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ワインと死体の山

 ぐるっとコンテナハウスの中を見渡してパッと目につくのは冷蔵庫と机、パソコン、そして入り口とは違う扉ぐらいだろうか。

 まずは入り口に近い場所にある冷蔵庫を開ける。


「うーん、分からん」


 中には数本のワインボトルが入っており、エンブレムが付いていたりするので高いのだとは思うのだが。


「これクッソ高いやつゲロね」

「へえそうなのか、これ一本でどんぐらいすんだ?」


 俺は一本を手にっとってアマガに見せる。


「正確な値段は分からんゲロけどな……多分300万は超えるゲロ」


 容量にして1リットルあるかどうかのボトルにそんな値段つくのおかしいだろ。


「絶対落とすなゲロよ……というかゲロが貰うゲロ」

「いや待て、それは泥棒だろ」

「人間の倫理じゃ悪い奴いじめんのは悪い事じゃないゲロ……人間って義賊とか大好きゲロよな?」


 ………………まあいっか、別に俺のじゃないし。


「ほら」


 アマガに向かって俺はボトルを投げる。


「ッゲロォ!? あんた馬鹿ゲロか!?」


 アマガは前のめりになりながらボトルを何とかキャッチした。


「これロマネ〇ンティゲロよ!? そんな雑に扱っていいもんじゃないゲロ!?」

「なんだそりゃ」

「高いワインの代名詞みたいなやつゲロ」


 へー、そんなのあるんだ。


「このワインもいいやつゲロね、これもゲロ……ちょっと全部貰ってく事にするゲロ、ゲロロロロ大収穫ゲロ」


 冷蔵庫を物色しながらアマガはそう呟く。

 アマガから視線を外し机へと目線を落とす。


「……ナイフか」


 木製の机の上にあったのは全長約70センチのマチェットナイフ。

 全体の色は黒で統一されていて刃は羊皮紙の様な物に包まれている。


「意外と重いな」


 手に取ってみると結構ずっしりとしていて長時間持つと手が付かれそうだ。

 刃を包む羊皮紙を外すと、側面には最近見たような幾何学模様が刻印されていた。


「……あれ、これ御守の奴と同じだな」


 ポケットから取り出してみて見比べてみると、完全に合致する。


「ふむ、どうやらこれは儀式用のナイフじゃな」

「儀式?」

「人間が……というか下位種族が強力な呪文を使うときにやるんじゃよ」

「呪文って唱えるだけでいいんだろ? だったら意味なくね?」

「そうもいかんよ、何故なら強力な呪文を使うと狂っちまうからの」

「良くわからないな」

「正常な人間が狂気に足を踏み入れるのと元々狂ったやつが更に狂うのでは明かな違いがある……儀式というのはその狂ったやつ側になるための手段の一つじゃ」

「へー」

「儀式を事前にして出来るだけその呪文の数値に体を近づけておくんじゃよ、そうすると負荷も減るじゃろ? エアコン使って部屋を冷ますときに元々温度が低い部屋と高い部屋じゃ、同じ温度にするのに使う電気の量が違うという感覚があるなら理解が出来るはずじゃ」

「なるほど確かにそうだな」


 サファイアの説明でそういう物だと思っといたらいいって事だと理解した。

 肯定得られたからか説明が出来たからかは知らないがサファイアも満足げに鼻を高くしている。

 俺はナイフを羊皮紙で包み机に戻す。


「さて……最後はパソコンか」


 電源を押して画面をつけるが……分かったのはOSがWin〇owsという事だけで他には何も分からない。

 当たり前のことながらパスワードが設定されていてロック画面から進めなかったからだ。

 一応QWERTYを試しはしたが違ったため、セキュリティ面はしっかりと管理しているらしいことも分かった事と言えばそうだろうか。


「……まあ後でいっか」


 俺は部屋の隅にある扉へと目を向ける。

 アマガは冷蔵庫のワインを全て回収したようでホクホク顔、サファイアも机に置いてあったナイフが気に入ったのか裏返したりしながら観察している。


「さて何があるのか」


 そう軽く呟きながら俺は扉のノブを捻って開けた……開けてしまった。

 扉の奥には想像も絶するようなおぞましい光景が広がっていた、何の覚悟も無く、心の準備も無く見てしまったため最初俺は“それら”が何なのかをすぐに理解することは出来なかった。

 それは無数の肉塊、かつて命ありし人だった物、それらが乱雑にゴミをまとめておいておくかのように……部屋の天井に届かんばかりに山積みとなっていた。

 そして、最も手前……恐らく一番最近殺されたのだろうと確信できるその死体は知っている顔だ。


「こいつは……儂らを騙しとった人間か」


 正士の死体が仰向けで転がっていた。

 胸の中心には刺されたような傷があり、サファイアの持っているナイフを宛がってみればその大きさは同じだ……つまりこのナイフで刺され死んだということだ。

 ……連れられて行ったと思ったが、まさか殺されているとは思いもよらなかった。

 騙されたとはいえ殺されるのは可哀そうに思ったので一応手を合わせておくことにする……ま、どうか成仏してくれ。


「…………あれ、おかしくね?」

「何がじゃ?」


 ふと疑問に思ったことがある。


「こいつは確実に死体じゃぞ……息もしていなければ心臓も動いとらん、確実に死んでおる」

「いや、正士は最近死んだから別になくてもいいんだけどさ……」


 少なくともここの奴らがこの量の人を一日で殺しているとは考えづらい……であるなら土台になっている死体はいつのだろうか?


「今日殺されたのでないとするならこの死体は綺麗すぎる」


 腐るどころか変色すらしていない……人間は死んだ後放置すると一日で変色すると聞くからこれは明かにおかしい。

 匂いもしない……そう何の問題も無く深呼吸できるぐらいこの部屋は無臭なのだ、今日殺されたとしても人間をこれだけ山済みにしているんだから何らかの異臭がしなければおかしい。防腐処理や匂い対策も特にされていないようだしこれは明かに異常だ。


「ふむ、死体を腐らないようにする呪文……いや、このナイフかの?」


 転がっている死体の傷跡を確認すればどれもこれも正士と同じ傷跡で、ナイフとも大きさが一致する。

 どうやらこの部屋の死体は全てこのナイフで殺されているらしい。


「とんでもないナイフだなそれ……呪われてるだろ」

「というか呪われているから殺しに使ってるのかもしれんな」

「卵が先か鶏が先かって感じか」

「そうじゃの……ま、ろくでもない物ではあるじゃろうな」


 さて、最後に残ったのはPCだが……本当にどうするか。


「……思ったんじゃが、そこで伸びてる奴に聞くとかどうじゃ?」

「教えてくれるわけないだろ」

「まあ普通ならそうじゃが……儂に考えがある」

「……何だ?」

「まあ見とけば分かるから黙って見とくんじゃ」

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