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ACT.1 採掘作業員



『本当にあんたは弱い。そんなんじゃ独りで生きていけないよ!?』

 痛い。

 痛いよ姉さん。

『もぅ~ん、か弱すぎてお姉ちゃん達困っちゃう。可愛過ぎて食べちゃいたいん♡』

 もう嫌だ。 

 嫌だ嫌だ嫌だ。

 こんな生活、もう嫌だ。

『このへなちょこぴっぴめ! 早く剣を取れ! また負けたら腹筋500回だよ!』

 もう死んじゃう。

 俺を殺す気?

 俺は死にたくない。

 こんなところで死にたくなんかない。

『ふふ、大丈夫。死んでも大丈夫。生き返らせてあげるから』

 俺、死ぬの!?

 あぁ、そっか。視界がぼやけてきた、もんね。体が冷たくなってきたかも…。



【緊急】


【出血増大】


【心拍数低下】


【意識レベル低下】


【肉体構成指数低下】

 

 あぁ、全部低下だわ。


【…死ぬ、ダメ】


 ん? 急に言葉になるじゃん。さっきから死にそうだって教えてくれてありがとう。


【治癒、修復を試みますか?】


 ▶イエス ▶はい ▶YES

 

 ……オネガイシマス。


 もう後は、お願いします。



♦♦♦


「ハッ!」

 ふっはぁ~。

 全く持って遺憾である。

 久しぶりに夢を見た。

 俺の家系は少しおかしくて、俺には二人の姉さん達がいるんだけど、皆俺を含めそれぞれ父親が違くてさ。それでも仲はいい方だと思った。

 ただ、俺が姉さん達「交じり」とは違い、ただの人間だから、弱い弱いってサンドバックにされること以外、仲はいいはず。

 複雑な事情持ちの家系故に、俺はずっと家の敷地内で家族間のコミュニケーションを取るという「訓練」をさせられ続けた。それが当たり前だと刷り込みされ、気が付けばもう十七年が経過していた。

 外の世界を知らない俺は、勿論、そこに憧れる。姉さん達にずっと作って来たからご飯の作り方は知っているけど、買い物の仕方、なんだったら、電車のチケットの買い方、乗り方、とか。多分普通の人が当たり前の常識やマナーを知らない。あ、学校に行かされてない代わりに、家に講師を呼んで学びはしたけど、実経験が無い。

 ひよこの俺にはまだ早い。

 そう言われ続けて、俺は脱出計画を練ってきた。そして、ずっと進めてきた、家からの逃走が無事成功し、現在に至る。

 俺の夢は、適度な職業について、運命の子に出会って結婚して、子供も生まれて、素晴らしい所帯を持つことだ。

 普通?

 馬鹿野郎。

 普通がいいじゃねぇか。

 どれだけ「普通」がいいか。

 俺はきっと多分普通じゃねぇ家を出る。

 苗字を捨てる!

 俺は「ただの」マクシミリアンだ!

 普通、とは何だ!?

 誰か!

 俺に「普通」を教えてくれ!

 そして、こんな俺を誰か、褒めてくれ!

「あぁ~! 素晴らしい!」

 生まれて初めてチケットを買って、電車に乗り続けること6時間。

 俺の長旅が終わった。

 この後向かう先は早速御役所(ギルド)だ。働かざる者、食うべからず。

「えぇ~っと、マクシミリアンさん?」

「はい」

 金髪ポニーテルの御役所ギルドの受付嬢はふむふむと俺の記入した職業登録願届を見つめる。

「希望職種『採掘作業員』ですか?」

「はい」

 あらゆる仕事探しの広告を見たが、冒険者以外の仕事というのは中々少ない事実を知った。そして、俺にも出来そうな職種を見つけた。それがこの「採掘作業員」だ! 

「そうですか。まずは冒険者になるのがセオリーなんですが…。恐れ入ります、スキルを確認したいので、身分証明書ステータスプレートを拝見させて頂いてよろしいですか?」

「あ、はい。あってないようなものですが」


【名前】マクシミリアン?

