるんじゃないかの?」
「ああ、なるほどな」
どうするかな、と思っていたらサファイアが少し後ろに移動した。
「おい、貴様少しどくんじゃ」
「え?」
俺は言われた通りに扉の前からのく。
するとサファイアは扉に向かってダッシュし、飛び蹴りをかました。
ベキィッと木の板がへし折れ、ドンッという着地音と共にサファイアがこちらにブイサインを送って来る……無事、器物破損で犯罪者である。
「フッフッフ……名誉挽回じゃな」
埃の舞う部屋の中でサファイアはニカッと笑う、先程タンスを開けられなかったのが本当に悔しかったらしく、今回力技で解決できたのが大変嬉しいらしい。
「えぇ、壊す前提やめるって言ったじゃんか」
「結局力こそ正義なんじゃよ! ワシは強者なんじゃからな!」
「いや、さっきタンス開けられてなかったじゃん」
「黙るんじゃわ人間風情が、さっきはその……あれじゃい。調子が悪かったんじゃわ! はぁーやっと力の使い方思い出したわい……フッハッハッハ」
……まあいいか、別にこいつ人間じゃないし。触手だから何しても正解だ、触手はいつだって正義だ。
さて、部屋の中だが……何も言及すべきものが無い、何故なら何も無いのだ。
窓が道路側に一つあり、クローゼットも一つ、広さはそこそこ……つまり先程の子供部屋と同じ作りだった。
あるのはこの部屋を閉ざしていたであろう板だ。
扉のある壁には穴が複数開いており、俺の目の前に散乱する折れた板には釘が複数ついている……恐らく先程まで壁に打ち付けられていて、部屋に誰も入れないようにされていたのだろう。
「……ふむ、クローゼットの中も空じゃ」
いつの間にかクローゼットを開けていたサファイア。
「まったく……こりゃ本当に胸糞悪いの」
サファイアはそんな事を一人、呟いた。