27話 撃退
そうだ、これは狩りだ。我々は狩られているのだ。
「ニクラス!馬車を止めろ!止めるんだ!」
すぐに馬車を止める様に御者に声をかけるが、彼は御者台の上で死んでいた。
心の中で舌打ちして、馬具を引いて馬車を止めようとするが馬がパニックを起こしていて止まりそうもない。他に馬車を止める方法を考えるが良い方法は思いつかない。
そうしている内に馬車は町を抜け山道へと入って行った。
道の左側は崖になり底は見えない。落ちれば助からないだろう。
出来るだけ早く二人を馬車からおろす必要がある。
「エマ!カルネ!聞こえるか!?扉を開けろ!」
すぐに扉が開いて2人が顔を出す。
「馬車が暴走している!横は崖だ!すぐに馬車からおりなければ危険だ!」
2人はぎょっとして顔を見合わせる。
私は馬車に近づき腕を伸ばす。
何をしようとしたか察したカルネが手を伸ばす。
しかし馬車の車輪が邪魔で近づけないため、後少し手が届かない。
それを見たエマはカルネの後ろから脇に手を差し込んだ。
持ち上げようとしているのか?いくらカルネが小さいとは言えエマも大きくは無い。持ち上げるのは無理だろう。
しかし、思ったよりも軽く持ち上げたエマは目いっぱい腕を伸ばしカルネを差し出してくる。
そして私がカルネの腕を掴もうとした時、馬車がガタンッと揺れた。
既に腕を伸ばし切っていたエマはバランスを崩し馬車の外に倒れそうになる。
その時、エマは「ヤッ!」と叫び馬車から飛び出した。
腕の中に押し込まれたカルネを掴み上げた時、エマは闇の中へ消えていた。
「おねえちゃん!」とカルネが叫ぶ。
急いで馬を反転して来た道を戻りながらエマの姿を探す。
あの速度では大けがをしているかもしれない。運が悪ければ死ぬこともあり得るあろう。
気持ちははやるが、暗がりの中でエマを踏んでしまわない様にゆっくりと進む。
すると町の方からこちらに向かってくる明かりが見えた。
仲間かと思ったが襲撃者の可能性もあるので、ひとまず逃げるかと振り向くと後ろからも明かりが迫っていた。
左右とも切り立った崖のため隠れる場所もない。
馬を降り山側の崖に寄せ、その後ろにカルネを隠す。
「フェリックスさん・・・」
カルネが心配そうな声を上げるので「大丈夫だ」とだけ答えて敵に備える。
馬の背から小楯を取り左手で持つと剣を抜き、明かりが近づくのを待つ。
町の方から10名、反対から4名の黒尽くめの男がやってきた。
「お前たちは何者だ!?」誰何する。
しかし男たちはその言葉を無視して「子供を渡せば、お前は見逃してやる」とだけ答えた。
「断る!」
それを合図に男達は手に持っていた明かりを私の足元に投げ込んできた。
急に足元が明るくなったため目がくらむ。同時に抜刀する音が聞こえた。
その時、町側にいた襲撃者が一斉にむせ始めた。
咳はどんどん酷くなり、一人二人と倒れははじめる。
残りの襲撃者はその姿に何が起きているのか分からず浮足立つ。
私にも何が起きているか分からないがチャンスだ。
町と反対方向の4人に駆けよる。
敵は全員右手に武器を持ってい事を確認して、一番右手にいた男に低空から突っ込み太ももを切り払う。
そのまま後ろに駆け抜けたかったがカルネに敵が近寄る危険は冒せない。
切り払った勢いで一回転して隣の男の腹へ剣を叩きこむ。
と同時に切り払った男がくの字になりながら飛んでいく。
カルネが援護してくれたようだ。
3人目の男が4人目に「ガキをやれ!」と指示を出し、ナイフで牽制しながら4人目と私の間に割り込む。
その時、3人目の頭が破裂して吹き飛んだ。
カルネは自分に向かった4人目よりも3人目を優先したようだ。
そのため4人目がカルネに迫っている。
しかし4人目がカルネに達することは無かった。
4人目は突然、横滑りをしだすと「え!?な!?」と叫びながら崖から落ちて行った。
何が起きたか分からない。
しかし、こういう経験はしたことがある。
「エマちゃん!生きているのか!?」叫ぶと
空の上から気の抜けた声が聞こえた。
「生きてるよー」
上を見上げると、月明かりに照らされたエマが斜めに回転しながら浮かんでいた。