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神風書記  作者: はつろな
2/5

縁結びの指輪①




拝啓

3年前に死んじゃったおばあちゃん。




そんな手紙の1部が頭に浮かぶ。


小さい頃に沢山、神様や精霊、巫女、妖怪…ファンタジーいっぱいの話をしてくれた祖母に今すぐ会ってこの状況はどういうことか小一時間意見を求めたい。



目の前にいるのは男の子。

それもただの男の子ではない、何故か着物を着ている男の子。


今は別に七五三の季節でもないしこどもの日でもない

…というか最近ではこどもの日に着物を着せる家庭も少ないんじゃないだろうか。




そんな男の子に…現在…意味もわからず壁ドンをされています…たすけて




「娘。…おい、聞いているか」




眉を寄せながらこちらの顔を覗いてくる男の子。

…あっ、イケメンだ。



私は頭で処理しきれない情報量に目が回り意識にサヨナラを告げてしまった。



意識が手を振る空間で私が思ったことは。




「…なんで私の部屋に男の子がいるんだ…」


















「ただいまー」



とある神社の裏にある一軒家。


そこに家族5人で暮らしている一家が居た。

【天宮家】という、陽光神社の管理をしている一族で昔には巫女のような力を使える者もいたとか。


そんな一族の長女、雲薙。

両親から雲を薙いでしまうほど明るい子に育って欲しいと願いを込めてつけられた名前の女の子はそんな自己主張が強い訳でもない普通の少女に育った。


勉強、運動、友人。


全て普通。平均。平凡。


そんな3Hの彼女は天宮家では珍しかった。

天宮一族は良くも悪くも個性が強い者ばかり生まれる不思議な一族で、彼女の弟も例外ではなかった。


そんな天宮家の例外。それが彼女。




「おかえり雲薙。後で頼みたいことがあるの、お願いできるかしら」


「内容次第かな」




台所で得意料理であるカレーを作る母の言葉を聞き流しながら雲薙は玄関で靴を脱ぎスマホをいじりながら自室へと向かう。


スマホのトークアプリで延々と話されている恋の話に返事を返しているが、表情は無。


一切の感情が読み取れないほどの、無。





彼女は普通である。


しかしその普通は「演じている」普通。

純粋なものではないし簡単に真似できることでもない

相手の顔色を観察し感情の動きを推測して話す。


母からの話も軽く聞き流しているのは彼女が考える、普通の高校生ならする行動に入っていたからであり話はきちんと記憶しているし母の願いにも応じるつもりである。




「…明日、なんの授業だったっけ。隣の席の子、教科書忘れないといいけど」




雲薙は少し雑めに手に取った教科書をカバンから放り出した。

スマホも相手に会話終了を軽く促してさっさと電源を切った。面倒な話は短く終えるのがいい。長々と話していても時間がもったいない。




「よし。お母さんのところ行こ」











「お母さん、お願いって何ー」




父がこの前壊しかけた、開けると妙な音がする襖を丁寧に開ける。

母はカレーを煮込む段階に入ったのか台所のすぐそばにある机で紅茶を飲んでいた。




「あら雲薙。あ、そこ座ってちょうだい。雲薙の分のお茶も淹れたのよ」


「…その色はミルクティーだと思うんだけど」


「そうとも言うわね」




これまた父が壊しかけたせいで不安定になっている椅子に座る。

お気に入りの椅子だったため当時は父に土下座させたこともあったが雲薙はもう既に忘れている。


座ると傍に牛乳を置いてくる母に断りを入れた雲薙はミルクティーを啜る。

少し…というよりかなり甘いそれは偶然にも雲薙の好みの甘さだった。彼女は甘党だった。




「あ、そうそう。雲薙に頼みたかったのはね蔵の掃除なの。とは言っても掃除…って言うよりおばあちゃんの遺品を幾つか取り出してきて欲しいだけなんだけどね」


「遺品?」


「そ。おばあちゃん、怪しげなアイテムを蔵にまだ隠してたらしいのよ…部屋に大量の怪しいアイテムがあったのは雲薙も知っているでしょう?」




雲薙の祖母はいわゆる【オカルトマニア】であった。

どこの国で手に入れたか分からない人形やオカルト系雑誌が遺品整理でこの間、大量に見つかっている。


ここだけの話、雲薙が集めたものもコレクションの中に紛れている。母には言わないが。




「おばあちゃんの部屋の机の棚にアイテムのメモがあったからそれを使って回収してきてちょうだい」


「ふーん…分かった」