【年齢】??

【スキル】??の加護

【∞】


 見よ。

 これだけだ。

 普通なら攻撃力、防御力云々あるだろう?

 それが、ない!

 刮目せよ!

 このはてなばかりの俺の証明書を!

 何で名前に「?」がついてんの? 俺の存在は「?」になるほどおかしいのか? 俺はマクシミリアンかも? なんだよ! 

 言っておくが、これは生まれた時からバグっている。だから、俺の人生もバグってる。

「……こ、これは……見たことがありませんね…スゥー」

 受付嬢がサッとプレートを渡す。

 これ、考えるのを止めた顔だ。

「ごほん。昨今、冒険者に偏り過ぎて、採掘業が減っておりますので、御役所長ギルドマスターに打診しておきましょう」

「ありがとうございます」

 ちらっと、受付嬢が俺を一瞥する。

「つかぬことをお聞きしますが」

「はい?」

「何故このような最果ての未開拓土地『辺境地ノンバース』へ?」

 冒険者以外の仕事で、家から遠くて、都心部じゃない田舎で、未開拓で人口も少なく小規模な町がいい。そう検索したらここがヒットしたのだ。ぐはは! 地図にちんまりと載った、あまり知られてない隠れ土地! 最高だ!

 そんな土地にどうして来たのかって?

 家から限界まで遠く、家から最も離れたかった! ここなら未開拓地へもっとその先へ逃げれる! ……なんて、言えない。

「実は色々、…訳がありまして…あはは」

 どうしよう、しまった。ここへ来た理由のカンペ作って無かったわ。

「訳ありですね! 分かりました!」

 え? そんなんでいいの? 分かってくれるの? え? 空気、読んでくれた?

「あ、ありがとうございます?」

「明日午前9時にまた来て下さい」

「分かりました」

「私はレマノといいます、以後お見知りおきを」

「はい。こちらこそ、これからお世話になります」

 まぁ何というか結果オーライだ。レマノさんが何か察してくれたおかげで新たに人生をスタート出来そうだ。

 これが、いい門出になりますように。



♦♦♦



 ここ、辺境地ノンバースは、およそ人口数百人の、それはそれは小さな町だ。だから露店も宿屋も数えられる程度しかない。自分的に、たった一つのマイホームを建てるのは大分先の話だろうから、宿屋生活がほとんどになるだろうの計算だ。ここまで来るのにほとんどお金を使っちゃったから、早急に仕事をしないといけない。宿屋生活にも限界が来てしまう。

 翌日、約束された時間の15分前に御役所ギルドに向かった。

「おはようございます、マクシミリアンさん」

「おはようございます、レマノさん」

「ジュノバ長」

 レマノさんが声をかけると、いかついおじさんが席を立った。

「ジュノバ長、彼が採掘作業希望者の方です」

 なるほど、如何にも掘ってます! 候な作業服の汚れとくたびれ感。上に立つ者ながら、現場で一緒に作業できる人なんだ。

「マクシミリアンさん、この方はジュノバ・バリトン長。ミレント鉱山の現場監督兼現場維持管理兼現場製作兼現場探索をされてます」

 ぁんだって? 早口言葉? もう監督だけでよくないか?

「初めまして。マクシミリアンです、よろしくお願い致します」

「……」

 思いっ切り値踏みをされたな。

「……こいつが物好きな野郎か」

 物好きて。まぁ、それもそうか。

「何故冒険者をやらねぇ?」

 来た。これも回避、できるのか?

「言えませんが、俺も訳ありなんです」

「……」

 正解に言うと、おまえに冒険者は無理だと散々言われてきたから。姉さんにやられる度にもう一人の姉さんに回復魔術かけられたし、多分すぐ死んじゃうほど、俺はか弱いんだろう。

「俺は何もできません、クズなんです。だからクズなりに頑張ろうと思います」

 おまえはへなちょこひよこのクズだ!

