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頼み事

 ご神体を見た後神社から出た俺達は、トラクターに乗ったおっさんと出会った。


「……あんた達知らない奴だな、よそ者か?」

「そうですね」

「現状の扱いは観光客みたいなもんじゃしそうじゃな」

「そぉか、そりゃまた……いやなんでもねえ」


 目線を少し逸らしながら髭面のおっさんは言う。


「……観光客ってことは今は村長の所に泊まってんだな」

「そうじゃな……というか村を見た感じ宿泊施設とかも無いし、もしかして観光に来た奴は皆村長の家に泊まっとるのか?」

「そうだ……なあ嬢ちゃん、少し聞いていいか?」

「何じゃ?」

「村長の所で飯は食ったか?」

「ああ食べたぞ」

「じゃあ今……この村を見てどう思う?」


 少し戸惑いながらそう聞いてくる男は、何かにおびえたような目をしている。


「よくわからん質問じゃな」

「良いから答えてくれ……この鶴槻岳に住む一村民として気になるんだよ」

「ふむ……そうじゃな、まあいい所なんじゃないかの?」

「そっちの兄ちゃんの方はどう思う?」

「うんまあそうだな、イメージ通りの田舎って感じで静かないい所だと思うぞ」

「………………そうか」


 何なんだこいつ。

 いやちょっと俺も失礼なことを言ってしまったかもしれない。


「そうだな……あんた達俺について来てくれないか?」

「……はぁ? それはガイドをしてくれるって事でいいのかの?」


 トラクターに乗ってるし仕事中じゃ無いのか?


「そうだと思ってくれて構わない」

「なら頼むかの」


 俺達はトラクターの後ろに続いて歩いた、暫くすると男の家に着いた。


「入ってくれ」


 トラクターを車庫にしまった男が扉の鍵を開けて言う。


「話したいことがある」


 言われるがまま家の中に入る。

 中は普通の民家と言った感じで、少し古臭いがこんなものだろう。


「で?」


 出されたお茶を飲みながらサファイアは聞く。


「一体何の用があって儂らを招き入れたんじゃ? まさか茶を飲ましたいとかでもないじゃろうし」

「……あんた達の様子がいつもの観光客と違ったからな」


 唐突にそんな事を言い出すおっさん。


「そう言えばまだ名前を言ってなかったな……俺は相革正士(あいかわただし)だ」


 相革、なんかさっき聞いた名前だな。


「……あぁ、村長が言ってたな相川が熊の対策どうこうって」

「それが俺の親父だな……親父は狩猟免許持ってるから鶴槻岳の獣害対策は全部あの人がやってる」

「へえ」

「もう一月は帰って来てないがな」


 険しい表情でそう呟く正士。


「……それであんた達は村長の家で飯を食ったんだよな?」

「そうじゃな」

「どうだった?」

「どうって……まあ普通の飯って感じだったけど」

「儂も懐かしみを覚えたぐらいじゃ」

「そうか」


 そう言うと正士は立ち上がって家の奥まで行くと一包みの小さな袋を持ってきた。


「あんた達が食った飯の中には恐らくだがこいつが入っている」


 その包みを開けると中には棘の付いた小さな赤い実が数粒入っていた。


「これが何かは分からないが、少なくとも俺は知らない植物だ」

「知らない植物って、調べたらなんか出て来るんじゃないか?」

「これでも俺は農業大学を出たし、調べもしたさ……ツテのある教授にも見せた。だが出た結論は良く分からない植物って事だけだ」


 サファイアがその内の一つを掴むと、暫くの沈黙の後言う。


「……キューレットじゃなこれは」

「………………なんて言った?」

「じゃからキューレットという植物じゃ、人間が食っても害はないが感覚が先鋭化され目に映る物全てに感動するようになる」


 さらに続ける。


「じゃが害が無いと言ってもそれは数回食った程度だった場合じゃ、食った量が増えれば増えるほど言われたことに何の疑問も抱かなくなるの……食わせまくれば簡単に洗脳できるようになる」

「なんだそれ怖」

「あぁなるほどのそりゃあ懐かしいわけじゃ、これ昔食ったことあるわい……儂の口には合わんかったがの」


 じゃが、とサファイアが言ってその実口に放り込んですりつぶす。


「そもそもこれは地球の植物ではない……一体これを何処で手に入れた? まあ話の流れ的には村長経由なんじゃろうがな」

「……そうだ、数年前に村長がこれを配りそれから皆の様子がおかしくなった」

「おかしくなった?」

「この村は言ってしまえば典型的な田舎だったんだよ、排他的で新しいものを受け入れられない……滅ぶのが確定してるようなな」

「酷い言いようじゃ」

「だがそれでも俺達はこの鶴槻岳を愛していたし、変わらないこの村こそが美しいと思っていた……まあ馬鹿みたいな話だってことは分かってんだがな」

「変わらん物なんざこの世にはないぞ、それは身をもって良く知っておる」

「……そうだな、だから最初爺さんが観光に来たよそ者を受け入れるようになったとき歳をとって変わったんだと思ったよ」


 いい事だと思うのだが……正士的には不満があるらしい。


「当然俺達村人は大反対したさ……それこそ殺そうとした奴までいた」

「この村ヤバすぎないか? もう帰りたいんだけど」

「誤解するなよ、流石にそれは全員で止めた……だがそういう奴が現れるぐらいにはよそ者嫌いが鶴槻岳全体に根付いていたんだよ」


 懐かしそうな目でそう語る正士。


「だがな、村長がこのなんだ……キューレットを配ってからそんな考えは何処に行ったのか、村人のほとんどが急によそ者を受け入れだしたんだよ」

「………………なるほど」

「驚いたさ、昨日までよそ者の家族を殺そうとしてたやつが自分家で取れた野菜持っていって歓迎してんだ」

「しかしお前はどうしてそうなっておらんのじゃ?」

「俺は良く分からん物、見たことも無いような植物を食べるなんて出来なかったんだよ、だが他の奴らは村長が渡したものだからって何の疑いも持たず口にしたみたいでな」


 暫くの沈黙、それをサファイアが打ち破る。


「それで? 儂らみたいな“よそ者”にそんな話をしてお前は何がしたいんじゃ?」

「どうやらあんた達はこの実を食べても何の影響もない様だし、何故かこの実の正体を知っていた」


 確かにそうだな、あの実を食べさせられたという事だが実際見た物に対して田舎ッて印象以外は抱いてない……感動もまあしたが本当にこんな田舎あるんだって事にだしな。


「だから頼みたい……村長を元に戻してくれとまでは言わない、元の村に戻す協力もしてもらわなくていい……ただ村長がなぜキューレットを俺達に配って洗脳じみた事をしたのか、出来たのか………………それを調べる手伝いをしてほしい」

「……まあいいぞ」


 意外な事にサファイアはそれを受け入れる。


「だがそうじゃな……こっちからも簡単な条件を出そう」

「……金か?」

「いやいや、そんな物はいらん。ただ一つ教えて欲しいことがあるだけじゃ……別に知らんなら知らんでいいようなものじゃよ」

「そんな事でいいならお安い御用だ」

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