20話 護衛騎士
カンカカンと音を立てて木剣が交差する。
相手は両手で長めの木剣を正眼に構え隙がない。
相対する私は半身を小楯で隠し、短めの木剣で牽制する。
相手の構えた剣がすっと下がる。
合わせて小楯をさげた瞬間、相手の剣は跳ね上がり頭にめがけ突きを放ってくる。
誘いも突きも文句の無い一撃だが私には通用しない。
小楯で相手の剣を押し上げながら、小楯の下に体を滑り込ませる。
突きは初動から的に到達する時間が短く威力も正に一撃必殺だ。
逆に言えば一撃で決めなければならないし、狙いは点となるため当てる事が難しい。
懐に入った私は相手の横腹に剣を打ち込む。
相手がうめきながら左手を上げる。降参の合図だ。
壁際から歓声が上がる。
「フェリックスさん、すごい10人抜きです!」エマが拍手しながら立ち上がる。
「どうですか!?フェリックス様はお強いのですよ!」姫様が胸を張る。
何故、姫様がどや顔なんですかね?
カルネが水筒を持ってきてくれる。
ありがとうと言って水筒を受け取り水をあおる。
「フェリックス卿はもてもてだな」ひがみともとれるヤジが飛ぶ。
「私に勝てばもてるぞ!」と返して置く。
ちょっと煽り過ぎたかもしれない。視線が痛い。
次の挑戦者はいなさそうなので足早に退散する。
数日前から私がエマとカルネの護衛についたのだが、朝から晩まで護衛をしていると訓練の時間がとれなくなるので、午前中は私の訓練に付き合ってくれている。
そこに齢が近いという理由で仲良くなった姫様がもれなくついてくるという訳だ。
フランツが交代で付いてくれればいいのだが残念ながらフランツはお世辞にも強くない。
頭は良いので将来は参謀にでもなってくれれば役に立つだろう。
ちょっと早いが訓練を終える。
「今日は午後から街に出る予定でしたか?」
姫様に尋ねる。
館に滞在するようになってから皆のスケジュールは姫様が管理している。
理由を尋ねると「仲間外れにならないように」だそうだ。
姫様、暇なのかな?
「そうです。今日は人気のお店を巡る予定です」
フランツを含めた4人は嬉しそうだ。
エマとカルネは初の領都観光なので楽しみなのだそうだ。
姫様は出歩くとなると護衛の必要があるため、気軽に街に出る許可がでなかったのだ。
今回、私がエマとカルネの護衛についているので一緒ならばと許可が下りたわけだ。
フランツはお察しである。
私を含めた5人に女性の護衛であるアイリーが同伴する。
アイリーは筋力でこそ男性に劣るが剣術では右に出る者がいない達人である。
しかし、その顔は人気のお店への期待で輝いている。
「アイリー、護衛なの忘れてないよな?」
「もちろんです!しかし、ただでパンケーキを食べられるのです!こんな嬉しい事はありません」
隠す気もないよ・・・
パンケーキは蜂蜜をたっぷり使った高級甘味だ。
私もアイリーも騎士爵なので貴族ではあるが贅沢はできないのでめったに食べる機会はない。
世知辛いのである。
店についたら隠れて護衛についている兵士達にハンドサインで指示を出す。
店の表に2名、裏に2名、店内に客として2名を配置する。
今日は6名の兵士が隠れて随伴している。
店員に個室をお願いすると店の2階に案内してくれる。
その部屋は壁に窓は無く高級な調度品で飾られていた。
蝋燭で照らされた部屋は落ち着いた感じだ。
外からの狙撃や侵入される心配がない事にほっと息を吐く。
そういう需要があるという事なのだろう。
順番に奥から詰めて座っていき、扉に一番近い席にアイリーが座り、私は扉を一望できる席に、いつでも立ち上がれるように半身をずらして席に座る。
人数分のパンケーキと果実水を注文する。
私は食べなくても良いのだが一人食べないと場の雰囲気を壊しかねない。
しばらくして焼きたてのパンケーキが運ばれてきた。
皆がわいわいとお喋りしながら食べ始める。アイリーも一緒に・・・
アイリーは完全に馴染んでいる・・・
その時、扉の向こうから争う声が聞こえた。
剣を取り立ち上がろうとした瞬間、扉が蹴り破られ男が飛び込んできた。
誰だ!と誰何した時、男の額にパンケーキのナイフが突き立った。
ナイフを投げたのはアイリーだった。椅子に座ったまま上体を回転させ投げたようだ。
アイリーは男が絶命したのを確認すると私に外の安全を確保してから馬車を呼ぶように言い、固まっている皆に声をかけた。
「皆さん、申し訳ありません。不埒物が現れたので今日はここまでです。さあ、帰りますよー」
館に帰ってアイリーに「何故いきなり男をころしたのか?情報を取らなくてよかったのか?」と聞いてみた。
アイリーはしれっと「情報を取るのは他の方におまかせしますわ。私に大切なのは姫様とエマちゃん、カルネちゃんの命です。」と答えた。




