親しき中にも礼儀あり
「いえーい!! 私の退院祝いだ!! 早速飯を作るんだよ畝観君」
「うるせえな」
頭いいのに頭悪いぞ馬鹿典。
「でも本当に良かったの? 晩御飯ここで食べちゃって」
「ダメって言ってもこいつごねるだろ」
「……………確かにそうだね」
気絶から目覚めた教は狐日に食って掛かったのだが、『ケガレオトシ』ら辺の話を隠した状態で事の顛末を話した。
そして狐日から、もしここであったことを他言したならば再び典の意識を奪うと脅され解放されたのだ。まあ俺等との契約があるからそんな事は出来ないのだが、下手に危険に飛び込ませることも無いだろう、このことは黙っておこうと思う。
「しかし私も驚いたねまさか熱中症で倒れて病院送りだなんて私らしくも無い気絶の仕方をしてしまってこれからはクーラーが掛かっていたとしてもしっかりと水分補給をすることを心掛けるようにするよ私は反省と対策が出来る優秀な人間なんだどれぐらい優秀かと言えば遊〇王の春う〇らぐらい優秀だからねいや先行とった時の墓穴かなまあつまりどのデッキにも入るぐらい優秀だという事さ」
ふーんそうなのか、遊〇王やってねえからわかんねえや。
「……ハヤシライスでいいよな」
「太るから嫌なのだが」
「なら帰れ、教はいいか?」
「僕は食べるけどね」
「ええい冗談に決まっているだろう、何で君は教には少し甘いんだ!!」
「幼馴染だし」
「私も幼馴染なのだが!?」
「そうだっけ?」
「『そうだっけ』だとぉ!?」
ギャアギャア喚き散らしてうるせえ奴だ……俺は無視して人参の皮をむく。
「……………くっそ、教。何を言っても無視をされてしまうのだがどうしたらいいかね」
「もう一旦風呂でも入ってきたら? 着替え持って来てるんだし」
「確かにそうだね」
「ちょっと待て」
ちょっと待て、は?
着替え持ってきたってなんだ。
「あぁ、もう今日は泊る気で来たからね。風呂借りるよ」
そう言って典は風呂の方に歩いて行った。
「は? はぁ? おい、教?」
「いや、僕もね言ったよやめとこって……でも姉さんがね?」
困った表情、それだけで起こった事を全て察することが出来てしまう。
「……………言っておくがソファーだ」
「そりゃそうだよ」
頭おかしいだろ本当に。
事前連絡無しで人ん家泊ろうとすんじゃねえ、親しい奴の家だとしても社会常識が欠落している。
「……今日は助かったよ、姉さんを助けてくれてありがと」
「色々したのサファイアだけどな」
「それでも畝君が行動してくれたのには変わりないからさ」
渋々といったところではあるのだが。
「だからこれからもずっと姉さんと友達でいてあげてね……もちろん僕ともさ」
言われなくても。
深夜、晩飯を食べ終わった俺達はそのまま寝た。
俺も教も今日の疲れからかすぐに眠りについたのだが、俺はトイレに起きてしまった……そしてトイレに向かうちょうどで典と会った。
「……少し、ベランダに来てくれないかね?」
「い――」
「――嫌とは言わせない、君は私にテストの恩があるだろう?」
「クソが」
外に出ると夏だというのに少し肌寒い。
「悪いね、ついて来てもらって」
ベランダから星空を見上げ、夜風を受ける。
あの空の何処かに空飛ぶ触手がいると考えると興奮が抑えられない。
「で、なんだよ?」
寝ぼけ眼をくすぐって言う。
「いや、そのだね……その、あれだ」
うるさいこいつが言葉に詰まるとは珍しい。一生取り敢えず黙っといてくれ。
「……熱中症でぶっ倒れている時にだね、夢を見たんだよ」
「夢?」
「そう、何というか君と教と従妹ちゃんが私の為にこう……どっかの会社に入って行く夢だよ」
それは今日あった事だな、何で知ってんだろうか……でも魔術によって倒れていたわけだから、まあそういう事もあるか。
魔術についていまいちよく分かってないしそういう事もあると思う。
「それでその、そこで君が私の"秘密"を知ってしまったんだが……その――」
青い顔をした典は、震えながらそう問うてくる。
