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とある廃墟

 現在時刻は大体昼の十二時だろうか?

 俺は今、京都の西の方にある廃墟の前に居る。大きな家だ、入り口の右には庭へと続く道があり車も入れることも出来そうだ、玄関前にはポストとそれに掛かった表札があり『宮本』と書かれている。


「えー、マップだとここで会ってるけどさ……マジで入んの?」

「儂だってこんなきったねえ廃屋なんぞ入りとう無いわ、じゃがしょうがないじゃろ」


 核を小さな石に移したサファイアが返答を返す。

 そう、しょうがない。

 何故なら俺達はサファイアの失った体を集めにここまで来たのだから。


「で、お前のパーツがここにあるんだな?」

「そうじゃ、この家では幽霊が出ると噂になっとるからの」


 そんな言葉と共に目の前にサファイアが現れる。

 どうやらサファイアは姿を現したり消したり出来る便利な体を持っている。

 おかげでここまで来るための電車代も俺の分だけで済み、1000円ほど得したことになる。


「いわゆる幽霊屋敷じゃ」


 そう言って玄関の扉へと右手を掛けるサファイア。


「恐らく儂のパーツが怪奇現象を引き起こしとるんじゃろうな」

「そんなもんなのか」


 太陽を背にした俺は、アッツいなぁと思いながら適当に流す。移動中にやっぱり気になったので聞いてみたが理解できなかったので、まともに聞くだけ無駄なのだ。


「そんなもんじゃ……お、鍵開いとるの。それじゃ入るぞ」


 ギギギっという音を立てながら扉はスライドする。

 中に入ると、定期的に人が入っているような様子があった。


「肝試しに来とるやつがいるんじゃろうな、こことか足跡あるしの」


 埃が少しだけ薄い場所があり、それが靴の形になっている。

 薄暗くて見ずらいので、近くにあった電気のスイッチらしきものを押すが明かりはつかなかった。


「さてと、どこから行こうかの」


 玄関からは一直線の廊下が続いており、左側は階段、そして扉が二つ。右側はふすまで閉じられた部屋が一つあった。そして廊下の一番奥には仏壇が一つ。


「取り敢えず手前からでいいんじゃないか?」

「じゃあここからかの」


 ふすまへと右手をかけ、サファイアが開けた。

 ふすまの先にあったのはリビングで向かって右側にはソファーと机とテレビがあり、左側はキッチンで、キッチンで料理をしていてもリビングを見渡せるような作りになっている。キッチンには食器棚と冷蔵庫、電子レンジなどが置かれている。


「へー、でっけえテレビ」

「貴様の家にあったのといい勝負しとるの」


 両手を広げても表すには足りないほどの大きさで、それが壁に掛かっている。


「ソファーも埃被っとるが結構いい奴じゃぞこれ……ここに住んどった奴は随分と金持っとったようじゃの」


 ソファーにボーンッと飛び込み寝っ転がるサファイア。

 ソファーをよく見ると何か赤黒くシミていて汚らしい……そんなのによく寝っ転がれるな。

 ……そう言えば。


「なあ、一ついいか?」

「何じゃ?」

「ここに住んでたやつはって言ってたけどさ、ここって何で廃墟になってんだ?」

「ああ、全員殺されたらしいの」

「………………え?」

「ちょうど十年前だったかの……バラバラ殺人じゃったらしい、住んどったのは子供とその両親の三人で……強盗に入ったやつが全員殺してバラして家じゅう血まみれだったようじゃな」


 じゃあそのシミ血だろ。


「えー、俺ら普通に土足で入ってるけど幽霊に呪われたりしないよな?」

「大丈夫じゃ、魂なんて物は存在せん。それに言っとるじゃろ、幽霊騒ぎは儂のパーツが起こしとるっての」


 そう言ってサファイアは身を起こす。


「幽霊騒ぎの発端はこの家を解体しようとした会社の重機が全て壊れ、そして立ち入ったやつが重傷を負ったのが始まりじゃ。それを噂で聞いた動画投稿者が侵入し、ポルターガイストに襲われたと広め現在の噂が出来た」

