9:追撃
「メアちゃん生きてる!?」
「……あれ、寝てた?」
ルナに揺すられて、私は上体を起こす。なんかいつのまにか寝ていて気づいたら朝だったってときみたいな感覚だ。
「良かった……気絶とか意識不明とかの状態異常になってたみたいだけど、怪我とかしてない?」
気絶してたのか……ルナは問題なかったみたいだし、やっぱティムシーカー耐久力なさすぎるな。今回みたいな無茶は当分したくない。
さて、今の私は軽い魔力欠乏状態になっているみたいなので、ポーションで回復しつつ周囲の状況を見てみる。
どうやら自分たちは丁度森を抜けたあたりにいるようで、蝶もここまでは追って来ていない。森の中が縄張りなのか、そこから出られないのか……ともかく、無事に逃げ切れたらしい。
そう気を抜いた瞬間、ルナの背後で蝶が羽ばたいた。
「《燃え……」
「うわっ」
私が魔法を唱えるより早く気配を察知したルナが後方に裏拳を放ち、不意の一撃を食らった蝶が「パスッ」と音を立てて弾けた。衝撃波は……出ない?
ルナの第六感みたいな反応速度に驚く私の目の前に更にもう一匹の蝶が現れて、今度は反応する間もなく同じ音を立てて弾ける。弾けた後の蝶は霧のようになって消滅して……それだけ。やはり衝撃波は出ない。
「何なんだ……ダメージもないしどういう意図なんだこれ」
「ん-、とりあえず逃げ切れたとは思うんだけど……ってメアちゃん、その顔のマークってさっきまでなかったよね?」
「顔のマーク? 自分じゃ見れないけど……」
写真を撮って確認してみようとして、ふと私の頬を指さすルナの右手の甲に蝶のマークが浮かんでいることに気が付いた。
「待って、ルナの右手のそれは?」
「え? ……なにこれ!?」
ルナの手の甲に浮かんでいたのは、黒と青で形作られた蝶のマークだった。察するに、私の頬にも同様のマークがあるのだろう。
何かのバッドステータスかとも思ったけど、ステータスを開いても関連するようなものは何一つとして表示されない。蝶のマークである以上、さっきのヴィムファロジカとやらが関わっているのだろうけど……どこを見ても何も書いていないのでお手上げだ。
「なんかいろんなことが一気に起きたから疲れちゃった……こういうゲームなのかな、アリフラって」
「MMORPGは初めてだから何とも……まあ流石に全員にこれが起きてるってことはなさそうだし、何かフラグ踏んだんだろうけど」
wikiの四季森林の項目にはヴィムファロジカに関する内容は載っていなかったはず。ネタバレになるから意図的に載せていないのか、それとも私たちがこれまで見つかっていなかったレアモンスターを発見したのか。あるいは実装直後でwikiの編集が追い付いていないという可能性もある。
それにしても、ユニークモンスターか……レアモンスターとかもそうだけど、ゲームによって同じ言葉でも扱われ方が違うことはよくあることなので、このアリフラの世界におけるユニークモンスターがどのような立ち位置にあるのかを知っておきたい。
というわけでいつも通りのwikiに突撃してページ一覧からユニークモンスターのページに飛び――背後から声が響いた。
『貴様らか』
「……っ!?」
咄嗟に距離を取ろうとしたけど、身体がまるで金縛りにでもあったかのように硬直してしまっていて指一本動かせず、声も出せない。
唯一動く目を動かしてルナの方を確認するけど、そっちも同じ状況のようだ。
『我が分け身を――殺してくれたようだな……忌々しい――このエスファランザ共め……』
声は仰々しい喋り方に見合わぬ子供のような高さで、ザラザラと妙なノイズがかかっている。
声の主の姿は見えない。しかし、徐々に私たちを取り囲むように蝶の群れが現れて、声の聞こえる位置に合わせてひらひらと移動している。
間違いなく、何かがいる。
『貴様らを何人殺そうが意味は無いが……まあ良い、このまま縊り殺してくれる……』
声に合わせて、全身を押さえつける力が徐々に強くなる。ミシミシと嫌な音を立てて視界の端のHPバーが削れていく。
無詠唱による魔法の行使もなぜか出来ず、もはや抵抗する手段は『nyan』――、え? にゃん?
「何だ今の……って」
なぜかいつの間にか声が出せる……というか、全身動かせるようになっていた。
『奴が来たか……忌々しい……――に与する――の影が――!』
謎の声には怒気とノイズが乗っていて、何を言っているのかよくわからない状態になっていた。
ルナはまだ動けるようになっていないらしい。ただ、HPの減少は止まっている。
そっちもどうにかしないといけないけど、今やるべきはただ一つ――このよく分からない蝶をぶっ飛ばしてやる。
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