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7:猫耳の傭兵



 フラワリングボアの巨大はズン……と音を立てて沈み、端からポリゴンの結晶となって砕けるように消えていく。

 それを最後まで見てから、私は地面にへたり込んだ。



「つ、疲れた……」



 肉体的疲労はさほど感じない。ゲームシステム的にはスタミナが切れると一時的に疲労を感じたりするようだけど、私の場合は基本的に魔法で吹っ飛んでるので見た目ほどスタミナは消費しない。

 疲れたのは頭の方だ。


 これまでのゲーム廃人生の中で、自分が同時に複数の物事を処理することに長けているのはなんとなく分かっていて、今回もそれでどうにかなると思ったんだけど……流石にしんどいな。

 この程度のボスでこれだとこの先が思いやられるな。

 なんというか、攻撃自体は別に普通に出来るけど、《荒ぶ風(レギメス)》で前に飛ぶときに杖を後ろ方向に向けないといけないのがかなり凶悪。アレのせいでこんがらがる。



「慣れるしかないんだろうけど……っと」



 MPがある程度回復したのを確認して立ち上がる。

 辺りにモンスターの気配はなく、フラワリングボアの巨体があった位置にいくつかのアイテムが散らばっていた。

 花操猪の大角に荒皮……防具とか作れるかな。ステータス的にまともな装備着れなそうだけど。



「あ、いたいた!」



 背後からかけられた声に振り返ると、一人の少女がこちらに向かって走ってくるのが見えた。頭には猫耳が揺れている。


 このゲームでは、モンスターやプレイヤー、アイテムなどを注視することで名前が表示されるようになっている。注視はなんかこう……しっかり見るような感じ。

 目の前の少女を注視して見ると、頭上に浮かんだのは「ルナ=ベルンシュタイン」という名前。

 名前には見覚えがないけど、まあ雰囲気的に小白(こはく)だろう。



「一応聞いておくけど小白?」


「うん! 身バレが怖いからちょっと変えてるんだよ」



 一緒にゲームを遊んだことはこれまでにも何度かあるけど、小白はゲームごとに名前を変えている。

 理由は小白が言っていた通り身バレの警戒。実は小白は結構な有名人なのだ。

 スカウトから芸能界に入り、ゲーム好きが高じてゲームタレントになり、並外れたゲームの上手さが明らかになってからは事務所と関係のあるプロゲーマーチームに参加することになって……言葉にしてみるとすごい経歴だな。

 今日用事があると言っていたのも多分それ関連のこと。学校に通いながらそっちの活動も精力的に行なっているところは素直に見習いたい。

 私には……無理だな、うん。既にゲームと学校を両立できてないし。

 まあとにかくアリフラではルナと呼ぶように気をつけておこう。



「ちなみに種族と職業は?」


「キャットシッカーの傭兵! 結構身軽だし武器も色々使えるから便利なんだよ〜。メアちゃんは?」


「私はティムシーカーの魔法使い」



 そう言って私は杖を振り、《癒す水(フーラー)》を唱える。輝く水しぶきのようなエフェクトが出て、リジェネ状態になった。

 これ見た目は綺麗なんだけど回復量めちゃくちゃ低いんだよな……《拒む壁(フォージ)》共々あまり使わない枠に入りそう。



「おおー……すごい綺麗! いいなあ魔法使い。私も魔法使いにすればよかったかな〜」


「まあ傭兵にもスキルとかはあるだろ」


「それが他に比べると少ないらしいんだよね。いろんな武器を使える代わりに身体強化系ばっかって感じ。まあそれがよくて選んだんだけどね?」



 よく見てみると、ルナは腰の左右に剣とメイスを提げていて、太もものレッグホルダーにはナイフが収められている。

 なんとなくヒーラーってイメージだったけど結構アグレッシブな戦い方をするんだな。まあ格ゲーのプロだしそこまで不思議でもないか。



「ルナは今レベル幾つ?」


「今は5! メアちゃん探しながら戦ってたら上がってたんだ〜」


「5なら余計な心配は要らないか。一応パラサイテッドボアってやつに気をつけて……ん?」



 私の言葉を遮るように、青い蝶がどこからともなくひらひらと現れた。



「蝶?」



 光を受けて煌めく青白い鱗粉を空中に残しながら飛ぶその蝶は、それ自体が淡く発光しているようで。

 その美しさに見惚れ、私は蝶に手を伸ばし——



「危ない!!」



 寸前で何かを察知したルナによって、私は大きく突き飛ばされる。同時に、私が触ろうとしていた蝶が一瞬白く瞬き——爆発した。

 予想外の出来事に驚く間も無く、ラグの感覚が私を襲う。フラワリングボアが出てきたときの比ではない、あからさまなズレ。



「ルナっ、生きてる!?」


「平気! HPもそんなに減ってない、けど……」



 ルナの視線を追うように、私も周囲を見回す。

 先程までモンスターの気配が無かった森に、青白い蝶が無数に浮かんでいた。

 蝶はフラワリングボアとの戦闘の影響で広場のようになった空間を取り囲み、瞬くような翅の煌めきを波のように連鎖させながら佇んでいる。

 そんな幻想的かつ不気味な光景の中、私の視界にメッセージが現れた。



[ユニークモンスター/十二星群(アステリズム)


[『魔忌』ヴィムファロジカに遭遇しました]



 …………え?



・キャットシッカー

猫耳と尻尾の生えた種族。

STRとAGIに補正がかかる反面、防御系ステータスの伸びは悪い。ティムシーカー程ではないが紙装甲。

シッカー系種族は「異化(アニマライズ)」という種族特性を持っており、発動すると動物的特徴が強くなって特定ステータスが上昇する。ケモ化。

キャットシッカーの場合はSTRとAGIに更に補正がかかり、姿勢制御や動体視力にアシストが入るようになる。

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