19話 黄金
「あの二人についてだが、ひとまず私の所で預かろうと思う。」
今はフライブルグ様と二人で執務室の中だ。
「陛下に目通りさせないのですか?」
「普通ならそうするべきだろう。すぐにでも目通りして国として取り込むべきだ。カルネはそれで良い。だが、エマは駄目だ。あまりに強力すぎる。昨日、暗殺の話をしただろう、魔法使いを使い捨てにすると。もし彼女が陛下の命を狙ったとしたら、使い捨てどころか陛下とその場にいる者を全て殺し悠々と立ち去るだろう。逃げる必要すらないかもしれない。目に入った者を全て殺せばいいのだからな。」
そこまで考えていなかった。
確かに彼女の魔法があればそれも可能かもしれない。
しかし、彼女がそんな事を考えているだろうか。
「彼女は先ほど、その実力を我々に明かしました。陛下を狙うものがそんな事をするでしょうか?それに彼女には陛下に目通りする話もしていません。陛下に会えるかどうかも分からないのに・・・」
「そのとおりだ。杞憂かもしれない。しかし、もしもがあってはならんのだ。彼女を王都に送るのは所属不明の軍隊を王都に送るのに等しい」
「た、たしかにその通りです。しかし、であればフライブルグ様のお命が危ないのでは!?」
「彼女が私を狙っていたのであれば、私の命は既に無いだろう」
そうか、私は知らずとはいえフライブルグ様のお命を危険に晒したのか。
自分の浅はかさに腹が立つ。
「しかし、危険だからといって、いや、危険だからこそ放逐するわけにはいかん。もし、敵の手に渡ってしまったら目も当てられん。順当にいって上手く取り込めれば、あの力が手に入るのだ。悪い賭けでも無いだろう。」
たしかに戦場で彼女と敵として会うのはごめんこうむりたい。
「そこでだ、お前にはこの件が片付くまで、ここに残ってもらいたい」
「どういうことでしょうか?」
「彼女達の身を守ってもらいたい」
「彼女達は私よりも遥かに強いと思いますが?」
「魔法使いとは言え人間だ。不意を突かれれば簡単に死ぬだろう。実際、今まで殺された魔法使いのほとんどが街中で暗殺されている」
「しかし、私一人で警護は難しいかと・・・」
「お前の連れてきた小隊を使え。フランツもつけよう」
「承知いたしました。・・・彼女達は女性ですので、男だけの我々では手の届かない場合があると思われます。女性の護衛を一人貸していただけないでしょうか。」
「ふむ、そうだな。一人手配しよう。決まったら連絡する」
「それでは失礼いたします!」と敬礼をすると「まてまて」とフライブルグ様が止める。
「二人は服をあれしか持っていないのか?昨日と同じ服を着ていただろう?」
「あの服はフライブルグ様にお目通りするために買い与えた物です。元から来ていた服がありますがお見せできるものではありません」
「そうか、気を遣わせたようだな。では、服を何着か買ってやれ。すぐに着替えができるようにするのと、貴族令嬢として必要な分だ」
「貴族令嬢でありますか?」
「そうだ、すぐではないにしても彼女達はそうなってもらう必要がある」
「承知いたしました!・・・申し訳ありません。私には貴族令嬢に必要な衣服が分かりません」
「あぁ、そうだな。エミリアとルイーサに言っておこう。後ほど二人から声をかけさせる」エミリアとは奥様の事だ。
「ありがとうございます。では失礼いたします」
さて、二人の護衛になったわけだが、王都の私の中隊はどうなるんだろう。・・・考えてもしょうがないか。
二人とフランツ、あと小隊の皆にも護衛の件を伝えておく必要があるな。
ひとまず護衛対象である二人に話を通さなければならないだろう。
まずエマの部屋へ行くと中から賑やかな声が聞こえてくる。既視感がある。
ドアをノックすると引きつった顔のメイドが顔をだす。何があったんだろう。
メイドにエマに用事がある事を伝えて中に入れてもらう。
部屋の中ではフランツが床から何かを持ち上げようとして奮闘している姿が見えた。
エマとカルネがそれを囲み、がんばれ!と声をかけている。
何をしているのだろう?と思い覗き込んでみるとそこには巨大な金の塊があった。
え?どういう事?状況が分からない。最近こんなのばっかりだな。
「3人とも、状況を教えてくれないか?この金はなんだい?」
「あ、フェリックス様、この金はエマさんが出したんです」
うん、最近似たような事があったな。
「出したという事は魔法という事かい?」エマに尋ねる。
「はい、お金が無いので手っ取り早く稼ごうと思って作りました」
作る・・・金を作れるのか・・・
「金を、作れるのかい?」
思ったことがそのまま口から出た。
「はい、簡単な元素構成であれば大体いけます」
彼女は今まで何故、平民をしていたのだろう。
「それで、この金はどうするつもりだったんだい?」
「街で金を買い取ってくれるお店があるとフランツさんから教えてもらったので、売りに行こうかと思いました」
「いやいやいや、これだけあったら買い取ってもらうどころか、お店を丸ごと買えるんじゃないか?」
「おお、エマさん、お金持ちですね!」
フランツはそれで良いのか?
「カルネ、この金を元手に商売しよう!」
「うん!私いっぱい働くね!」
「二人とも待ってくれ。実はちょうど二人に話をしにきたところなんだが二人には当面このお屋敷で暮らしてほしい」
3人が不思議な顔をしてこちらを見る。
「さっき、フライブルグ様と話をしてたんだが、フライブルグ様が2人の面倒をみると仰ってるんだよ」
「どういう事ですか?」と3人から疑問がかえる。
「2人は魔法使いだろう?このまま平民として生活すると、いろいろ事件に巻き込まれかねない。それに国に認められれば陞爵される事もあるだろう。そんな人物を放り出す事はできない」
「私達、貴族になれるんですか?」と珍しくカルネが聞いてきた。
「手続きとかいろいろあるが、たぶん貴族になる事になるだろう」
「お母さん・・・」といってカルネははらはらと泣き出してしまった。
エマの方は少し難しい顔をしている。
2人とも反応が違うので、それぞれの事情があるようだ。
「カルネちゃん、落ち着いて。エマちゃんも難しい顔しないで。まだ決まった話ではないし、都合があるならフライブルグ様に相談すれば良い」
2人が落ち着くのを待って話を続ける。
「とりあえず、2人はこのお屋敷にいてくれるかい?」
エマとカルネは顔を見合わせ、うんと頷くと了承してくれた。
「では、私とフランツ、後ゴブリン狩りで一緒にいた12名の兵士が君達の護衛になる事になった。いいかな?」
フランツが小さく、やった!と言ったのが聞こえた。
2人はあまり良く分かってない顔で頷く。
ひとまず、2人から了承を得られたので一息つけた。
結局、金はフライブルグ様に引き取ってもらったが、金貨 350枚相当であったため、領の金庫にも現金がなく帳簿につけられる事になった。
エマはフライブルグ様から二度と作らない様にと、きつく叱られたのだった。




