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神風書記  作者: はつろな
3/5

縁結びの指輪②




「…はっ!」




目の奥で火花が散ったような感覚。

雲薙は目を覚ました。


もちろん見慣れている天井で、なんなら自室の天井であったことに安堵の息が漏れた。

ときどき読む小説やアニメなんかで「見慣れない天井だ」などという文を見た事があるからだった。




「起きたか」


「! え、と…京さん」


「なんだ」


「(こいつ態度悪っ!)」




ぶっきらぼうに雲薙へ声をかける京に雲薙は眉を寄せる。

元はと言えば意識とサヨナラをした原因は目の前のこの少年なのに。雲薙はため息を吐くと京を見つめた。




「な、なんで私の部屋にいたんデスカ」


「愚問だな。お前の持っている指輪を回収しに来たからだ。これは先程も言ったはずだが?」


「あ、えっと…

(何者ですかって聞いた方がいいのこれ)」




京にバレないよう制服のスカートのポケットに忍ばせている指輪を握りしめる。

一応、祖母の形見なわけで軽々しくは渡せない。

雲薙も蔵から回収する時にこっそり拝借したからあまり変わらないが。



お母さんに来てもらう方がいいか。


それより私が倒れてからどれくらいたった…?


この少年は何者だ…?




「…ん? あぁ、雲薙。お前の質問の意図がようやく分かった。僕の身分が知りたいということか」




悩んでいたその時、京から出された助け舟に雲薙は何度も何度も首を縦に振る。


_というか本当に今まで伝わってなかったんかい!


雲薙がうなづいた事に満足したのか京は雲薙のベッドに仁王立ちし、雲薙を見下ろす。

鋭く雲薙を指さしながら京はこう言った。




「僕は京。風神候補の神の卵だ。

そして、【核渡士】でもある」




漫画でよくある、バーン!という効果音がつきそうなほどの大胆な自己紹介。




「…か、神様?」


「神の卵だ」


「しかも風神!?」


「風神の卵だ」




呆気に取られ放心したように京を見上げる雲薙。

顔の前で手を振り、違う、と意思表示している京が見えないのか何かをブツブツ呟いている。


京は説得を諦め雲薙が落ち着くのを待った。



雲薙は祖母の影響によりファンタジー大好き。

神様、なんて見たことがない。



_しかし待てよ。よくよく考えたら神様は御伽噺なわけで実際にいる訳がない。それに怪しすぎる少年の話を直ぐに信じるのもどうだろう、現実的じゃない。

初対面で持ち物を寄越せ、と言ってくる少年の言葉を信じるほど自分は愚かではないはずだ。




「嘘ね?」


「嘘じゃないわ!」




京を少し見ながらそう告げると素早くハリセンで頭を叩かれる雲薙。

どこから出したのか分からないハリセンを京は着物の袂にしまいながら雲薙を睨みつける。




「今はまだ神の卵とはいえ、ゆくゆくは神となる者をほら吹きよわばりするとは雲薙、お前よい度胸をしているなぁ…?」


「えっ」




怪しげに笑い始めた京。


1歩、2歩と後ずさりする雲薙との攻防戦になる。

しかし相手は自称であれど「神(の卵)」。


一女子高校生の雲薙が勝てるわけもないため勝敗は見えている。

それなのに京はそこから1歩も動こうとはしない。




「気が変わった。すぐに渡せば僕もさっさとここを去ったが…別にお前から貰わずとも僕ならば取れるからな」


「あっ、指輪!」




京が人差し指で空をかくとポケットからひとりでに指輪が京の元へ飛んでいってしまう。


指輪をしっかりとキャッチした京は指輪を確認したあと窓の側へ歩き出す。

雲薙は指輪が飛んだことに驚き京の持つ不思議な力についてそのままの姿勢で考え込んでいる。



気がついた時には京は窓から飛び降りて道を歩いていた。




「あっ、ちょっと待ちなさいってば!」













「あの小娘…僕のことをほら吹きよわばりするなんて」




手に入れた指輪を先程のハリセンのように着物の袂に入れて最初の目的地が書かれた地図を広げて歩き出す。


記憶にあるのは茶髪の人の子。


美しい緑の瞳をしていたため一瞬ではあるが惹き込まれた。今では憎いが。



京はとある神に命じられ地上に降り立った、高天原にて修行中の風神の卵。

卵とは言ってもあとはこの任務を終えれば風神になることが決定している。




「まぁ、僕には人の子を傷つけることは出来ないからな。穏便に終わって何よりだ。

それに、父上に叱られたくはないしな」




京は地図をしまったあと空を飛ぼうと足に力を込めた。




「待ちなさいよ!」


「!」




突然の声と衝撃に驚いて振り返れば、先程の人の子・雲薙が京の腰にしがみつき、逃がさんとしていた。


なんという強い力。

女子でありながら男子にも劣らぬ力に驚くがこれくらい離すのは京にとって開きにくい瓶を開けることより容易い。所詮は女子なのだ。




「おばあちゃんの形見なんだから返してよ!」


「形見…?何を言うか。これは元々、高天原にあった物だ」




女子のためあまり力を入れずに雲薙を引き剥がす。

それでも尻もちを着いてしまった雲薙に京は手を貸して立たせる。

雲薙が立ち上がったのを確認して京は口を開いた。




「知らぬようだから教えよう。

この指輪、お前の口ぶりからしてお前の祖母は【縁結びの指輪】と呼んでいるようだがな…本来の名は【契約の指輪】だ」


「なによそれ…契約の指輪…?」


「神と人の縁を強引に結びつける神の持ち物。

使用用途によっては【縁結びの指輪】と言えないこともないだろうが、神との契約。代償が発さないわけがないだろう。神にしか有利な契約を結ぶ時に使うものだ。

代償のいらない、無償の愛を完成させるものなどではない」




言い切った京はふわりと飛び上がる。




「これは人の子が持つべきものではない。

それに…僕の任務に必要なものだ」


「待って! その任務っていうのは…!」




雲薙が言い切る前に京が飛び立つ。

京が飛び立ったことにより発生した強い風に雲薙の問いかけは遮られてしまった。


雲薙は拳をにぎりしめる。


こっそり拝借した自分が言うことではないが祖母が集めたのだ。祖母のものではないのか。

なにが神の持ち物だ。




「ファンタジーは物語の中だけで充分よ…」





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