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デスゲーム町の住人達  作者: ちきじん
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第二話 コードネーム

志南町(しなんちょう)デスゲーム史


これは、現在都市伝説などを中心に出回っている、「デスゲーム」の記録である。まだ大半の人間が嘘だと思っているだろうが、「デスゲーム」は確実に存在する。この記録を後世に残すことで、この町の発展における手助けになれば幸いである。


第18代目 町長 只野秀人(ただのひでと)



・2015年 4月1日


町民である千木野雅人(せきのまさと)がデスゲーム開始宣言の夢を見たとの報告が入った。私はすぐにその内容を事細かに紙に写した。デスゲームの開始時期、夢の内容は信憑性のある情報だったので、すぐに対策本部を設置したが、批判が絶えなかった。



・2019年 1月5日


デスゲーム参加者 コードネーム「インフランサー」が襲来。彼によって、町民794名が帰らぬ人となった。この一件を機に、私と千木野家を中心とした本格的なデスゲーム攻略が始まった。



ーーー


「今って、マジでデスゲーム中なの…?」


「え、そうだけど。」


制服の上に甲冑という、違和感の権化のような妹ーー咲は、腰を抜かして萎縮した兄を横目に淡々と不可視の襲撃者を縛り上げていた。


「アタシはこいつを家まで運ぶから、おにぃはハルくんと学校行ってて!ここからだと家より学校の方が近いからさ」


雅人の耳は全てを受け付けなかった。

今までのショートコントならぬ、超絶ロングコント「デスゲーム」はツッコミ不在のまま進んでいた訳ではなく現実だったのだ。それが意味することは、彼自身が発した何気ない一言や、これまで彼の身の回りに起こった様々な馬鹿げた事象が、ネタではなく真実に塗り変わるということである。


一つ例をあげよう。


彼は妹に、『いつでも武装の準備はできているな』と機嫌が良いときは毎朝の円卓会議後の恒例行事として言っていた。

咲は笑顔で『うん、おにぃ!』と満点の笑みを返していた。


…そして今目の前では、武装した妹が不可視の襲撃者を片手で持ち上げているではないか!


つまり、妹以外にも彼がアニメや漫画の見過ぎで言ってしまった痛々しい語録の数々が、現実になっているかもしれないのだ!


彼は、運び去っていく咲の屈強な後ろ姿を見ながらこの世界に絶望したのだった。


ーーー


僕の名前は佐渡晴弘(さわたりはるひろ)、みんなからは「ハルくん」の愛称で親しまれている。


3年前、僕が中学1年生の頃…コードネーム「インフランサー」が商店街を襲撃し、僕の家族は全員死んだ。あの日以来、僕はデスゲーム自体に強い憎しみを抱いた。噂によると、デスゲームは裏社会の住人達による賭けによって成立しているらしい。さらに、ランダムに抽選された参加者に特殊能力を付与して戦わせているとの噂もあった…。


ーーなんて馬鹿げたゲームなんだ。


何もかも嫌になった。何度も死のうと思った。


たがそんな時、彼は泣き崩れていた僕にこう言った。


『俺がこのデスゲームを終わらせる。だから安心しろ。』


彼は右手を顔に、左手を腰に当てながら僕を慰めてくれた。そしてこう続けた。


『お前はこれから、コードネーム「エージェント」だ。俺と一番近いところで情報を共有しろ。それがお前の役割だ。』


僕はこの言葉を胸に、「エージェント」として天命を全うすることを決意した。


ーーー


「どうもエージェントです。」


近くの草むらから草まみれのメガネが現れ、雅人の脳内は既に限界を超えていた、、


「えぇっ!いたのかよ!」


「はい、最初からずっと近くで監視していましたよ。」


「きもっ!!」


悲痛な叫びを受け、数秒の沈黙の後、エージェントはメガネを光らせながら、ノートパソコンを見つめ出した。


「ごめん、あの…ちょっと言いすぎたーー」

「こちらをご覧ください!!」


雅人の言葉遮り、ノートパソコンを見せつけると、そこには黒ずくめの男に咲がドロップキックを決める映像が流れていた。


「通りでこの町の包囲網を突破できる訳だ…。恐らく彼の特殊能力は、人間や動物から姿を隠せる能力ということでしょう。だから監視カメラには映ったのか…!非常に興味深いですね。」



「…お、おう…そうかもーー」

「では、学校に行きましょう。あそこより安全な場所はないですからね。」


必死に捻り出した返答も虚しく遮られてしまった。



エージェントの案内で迷路を抜けると、いつもの通学路に戻ってきた。


「戻ったのか…日常に…。」


「ええ、まだ油断はしないでくださいね。不可視の能力がどこまでの範囲に及ぶのかまだ分からないですから。もし彼の能力が他者にも及ぶなら、この町のどこかに他の襲撃者が潜んでいるのかも知れません。」


雅人は足を止め、こう言い放った。


「そのコント、いつ終わんだよ!さっさと現実に戻れや!まだ中二病拗らせてんのか!」


「えええ!?そんな訳ないじゃ無いですか、3年前のあの日、あなたにコードネームを与えられてから絶対に護ると約束したのにぃ!あと家族とかの仇を取ってくれるって約束したじゃないですか!」


「仇もなにも、流行り病で亡くなったんじゃなかったか?」


「はぁぁぁぁぁ?!んなアホなことがある訳ないじゃ無いですか!あなたこそ目を覚ましてくださいよぉ!」


エージェントに肩を揺さぶられながらゆっくりと、当時の円卓会議を思い出した…。


『襲撃により、町民のおよそ3000名が、急な発熱や悪寒旋律、喉の痛みなど、急激に出現する上気道症状が起こり、38度以上の高熱が3、4日持続した後、完治した人もいたが、3割が死に至った。我が息子よ、この事態をどう見る。


『そうか…今年は余りにも被害が大きいな…。すぐに日本各地の感染状況を調べさせろ。この町以外にも広がっている可能性が非常に高いな…。今回の襲撃者のコードネームは…インフランサーだ!!』



「いやこれインフルエンザだろ!親父の報告が明らかにw◯ki参考にしてるし!」


「インフルで死亡率3割な訳ないでしょ!マジでそろそろ頭冷やした方がいいですよ!」


当時はなんとなく受け入れてしまったが、たしかに普通では考えられない確率だ…。


「久しぶりの襲撃で混乱するのも分かりますが、そろそろいつもの調子を取り戻してもらいましょうか…」


メガネを光らせるエージェントを見ながら、鳥肌が立った。確かにそうだ…。新たな襲撃者が現れたということは、あの儀式が始まることを意味するのだ…。


「ずばり、今回の襲撃者のコードネームは…どぅるるるるるるる…」


耳にエージェントの耳障りなビートボックスが響き渡る…。


これからはデスゲームとこの恥ずかしさとも戦わなければならない…。

覚悟を決め、右手を顔に当て、イケボで呟いた。


「あっ、アンノウンで…」




・2022年 9月1日


デスゲーム参加者 コードネーム「アンノウン」が襲来。町の包囲網を完全に潜り抜け、千木野雅人と応戦。妹である千木野咲によって捕獲に成功した。







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