「――気のせいだろ、夢なんか真面目に考えたら鬱になるぞ」
そう俺はまっすぐ向かって言う。
「……………ま、まあそうだね。あまりにリアルな夢だったし、病み上がりというのもあるのだろうね……弱気になってしまっている。そうかそうか、そうだね……変な事を聞いてしまったよ」
「じゃあ早起きしてとっとと帰れ」
俺はベランダから家の中に入ろうと足を踏み入れた時、肩を掴まれた。
「まだなんかあんのか?」
「いや、違うんだ……………そのだね、もし私がだ」
震える手で俺の肩をガッチリつかむ典、徐々にその力が強くなっていく。
「もし私が、許されざる大罪を犯していたとしたら……君は私に失望するか?」
「……………失望ってな、元々何かを期待してないと起こらない現象でな?」
「中々酷い事を言うね君は」
「酷いと思うなら日頃の行いを見直せ」
聞いても実際別にどうも思わんかったしな。
しいて言うなら『やっぱりかぁ』って思ったぐらい。
人殺してそうって思ってたら本当に殺してたっていうか……まあそれで変わるほどいい印象を持っていなかったというか。
「まあだから、お前が何やらかしててもなーんも変わんないよ」
「そうかい、何というか中々傷つく返答だったね。ただ私が知ってる君通りの回答が出てきて安心したような気がするよ……こんな夜中に悪かったね」
そう言うと典は先に俺より家の中に入ってしまった。
寒い外に呼び出して先に家入るとか、本当カス。
^ーーー^
「いやー、晩御飯も頂いてそれに加えて泊めて貰って本当に悪かったね。しかし友人とお泊り会というのも中々乙な物だろうどうせ君の事だ夏休み外にほとんど出ていないだろうちょうどよかったじゃないか夏休みにいい思い出が出来たぞ素晴らしい、高校生の夏休みはこうではなくてはななあそう思うだろう?」
ヘルメットをかぶってバイクに跨った典がそんな事をぬかす。
「……………悪いって思ってんだったら次からちゃんと連絡しろ」
「はッはッは、それは断らせてもらう。私は君には迷惑をかけなくては気が済まない性分なのでね」
あ~あ、途中で事故んねえかな。
「畝君ありがとね、後これからも姉さんがごめん」
典の後ろに座った教のヘルメットでこもった声がした。
「お前がブレーキ掛けたら俺に迷惑掛かんないんだけどな?」
「姉さんは暴走機関車みたいなものだからブレーキなんか無いよ」
暴走列車にも緊急停止ボタンぐらいあるわ。
「ま、そういう事だからまた今度会おうではないか!!」
「じゃあね」
ブォオンッとエンジンがかかってバイクが動き出し、風の様に先の角を曲がって二人は姿を消してしまった。
「……………朝飯食うか」
俺も家の中に入り鍵を閉める。
「それでサファイア?」
リビングへと移動し、ソファーで寝っ転がっているサファイアに声をかける。
「何じゃ?」
「いや、昨晩危機忘れてたことがあったんだよ」
「ほう」
こちらへと顔を向け、気だるそうに俺の顔を見る。
「いやさ、お前って何で典の事を助けようとしてたんだ」
「どういう意味じゃ?」
「いやさ、俺の知っている限りお前ってこう積極的に人助けとかしないだろ?」
「そんな事か、儂の事を貴様全然知らんな」
この夏休みに会ったばっかりなんだから当たり前だろ。
「いいか? いっておくが儂は滅茶苦茶慈悲深いんじゃぞ?」
「……………そうだな」
「おい、そんな不服そうな表情をするでないわ……貴様の下ネタどんだけスルーしてやってると思ってんじゃ」
そんなに下ネタ言ってねえだろ俺。
「それで?」
「あぁ、じゃからな……知り合ったやつぐらいは助けてやるってもんじゃよ」
「へぇ」
本当に意外だが、しかしそうか。
「そう考えると俺とお前って似てんだな、俺も知り合いは助けるがそっから外側は助けようとは思わないし」
「貴様と似とるとかゲロを吐くしかないじゃろ」
失礼な奴だ。
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