 そう言われ続けてきた。クズ以下にならないよう頑張っては来たけど、メンタルに限界が来た。

 ふと、ジュノバ長はガハハハハハハと笑い出した。そして、俺の二の腕をバシバシと叩く。

「クズがこんないい腕っぷしをしとるんか!? おまえさんはこんな体にどうやって成れた?」

「? そうですか? ひ弱言われますけど」

 家ではこの体は貧相過ぎてひょろひょろ過ぎてすぐに死ぬと言われたけどなぁ。

「おまえさん、歳は?」

「えと……た、多分、17歳ぐらいだと…」

「はぁ? 多分? 舐めとんのか」

 本当なんですぅ! 生まれてこの方、自分が何なのか一番知りたいのは俺自身なんですぅ!

「すいませんジュノバ長。彼の身分証明書ステータスプレートは『?』になっておりまして…」

「はぁ? 何だと? 何のための身分証明書ステータスプレートだ? 意味が無いだろ、見せてみろ」

 おっしゃる通りですえぇ。

 俺の身分証明書ステータスプレートを見せると、ジュノバ長はポリポリ頭を掻き、溜息をつかれた。

「まぁ、ほんまもんの訳ありだな」

「ご理解頂けて嬉しいです」

「分かった、ついてこい」

「はい」

 去り際にレマノさんに会釈して、ジュノバ長についていった。道なりを歩いて数分、辺境地ノンバースを少し離れた先に、採掘場があった。

「……はぁー…」

 やっぱりこじんまりしてるから、採掘場も小さいなぁ。

「ハッ、あまりに大きな穴過ぎて驚いたか。ここが採掘場だ。いつかここを地下迷宮ダンジョンにして、儲けようと考えているだ」

 え? そういう目的? というか、何でも儲けに考えられるって、凄いことだな。でも、これで大きい穴、なのか? 月のサイズもないじゃん。

「ま、その為に鉱石を掘って、かつ道を開拓する為に掘り続けるんだ、いいか? どんどん先へ行くんだ。自分の道を切り開くのは自分だけだいいな!」

 何それカッコいいーっ!

「! はっ、はいっ! 頑張ります!」

 採掘場の傍のボロ小屋から、数名、人が顔を出した。

「あぁ丁度いい、紹介する。おいおまえら!」

 先輩はたった4人しかいないのか。いや、多い方なのかな?

「こいつはマクシミリアン、新入りだ。色々教えてやってくれ」

「よろしく。オレはリューノだ」

 赤髪そばかす君か。赤い髪って本当に目立つなぁ。

「で、こっちが双子のバックとデロンだ」

 そばかす君の隣の、眼鏡ぽっちゃりと眼鏡じゃないぽっちゃり君の双子が会釈した。どっちがどっちかは分からん。

「よろしく」

「で、こっちがリクだ」

 あーはん、ノーマル眼鏡君か。

 まぁ、大将なのがリューノ君かな。

「よろしく」

「じゃぁ後は頼んだぞリューノ」

「はい」

 ほらね。そんな感じだもん。

 ジュノバ長が見えなくなると、大きな溜息が聞こえた。

「さ、テキトーにやんぞおまえら。はーめんど。おいリク、新人にここのイロハを教えてやれ」

 あれ? 態度、変わった?

「…分かったよ」

「じゃ、頼んだ。行くぞバック、デロン」

「「はい、リューノ様」」

 リューノとバックとデロンは、採掘場じゃない方へ行ったけど。…ははーん、様づけねふーんそうかぁ。小さくても弱肉強食か。俺はずっといつだって食われる方だから。

「…君も訳ありとはいえ、災難だね。こんな所に来ちゃって」

 俺は本当の災難をこの身で知っている。

「察したけど、全然災難の内に入んないよ。色々教えてくれ。俺は開拓し(逃げ)たいんだ」

 リクは目を見張ると、ふふっと笑う。

「キミ、変わってるね?」

「ありがとう」

 やった。褒めてもらった! 



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