地下通路
穴の中は薄暗くジメジメとしていて、かび臭い匂いが鼻を突き刺す。
「ふむ……狭いの」
俺達が降り立った場所は四畳程度の広さしかなく、四方の木製の壁が圧迫感を与え不快感をくすぐる。
「狭いし臭いし汚いし最悪だな」
「ふーむ……なんか聞こえんか?」
「……そうか?」
「いやほら、壁に耳を当てると獣の唸り声の様な物が聞こえるじゃろ?」
そう言って一つの壁に耳を当てるサファイア……俺も真似てみると確かに聞こえる。
「どうする?」
「そうするって貴様……決まっとるじゃろ」
そう言うとサファイアは少し後ろへと下がると助走をつけて、その壁に向けてドロップキックをかました。
ハハ、キマってらぁ。
ベキリッというけたたましい音を上げながら脆い板は真っ二つに割れる。
「……これ回転扉だったのか」
残った部分を触ってみるとゆっくりではあるが回り、粉砕された破片の中には閂の様な物が混ざっており外側から抑えられていたのだという事が分かる。
「なんじゃここは……見る感じ牢屋かの?」
四畳の狭い空間から出た先にあったのは、かなりの広さを感じさせる長方形の空間だ。右側の壁には木製の牢屋が三つ並んでいて、反対側の壁……その一番奥に仏像の無い仏壇だけがぽつんと置かれている。
「しかし……さっきの唸り声は――」
そう口に出した時……『うぅぅ』という声が中央の牢屋から聞こえてくる。
俺達はその牢屋へと足を運ぶ。
そこにあったのは巨大な青色の水晶だった。
「儂のパーツじゃな……なんか余計な物着いとるが」
そしてサファイアのパーツに下半身が埋まっている七十は超えてそうなおっさんが一人いた。
「……あんたその、大丈夫か?」
俺は恐る恐るそのおっさんに声をかける。
するとおっさんはむくりと顔を上げてこちらを見て、数秒の沈黙の後口を開けると。
「うあぁぁあああぁぅああぅぅううぅうあぁあうぁあぅぅううぅああぅうぅあぁああぅあぅ」
いきなり叫び出した。
どうやら先程聞いた唸り声はこのおっさんの物だった様で、目はむき出しで充血し切っており歯は黒ずんでいる……明らかに普通の様子ではない。
「あぁ、こりゃもうダメじゃな……完全に狂っておる」
サファイアが牢屋の中に入ったので俺も続いて中に入る。
「しかしどこかで見たような顔じゃな……直近で似た奴を見たような気がするの」
「………………あ! 正士に似てるんじゃないか」
「誰じゃそれは」
「地図くれたおっさんだ」
「あぁ! あの怪しい奴か」
合点が言ったようにサファイアが手をポンッとした時、奥の方からカチャンという何かを置く音が聞こえ……牢屋の扉が自動的に閉まった。
「「ん?」」
カツカツと、わざとらしく音を立てながら男が一人俺達が来た方と反対側……つまり仏壇から歩いて牢屋の前に立つ。
「まったく、こんな簡単な罠にかかるとは……無能共を差し向けるなど舐められたものだ」
ぶつくさと訳の分からないことを言いながら、村長は牢屋の中にいる俺達を見る。
「なんじゃぁ貴様!? 誰が無能じゃ!?」
「とぼけても無駄だ、貴様等の素性は分かっている……星守だろう?」
にやりと笑いながら村長は『星守』という単語を出す……俺達がそうだと言うがまったく心当たりがないのだが。
「星守ぃ? 何じゃその……聞いたことのない単語じゃわ!?」
「ふん、とぼけても無駄だと何度言えば分かる」
「いや実際知らないんだからとぼけてないんだけどな俺達」
「ほう、貴様等はやはり無能だ……とぼける演技も稚拙だな」
話が通じねえ!!
「お前達を見ていると、ここ数年の演技を馬鹿にされている気分になるよ」
「……演技じゃとぉ?」
「私がこの老人の姿を奪い村を掌握するのにどれだけの労力を費やしたと思っている」
「知らんわクソが」
サファイアは言いながら木製の檻を蹴飛ばすが、びくともしない。
「な、何じゃと!?」
「馬鹿め、その牢屋には我々『ケガレオトシ』が開発した封印が施されている……どんな物理攻撃だろうとその物質に響くことは無い!」
どんな物理攻撃も効かないか、なんか最近そんなのあったな……そうだそうだ、あの廃墟のタンスだ。
俺は仏壇を見て、続けて地図を見て頭の中で地図を当てはめるとちょうどあの仏壇の上にはトイレがある……あのタンスに掛かっていた魔術と同じ物か。
「ッチ……ん? というか貴様何処から入ってきたんじゃ、儂らが来た方とは逆から来たが」
「ふん……ここは通路だ、通路であるならば入り口は二つあるに決まっているだろう?」
………………なるほど。
つまりここには客室からだけでなく調理場からも入る事が出来るという事か……地図を当てはめても確かに辻褄があう。
ドタドタと足音が調理場の方から音が聞こえ、見てみれば男がまた一人やって来た……先程も見た見覚えのある顔だ。
「約束通り協力したんだ、早く親父を解放しろ!!」
正士は張り裂ける様な声で目の前の男に怒鳴りつけた。




