4:綺麗な森で火を放つ
本日四話目
四季森林フォストリア
エアリーズから近い位置にあるこのエリアには、四季に因んだ四つのエリアが存在する。特にエリアごとに敵の強さが変わったりするようなことはないらしいけど、モンスターの見た目とかは四季に合わせて変わるらしい。
まあとにかく今日のところはここでレベルを上げるとしよう。どこまで上げるかは特に決めていないけど、少なくとも小白が来るまではここで上げるか。
「……ん?」
森の入口に差し掛かったあたりで、向こうから高レベルっぽいプレイヤーがぞろぞろと歩いてくるのが見えた。
半分以上は純魔法使いという感じの風貌で若干の親近感を覚えつつも、少なくとも推奨レベルは大幅に超えているように見えるし少し警戒もしておく。
まあ警戒したからと言って何かできるわけではないし……とりあえず聞いてみるか。前の方を歩いているプレイヤーのうち、話しかけやすそうなメガネの女性に声をかけてみる。
「何かあったんです?」
私が声をかけると、彼女は創作上の魔女がほぼ100%被っているであろうつばの広い帽子を少し押し上げてこちらを見た。
最初こそ警戒しているような表情だったものの、私が取るに足りない初心者であると分かったのかすぐに警戒を解いて顔に微笑みを浮かべる。
「PKクランの本拠地を潰したんです。他の場所ならいざ知らず、ここはエアリーズからも近い以上初心者狩りが頻発しますからね」
なるほど……このゲームPKあるんだ。少し気をつけないとな。というかこの人たちがいなかったら私ヤバかったんじゃないか。
「見たところ初心者のようですね。ここでレベル上げを行うのなら一応用心しておいてください。もっとも、全員倒したはずですし何も起こらないとは思いますが……」
「まあ、気をつけておきます。始めたばかりなんで取られるものはあまりなさそうですけど」
「初心者狩りは物理的な戦果ではなく行為そのものを報酬としますから。……そうですね、残党がいる可能性もゼロではありませんし、迷惑でなければ連絡先を交換したいのですが。フレンドとは違って本当に連絡を取り合うだけのものですので」
説明を聞いてみると、このゲームにはどうやらフレンドよりも弱い繋がりがあるらしい。いきなりフレンドとなると心理的ハードルがあるものの、連絡先程度なら問題ない。明らかに高レベルプレイヤーだし早い段階で繋がりを作れるのは良いことだとも思う。
というわけで二つ返事で連絡先を交換することにした。
[「阿修羅 晩餐」からポート交換申請が来ました]
名前厳つっ。
まあとにかく申請を受理して、これで連絡先の交換ができた。ポートというのがアリフラにおける連絡先のようなものらしい。
「見たところ魔法使いのようですし、もし入るクランに悩んでいたら是非うちのクランに。魔法職は大歓迎ですから」
そう言って彼女は森の出口へと歩いて行った。
クランかー……こういうのは身内クランとかのほうが気楽でいいんだけど、身内って小白しかいないからな。いずれどこかに入ることも考えないといけない。
まあPKerとかクランとかのことはとりあえず頭の片隅に留めておいて、本来の目的通りモンスターと戦って行こう。
「第一モンスターは……なにこれ。花? 妖精?」
森を進んですぐに現れたのは、30センチほどの人型モンスターだった。
表示された名前はモーヴフラワー。頭部に位置する場所に咲き誇る赤紫色の花と人の胴体に似た根っこが特徴的な、いわゆるマンドラゴラ的なモンスターだ。
ファンタジー序盤の雑魚敵と言えばスライムとかゴブリンとか、あとは兎系のモンスターとかも多い気がするけど、まあこれはこれで都合が良くもある。こんなに燃えやすそうなモンスター、炎系魔法を試すにはうってつけだ。
「《ファイヤボール》!」
簡素な杖をモーヴフラワーに向け、唱えるのは炎の呪文。
言葉を唱え終えると同時に杖の先に火球が生成され始め、握り拳ほどの大きさになると一直線にモーヴフラワーへと飛んでいき、火球は赤紫色の花っ面に直撃して数枚の花弁を散らした。
全身が植物で構成されている以上火属性は弱点なのだろうけど、流石にその一発でやられるほどやわではないらしい。モーヴフラワーはフルフルと花弁を揺らしてから一気にこちらに飛びかかってきた。
「燃やして一発、とはいかないか……《燃えよ》!」
眼前に迫ってきていたモーヴフラワーに対し、今度はティムシーカー魔法である《燃えよ》を発動。火球が生成されてから対象へ飛んでいく《ファイヤボール》と違い、こちらは揺れ動く炎がそのまま発射されて空中で矢のように細く変化する感じになっている。
炎の矢はモーヴフラワーの頭部を穿ち、花弁を散らす。それが致命傷となったようで、モーヴフラワーは地面に倒れ込んで砕けるように消滅した。
「まあ序盤だしこんなもんか」
地面に転がったドロップアイテムを拾ってインベントリに投げ入れていく。花弁とか葉とか、薬系アイテムの素材になりそうなものばかりだった。
「そういえばMP消費量ってどうやって決めるんだろう?」
INTみたいなパラメーターがない代わりにMP消費量が威力になるっていうのを聞いたけど、今は特にそういうのを指定せずとも魔法を使えている。
周囲の安全を確認してからゲーム内マニュアルを開いて検索をかけてみると、MP消費量の指定方法には三種類あることが分かった。
魔法名の宣言と合わせて具体的な数値を言う方法と、脳内で数値を唱える方法。そして「このくらい」というあいまいなイメージで指定する方法。
声に出す方法のメリットは正確さ。イメージ指定のメリットは瞬間的な対応力。脳内で唱えるのはその両方のいいとこどりって感じか。
「とりあえずイメージ指定でやってみるか。こういうのは最初っから難しい方法でやるべきだし」
というわけで新たに現れたモーヴフラワーにイメージ指定を試してみる。威力は……強く!
「《燃えよ》!!!」
脳内で大体のイメージを浮かべながら杖を突き出すと、その先端に巻き上がった炎が渦を描いて空を突き進み、ミサイルのような形になってモンスターに着弾したかと思うと次の瞬間には木の幹のような太さの火柱が上がった。
そんな想定以上の火力に驚く間も無く、私の身体は重力に引かれて緑豊かな大地にぶっ倒れる。
何が起きたのかわからないままチラリと横目で現在のステータスを見てみれば、カラになったMPとバッドステータスとして表示された[魔力欠乏]の文字が目に入った。
……これもしかして難しい奴だな?
阿修羅 晩餐と書いてアーシュラ=ヴァンサンと読むらしい