「へえ」

「恐らくじゃが儂のパーツがこの家を壊されるのを襲われていると認識したんじゃろ、じゃからこの家の記憶を引き起こし抵抗したんじゃろうって儂は思っとる」


 早速ポルターガイストじゃ、と言ってサファイアはテレビを指さす。

 するとテレビがパチンっと鳴って灰色の砂嵐が映し出された。


「当然ここは電気なんか通っとらん、さっきボタン押しても廊下の電気つかんかったじゃろ?」


 俺は言ってることが本当か確認するためテレビのコンセントを探し線を抜いてみるが……確かに消えない。


「本当だな、確かに怪現象だ」


 俺は手に持った線を放り投げてそういう。


「じゃあ次はキッチン見てみるか」

「隅々まで見るんじゃぞ、どこに儂のパーツがあるか分からんからの」

「……ていうかさ、俺お前のパーツどんな形してるかわかんないから探しようないんだけど」

「いや儂も分からん……まあそれっぽいのあったら見しとくれ、多分青色ではあるからの」


 言ってサファイアはソファーの下を覗き込む。

 俺もキッチンに立ちありそうな場所を探す……取り敢えず食器棚から開けてみるか。

 開けてみると中の食器類は当然埃を被っているが、洗えば使えないことも無いようなものばかりだった。


「……うーん、特になさそうだな」


 お皿、コップ、お箸、スプーンにフォークなどどれも大体五個ずつあった。他にもいくらかの食器があったが三人暮らしだったにしては少し多い気もする……まあ客人用と考えればこんなものだろう。


「次は冷蔵庫かな」


 俺は冷蔵庫を開けるが……すぐさま俺の鼻を異臭がくすぐった。


「うっわ、中身そのままじゃん」


 中には行っていたのは肉類で、電気が通っていないため冷やされることは無く当然全て腐っており虫が湧いていた……俺はそっと冷蔵庫の扉を閉めた。ただ、開けて分かったのは三人分の食糧ではないことだ、恐らく殺された日にパーティーでもやる予定だったのだろうか? 入っている量が多かった。

 電子レンジも開けたが……まあ何も入っていなかった。


「後見てないのはキッチンの下の戸棚かな」


 言って俺は戸棚に手を掛ける。

 戸をゆっくりと開けると、ギギギッと軋むような音がして今にも壊れそうだった。

 戸の内側には包丁を刺して置けるようなポケットがあり、そこには三本の包丁が刺さっていた。


「うーわ、これ血とかついてないよな?」


 じっと見る、だが特にそんな事は無く……普通の包丁だった。

 そのまま中を見るとあったのは。


「詰め替え用の食器洗剤に、たわしとスポンジ……まあ無いよなぁ」


 パーツがどういった形かは知らないが……まあ無い。

 俺は戸を閉めようと横を見ると……変な事に気が付いた。


「……あれ、包丁って二本だったっけ?」


 そう思った瞬間、ものすごく嫌な予感が俺の頭を揺さぶり……俺は自分の背後を見た。そこには宙に浮いた包丁が切っ先を俺へと向けていたのだ……すぐさま右に飛びのき距離を取る。

 飛びのいたちょうど、ドンッという音がし俺のいた場所の床に包丁が突き刺さった。もし飛びのかなければ俺の背中に確実に刺さっていた。完全に殺しに来ていた。


「どうしたんじゃ?」


 異変に気が付いたサファイアが呑気な声で聞いてくる。


「いや、コレ」


 俺は二、三メートル先に刺さった包丁を指さす。


「幽霊が殺しに来やがった」

「おお、ガッツリ床に包丁刺さっとるな……まあそういう事もあるじゃろ」

「いや軽いな、刺さってたら死んでたぞ俺」

「多分死んどらんぞ、重症は負うじゃろうがな」

「………………え?」

「貴様気がついとらんのか? お前そこに立っとったんじゃろ」


 サファイアは包丁を指さす。


「で貴様は今ここに立っとるじゃろ……一体何メートル飛んどるんじゃ?」

「……あ」


 包丁は二、三メートル先にある。そして俺は一回飛んでこの位置に来た。

 要は屈んだ体制から助走もつけずに三メートル飛んだのだ。


「貴様の身体能力は上昇しとるんじゃよ……儂の眷属になったのだからな」

「そうなのか」

「筋力はもちろん治癒力もな……残念ながら知能は上がらんが、治癒力に関しては貴様の背の傷はもう治っとるし」


 そういえばそうだ。俺はあのアラクネの様な化け物に背中をバッサリいかれたのに何の問題も無く生きている。背を触っても痛みももう一切感じない……傷が完治しているのか。


「筋力は多分40キロぐらいなら片手で持ち上げられるようになっとるんじゃないかの? かくいう儂もそれぐらいは出来る訳じゃがな!」

「まじか」


 片手で40キロはビックリ人間じゃないだろうか?

 いや、でも格闘家とかは持てるって聞いたことあるしそんな事も無いだろうしそこそこ止まりといったところか。


「ふーん、しかしここには何も無かったようじゃし……次行ってみるかの」


 そして俺達はリビングを出た。

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