母からメモを受け取りリストを確認する。


はなちゃんの呪いの人形だの魂抜き用ティッシュなどのなかなかのラインナップ。

これには雲薙も若干引き気味だ。




「呪われないといいなぁ」














「まぁうちの蔵はコンパクトだし探しやすいかな」




蔵の前で仁王立ちする雲薙はそのまま蔵を見上げた。

年季の入った扉にツタが張り付いている壁。

絵に書いたような蔵である。瓦もついている。


なにかお金になるのもでも入っていそうな雰囲気だ。



リストと懐中電灯を手に雲薙は蔵へとはいる。

独特の匂いを嗅ぎながらリストに書かれた蔵の地図を元にアイテム探しが始まった。




約1時間後。


蔵の外に置いてきた回収物用の箱はかなり埋まってきた。はなちゃんの呪いの人形もあったし魂抜き用ティッシュもあった。

額に光る汗を拭いながら雲薙はメモを確認した。

全部のアイテムにチェックがうたれている。完璧に回収したようだ。




「あれ、この紙…裏になにか書いてある」




紙の表の右下。

祖母の字で「裏アル」と書かれているのに気がついた雲薙は髪を裏返し残るアイテムを確認しようとする。




「…これは…指輪?」




紙の裏に書かれていたのは小さな指輪の絵とその指輪の場所を示した地図。

そして。




「縁結びの指輪…ってなんだろ」




小さな指輪には細い糸のような模様がある。

赤い糸のつもりなんだろうか。だったらこの指輪は小指にはめるのか、それとも薬指なのか。


使用用途は何となく想像できる。


女の子であれば…まぁ、好いた相手に付けるのだろう

だったらペアで置いてあるはずだ。

男の子であっても好いた相手がいればつけるだろうし。


自分と相手を繋ぐ【指輪】。

普通に考えて2つセットだろう。




雲薙はメモに書いてある場所にあった小さな箱を見つけると少し期待を込めながらゆっくり開く。




「あれ、1個しかない!」




自分の予想が外れていたなんて。

そう言いたげな声を上げる雲薙だが、たしかに1つしかない。

縁結び、なんて言いながらこれでは縁が結べないのではないかと若干心配になる。



懐中電灯で照らされた指輪はお世辞にも綺麗な状態とは言えないが値はするのではないだろうか。

とりあえず回収…と行きたいところだが、先程から雲薙はこの指輪に強く惹かれていた。


祖母の遺した指輪。


相手の分がないのが気になるが嵌めなければ問題は無さそうだ。祖母に心の中で謝罪をしながら雲薙はポケットに指輪を入れた。





それから数日後。


指輪は雲薙の御守りとなっていた。

実際、不運なことも少なくなっている気がするし雲薙はご機嫌である。



しかし雲薙は【好事魔多し】という言葉を知らなかった。


良いことには邪魔が入りやすいのだ、というそのことわざを。











いつものように帰宅し


いつものように母の話を聞き流し


いつものように自室へと向かう




そんな【日常】





そんな彼女の普通の日常にイレギュラーが訪れる








「はぁ…疲れた…」


「人の子、名は?」




雲薙がドアを開ける。


目に入るのは見たこともない少年。


空のような青色の着物に雲のように白いマフラー。

左右で形の違う耳飾り。

日本人の象徴である黒髪黒目。


人間のようで人間とは少し違う雰囲気の少年に雲薙は声が出せなかった。出そうと思っても何をいえばいいのか分からないのだ。

こんな少年、知らない。

それに質問された気がするけどちょっと待って欲しい。混乱する。




「どどど、どちら様ですかっ!?」


「京だ」


「そうだけどそうじゃない!」




すまし顔でベッドに腰掛け当然のように答えてくる少年。

年下のようにも思えるが口調からして年上だろうか。

よく分かりにくい。




「さぁ僕は答えたぞ。娘、名は?」




その容姿で「我」とかじゃなくて「僕」なの、と場違いな疑問が出てくる。

着物着てる人間はだいたい一人称が変わっているという偏見をもつ彼女ならではの思考回路である。




「あ、天宮雲薙…デス」


「そうか。」


「なにかうちに御用でしょうか…」




若干思考を放棄した雲薙は開き直ったように少年に問う。






「雲薙、お前は【縁結びの指輪】を持っているだろう?それを僕に渡せ」






そして、今。

私・天宮雲薙は先程、意識とサヨナラしました。


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