微妙な違和感
玄関に戻り、階段を見上げる。
傾斜は緩く手すりも付いており、安全性はそこそこといったところだろうか。
階段を上り切ると一つの廊下があり、右に伸びていた。
階段を背にし正面の壁に付いた扉を数えると四つ、反対には二つある。
「こりゃ調べがいがありそうじゃ」
階段の正面にある引き戸を開けてサファイアがそんな事を言った。
中は物置になっていた様で、使われない衣類や掃除機、ハンマーやのこぎりなどの大工道具なんかが置いてあった。
「完全に埃被ってるな」
「まあ住人くたばっとるからの」
ガサゴソと人んちの物置を物色する俺達、やってることは泥棒とそう変わらない。多分見つかったら普通に逮捕されるな。
「うーん、無いの」
「なんか面白い物でもあればいいんだけどな……赤ちゃん用具がなんか残ってるぐらいか」
赤子用のおもちゃが入った箱があった、中にはおしゃぶり四個にカラカラとなるおもちゃが二つ、哺乳瓶二つ。
「お、こっちもこっちで面白いものが見つかったぞ」
「何だ? 俺のベビーグッズより面白いんなら見してみろ」
「キモいからおもちゃを両手に持ってカラカラするな気持ち悪い」
俺は手に持っていたおもちゃを箱の中にしまう。
「フッフッフ、大人のおもちゃじゃ」
サファイアが見せてきたのはピンク色の、ひもの付いた電気を入れると振動する玩具だった。
「こら、ばっちいから早くしまいなさい」
「ばっちいって、なかなかな物言いじゃの」
「汚いだろ普通に、どう使われたかもわかんねえし…………そういやさ」
「何じゃ、その流れで『そういやさ』という発言はもう嫌な予感しかせんぞ」
「いや……ふと思ったんだが」
俺はサファイアに対して疑問に思ったことを聞く。
「お前ってそういうのって効いたりすんの?」
「真面目な顔で気持ちの悪い事を聞くんじゃないわい」
サファイアは大人のおもちゃを箱の中にしまって言う。
「まあ答えるとすれば、なんも感じんじゃろうな……今の姿ならまあ分からんが、本来の姿なら何も感じん」
今の状態の話とかどうでもいいが……残念だ。
「マジかぁ……パーツ全部集めたら機械〇とかしてもらおうと思ってたのに」
「キッショ」
「……どうにかならないか?」
「どないせいっちゅうんじゃ!」
「いやほらさ、連続〇頂ってジャンルがあるじゃん?」
「知らんわ」
「いや、俺のエロ本読んでんだから知ってるだろ」
こいつは昨日家についてまず最初に、俺の部屋にある全ての本を読んでいた。教科書から始まり、小説、ラノベ、そしてアダルトな本まで全てだ……そして俺の持っているエロ本は触手が女の子をひたすら〇かせるという物がほとんどだ……タイトルにも入っているから知っている。
「まあ、読んだがの。何が面白いのか分からんかったわい、雌がクタクタになるのの何が面白いんじゃ?」
「俺エロ本は女の子の体じゃなくて触手見たくて読んでるから分からん」
「貴様まさかとは思うが、女体じゃなくて触手の体でヌいとるのか?」
「え? そうだけど、普通じゃね?」
「いっぺん頭診て貰った方がいいんじゃないかの?」
「まあそんな事はいいんだ、要は何がいいのか分からないがそういうのがあるんだったら触手が連続〇頂するのが見たいんだよ、触手がおもちゃ突っ込まれてビタンビタンするのがな。だけど探してもそんな本見つからないからさ」
「あるわけないじゃろ馬鹿かの?」
「いやでも人間の性癖ってのは無限だぞ? ドラゴンが車とセッ〇スする、ドラゴンカーセッ〇スみたいなのもあるからな」
「……冗談じゃろ?」
「いや、俺の親はそのエロ本持ってるからマジだぞ」
「力を取り戻したらまず貴様の家族を殺そうかの、異常性癖じゃ」
「別にいいけどいたしてからな」
「冗談じゃし受け入れるでないわい!」
そんなやり取りを経てからも暫く調べたが、取り分けこれといった物は見つからなかった。
「取り敢えずここもなさそうじゃな」
「次行くか」
そう言いながら俺とサファイアは部屋を出て隣の扉を開ける。
「トイレじゃな」
一応調べるが何も見つかりはしなかった。
「無いの」
「無いな」
トイレから出てそう言う。
「次はここか」
トイレの隣の扉を開ける。
中にはテレビやソファー、何かがあって一階のリビングに酷似している。
「セカンドリビングっちゅう奴じゃな、キッチンは無いようじゃから寝る前にここでくつろいどったんじゃないかの?」
「へえ」
サファイアはいの一番にソファーに飛び込みそう言う。
こいつなんか、ソファーを見かけると絶対に飛び込むな。
「しっかしなぁ」
俺はざっと部屋を見渡す。
一階と違うのは飾ってある写真だろうか。一回には一枚も写真は無かったが、ここには壁に掛けられた額縁に三人で映った家族写真が飾ってある。
写っている両親は大体30歳ぐらいという風体で、少女の方はおおよそ7~10というところだろう。なんだろうか……とても大きな、白い建物を背景に両親が少女の背に手を当てている写真だ。
「この部屋は儂が調べとくから、貴様は先にベランダ調べとくれ」
「りょーかい」
俺は掃き出し窓を開けてベランダに出る。
ベランダの屋根には物干し竿があり、ここで洗濯物を乾かしていたことが分かる。
……というか、来てから大分経ってんだな。
左側の家と家の隙間から見える空は赤いし、右側はもう真っ暗だ。
ふとそこで違和感を感じた、だがその正体は分からない……ただ漠然と、何かが変だという感覚が俺の体を走り回っているのだ。
裏の家は変じゃないし、一階の風呂窓もしっかりとある。奥の庭も特段変わったことはない……。
「一体何が――」
「――なーにしとるんじゃ、こっちはもう調べ終わったんじゃが?」
「んぁ、ああ悪い」
「間抜けな声出してどうしたんじゃ、次行くぞ」
「……そうだな」
まあ、気のせいか。
「そうだな」
そう返して、俺は部屋を出た。