23話 全力
「今日は楽しみだ!さぁ、皆そろったらすぐに行くぞ!」
殿下が意気揚々と馬車に乗り込む。
その姿を確認したら各自割り当てられた馬車に乗り込む。
向かうのは領都の外、休耕中の畑だ。
そこでエマに指示を出す。
「エマちゃん、前に言った派手にしないというのは無しになった。出来るだけ派手に、全力でやってくれ」
エマはちょっと驚いた後、真剣な顔でうなずいた。
カルネが心配そうな顔をしている。
畑に着くと殿下が感想を漏らす。
「ずいぶんと広い場所に連れてこられたものだ。ここまで広くなくてはいけないのか」
「はい、以前、訓練場にてエマの魔法を確認しましたところ、少なくとも訓練場の5倍の広さは必要との事でした」
「そんな広範囲に雷が降り注ぐのか。すごいな楽しみだ」
そうこう話ている間に組み立て式のテーブルと椅子が準備される。
殿下、フライブルグ様、クヴァント様が着席して、お茶を飲み始める。
次にカルネのための的が準備される。
今回の的は板金鎧を作成する際に使用される鉄の板だ。
殿下はそれを見て「あんな物なにに使うのだ?」と一人ごちる。
「殿下、あれはカルネのための的になります」
は?と殿下とクヴァント様が鉄板に注目する。
「あれが、的だと?どういう事だ?」
「まぁ、見ていただくのが一番はやいかと」
カルネには今日のために石礫の代わりになる鉄の礫を渡してある。
的の準備ができたと声がかかる。
「では、カルネ頼む!」フライブルグ様が声を上げる。
はい!とカルネは返事をして懐から鉄の礫を取り出し自分の前に置く。
いきます!と声を上げると手を後ろに振りかぶり前に向けて振り下ろした。
ギンッと甲高い音がして的が揺れたのが分かった。
殿下達は席を立ち的に確認に向かう。
鉄板には指先程の穴が開いていた。
殿下とクヴァント様は絶句している。
「これは・・・貫通したのか?最初から穴が開いていたわけではないな?」とフライブルグ様に確認する。
「はい、これは正真正銘、今カルネが開けたものです」
「クヴァント卿、これはハーフェン卿よりも凄いのではないか?」
「フライブルグ様、何かの間違いということは・・・」
「いえ、間違いはありません。気にされるのであればもう一度試せばよいのです」
「カルネよ!もう一度できるか!?」
「はい!できます!」
結果は鉄板の穴が二つになっただけだった。
「恐ろしいな。これでは矢避けの大楯も耐えられぬのではないか?」
「信じられませんが、目の前で見せられてしまいました。信じるしかないでしょう」
「これは必ずカルネを取り立てねばならんな・・・」
「昨日、カルネ嬢は教えてもらっているところだと言っていました。つまりまだ強くなると言う事では・・・」
「!!」
殿下達はカルネを振り返り固まった。
復旧した殿下はカルネに「後で褒美を取らす」と言った。
「次はエマだ。頼むぞ」
エマはちらっと私を見たのでうなずいて返事をかえす。
「はい!その前にフライブルグ様、今日はこの辺りに人はいないのですよね?」
「ん?ああ、今日は農夫たちにも来ない様に通達してある」
「わかりました」と言いながらエマは木の棒を拾い、地面にがりがりと円を書いていく。
皆が何事かとその姿をみつめる。
「では、みなさん、この円から出ない様にできるだけ円の中央に集まってください」
なんだなんだと全員が殿下の周りに集まってくる。
エマはそれを確認すると、ではいきます!と声を上げる。
エマが集中するのが見て取れた。
「なんだ?何も起きないではないか?それとも何か起きているのか?」と殿下が周りを見渡した。
その時、エマが「はっ!」と気合を放ち両手を空に突き上げた。
ゴゴゴと空気が揺れ、空には光球が何十と浮かんでいた。光球は次第に一箇所に集まり、一つの大きな光球を作り上げた。
背筋に強烈な悪寒が走り体が自然と動いた。
両手が届く範囲にいたカルネとフランツを掴み引き倒しその上に被さった。
「いでりゃああああああぁぁぁ!!」と叫びならエマは突き上げた腕を地面に向かって振り下ろした。
目の前が光に包まれ痛みに変わると同時に「ゴッ!」という音がなり意識が暗転した。
「フェリックスさん、フェリックスさん」
ゆさゆさと揺すられ目が覚めた。どうやらカルネに起こされたようだ。
眼がちかちかして耳はキーンと音がして何か詰まったような感じがする。
周りを見渡すと皆、飛ばされたようで円の端の方で倒れている。
手近にたおれている者から順番に起こしていく。
エマは円の外まで飛ばされ逆さになってのびていた。
「エマよ、何をした?円の中にいれば安全だったのではないのか?」
殿下の詰問が始まる。
「あの・・・円は雷を防ぐためで・・・爆風が来るとは思わなかったので・・・・」
「では、其方は結果も分からず魔法を使ったのか?」
「その、あの大きさの雷は初めて使ったので・・・すみません・・・」
エマがどんどん小さくなっていく。
あぁ、私が指示を失敗したのだ。全力と言ってしまったからエマは全力を出したのだ。
「殿下、私がエマに全力を出すように言ってしまったのです。彼女は私の指示どおり全力を出したに過ぎません。私のミスです。申し訳ありません」
「分かった。まぁ良い。結果は見に行くまでもないな」
殿下が向いた方向には大きなクレーターが出来ていた。




