幕間1 研究室1
「お疲れ様です。今日も警報があったようですが結果はどうですか?」
突然現れた博士に驚きながらも敬礼を返す。
博士と言っているが軍属である博士は佐官の最上位である。
こちらは修士を取ったばかりのぺーぺー、階位でいうとまだ学生のため准尉相当だ。
博士はまさに雲の上の人である。
「結果は前回と同じ正答率0.01%です。報告書は後ほどまとめて提出します。」
「0では無いですか。偶然の可能性も高いですがAIを使用した場合は常に正答率0%である事を考えると研究を続行する必要はありますね・・・」
「博士、失礼ながらお伺いしますが今更、人工人脳を使用する意味があるのでしょうか。技術的には200年前の物ですよ。」
「そうですね・・・推測ではありますが理由には思い当たる事がありますね。」
「は?推測ですか?」
「はい、この人工人脳の使用に関しては上からの指示です。」
「上ですか?博士の上というと作戦部の将官辺りですか?」
確かにここは軍の研究室なので戦略大綱に基づいて研究議題が提起される。
しかし博士は黙って指で上を指す。もっと上という事か。
「まさか将軍ですか?しかし将軍とはいえ専門技術にそれほど明るいとは思えませんが・・・」
博士は指で何度もつくように上を指す。もっと上?将軍の上って誰?軍事政権であるこの国で将軍の上?はて?聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥というし聞いてみよう。
「将軍の上ってどなたですか?」
博士は呆れた顔になって言った。
「君は小学校で勉強をしなかったのですか?この国の代表の名前は覚えていますか?」
「それは誰でも知っています。エマ・フォーゲルスベルク女子爵、女神様です。」
「知ってるじゃないですか。」
「え?女神様ですよね?伝説ですよね?創作では無いとしても500年以上前の人物ですよ。からかってますよね?」
「からかってませんよ。一般にエマ様の存在は秘密ですが佐官以上であれば拝謁もできますよ。」
まるで都市伝説が本当だと告げられた気がした。
現在、人の寿命は約300歳が上限だと言われている。
それもサイバネティクスやバイオテクノロジーもりもりでだ。
500年前だと100年も生きられないだろう。
それよりこの話、俺聞いて大丈夫なの?今秘密って言ってたよね?
「女神様の子孫とかではなくて?」
自分の常識を守ろうと抵抗を試みる。
「本人ですよ。見た目は子供ですが、少なくとも私が入隊した100年前から姿は変わっていません。」
「あの、私に話しちゃって大丈夫なんですか?」
「秘密にしといてください。」
「え?」
「秘密にしといてください。ばれると怒られてしまいます。」
怒られて済む話なのか・・・
「話を戻しましょう。AIはその特性上、常識的な判断は人脳に勝ります。しかし空想や妄想等の発想力にていては人脳に及びません。なぜならそう作られているからです。理由は分かりますね。」
「はい、考察の安定性を保つため突飛な思いつきや空想等の余剰処理時間を削減するためだと習いました。」
「また彼等は魔術の行使もできません。これについては人であっても使えない者の方が多いので理由は不明ですが。」
「もしかして、今回の人脳の遺伝子サンプルは魔術師からの供与という事ですか?」
「察しがいいですね。魔術を使えるかどうかは血脈であるかどうかと言われています。そこで今回の人工人脳は全て魔術師の方々から供与いただいたDNAをベースに培養されています。」
「しかし、今回のシステムで使用している人脳は1万基ですよ。この国に魔術師は1000人程しかいなかったと思いますが。」
「同盟国全てから集めたそうです。」
「はぁ、とんでもないですね。すると今回の研究はただの人脳を使った未来予知ではなく魔術・・・この場合は魔法になるんですかね、つまり魔法を使うシステムという事ですか?」
「うーん、正しく言うならば魔法を使いたいシステムという事でしょうか。」
「使いたい?」
「君も知っていると思いますが魔法については、そのシステムが謎だという事です。魔術師が脳内で思考した結果、現象が発生します。そこの繋がりは判明していません。」
「つまり、魔術師のDNAをベースにしているが、その人脳が魔法を行使できるか分からないという事ですか。」
「その通り、ただし義体化した魔術師が魔術を行使出来る事は確認されているので、脳があれば魔法は使えるという事です。」
「しかし魔法が使えるからといって未来予知なんてできるのでしょうか。」
「歴史を紐解いても、未来予知を使った魔術師はほとんどいませんが確実に一人はいます。」
「あーいますね。女神様ですね。でも人なんですかね?」
「人ですよ。塩基配列を調査した事もありますが、魔術を使える以外は一般人と変わりません。むしろ塩基配列の分布からは、国民全員のほぼ中央にあると言ってもいい。」
「し、調べたんですか?」
「はい、当時遺伝子占いというのが流行ってましてね。エマ様から直接お願いされたんですよ。」
「め、女神様からお願いですか・・・?」
自分の中の女神像にひびが入った気がした。
「はい、ただ当時の将軍から二人ともめちゃくちゃ怒られましたね。良い思い出です。」
「は、はぁ。」あれ?これ聞いた俺も怒られる流れじゃない?
「また脱線しましたね。仕事をしないとまた怒られてしまいます。」




