10話 お別れ
それから私はお母さんに語り続けた。
今日あった事、楽しかったこと、魔法を教えてもらう事になったこと。
「将来はお金持ちになるから皆で楽しく暮らそうね。」
いつも話の終わりはこれで締めくくる。
お母さんの顔は目に見えて穏やかになった。しかし病状は悪化し続け熱は上がり続けた。
どうすればもっとお母さんを安心させられるか私は考え続けた。
お母さんは私に話しかけるときいつも笑顔だった。だったら私も笑顔で・・・
それから私はお母さんに話かけるとき笑顔である様に心掛けた。
これならお母さんは安心してくれるはずだ。
でももう私はいっぱいいっぱいだ。
これ以上私が出来る事がないのだ。
悲しみと不安で押しつぶされそうになる心を抑え込み笑顔で語りかける。
自分がやってることが正しかどうかも分からない。
でもこれしか・・・
お医者様は短い時間だけど毎日顔をだして診察してくれる。
今日も診察を済ませたお医者様は簡単に村の状況について説明してくれる。
今年は特に熱病に罹った人数が多く村の4割の人が熱病に罹っているそうだ。
症状の軽い人は3日くらいで回復している人もいる。
しかし症状の重かった人は既に4人亡くなっている。
お医者様は少し口ごもった後、私を見てこう言った。
「患者の体力にもよるが、だいたい症状が現れてから10日で回復できる限界がくる。」
お母さんが倒れてから今日でちょうど10日だった。
「マーサさんは体力のある方では無いし、食事も良い物を取れてなかったようだ・・・お別れの心づもりをしておくように・・・」
「ぴっ!」
私は何を言われたのか分からなかった。頭はまっしろになり何も考えられない。お別れ?誰と?
その時お医者様の向こうにお母さんの姿が見えた。
私はおぼつかない足取りでお母さん方へ近づき手を取った。
すると目から溢れるように涙がこぼれ始めた。
お母さんの手に額を当てると声を上げて泣きそうになった。
その時、頭の片隅にお母さんを心配せてないいけないという思いが浮かんできた。
安心させてあげないと・・・
私は引きつりそうになる顔を無理やり笑顔にして
「お、お母さん・・・わた、わたし、いっぱい、お金稼ぐから、皆で楽しく暮らそうね・・・」
涙でぐしゃぐしゃになった笑顔で私は何とか声を出した。
その時、私の中から笑顔以外の表情が消えた。
2日後、お母さんは亡くなった。その顔は穏やかだった。
葬儀の時、私は笑顔で思いつく限りの将来の展望をお母さんに伝え「心配しないでね。」最後に言い添えた。埋葬する時にお姉ちゃんがお母さんの髪を少し切り取り私に渡してくれた。
その後、葬儀に参列した村人から私を誰が引き取るかでもめた。
「母親の葬儀に笑顔なんて子供は気持ちが悪くて引き取れない。」という意見が多かったみたいだ。それを聞いていても私は笑顔のままだった。
そして聞いていられなくなったお姉ちゃんが「私が引き取って村を出る。」と宣言して揉め事は終わった。
季節も春に差し掛かっていたのですぐに村を出る事になった。
うちは貧乏だったので処分する荷物もほとんどない。
出立の時には村長とお医者様が来てくれた。
二人に挨拶をして村を出る。
お姉ちゃんがどこに向かうか説明してくれたが何も頭にはいってこなかった。
私はお姉ちゃんに右手を引かれ左手にはお母さんの遺髪の入った革袋を握りしめていた。
山を一つ越えたところでお姉ちゃんに聞いてみた。
「もう、大丈夫かな・・・」
言葉が足りないと思ったけど、お姉ちゃんは分かってくれた様で空を仰いでから一つうなづくと、そっと私を抱きしめてくれてこう言った。
「よく頑張ったね。もう大丈夫だよ。」
私は押さえつけていたものが一気にあふれ出した。
「あ゛あ゛あ゛ぁ、お、おがぁさぁぁぁん、も、もう、あえ、あえないぃおがぁさぁぁあん」
涙は止まる事がなく私はその日泣き続けた。




