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21:ミッドナイト・ティータイム




「助けてくれてありがとっス〜!! 本当にもうダメかと思ってたっス……!」



 アムネジアはそう言って、私の手をがっしりと掴みながらぶんぶん振り回す。



「困ったときはお互い様……みたいな?」



 全く自分らしくないセリフが口をついて出たことに苦笑しつつ、もう脚は大丈夫なのかと彼女の脚を見てみると、どうやら治っているのは左脚だけの様子。

 右脚は膝から下が完全になくなっていて…………え? 私の見間違えじゃなければコードみたいなものが断面から溢れてるんだけど……。


 その視線に気づいたのか、アムネジアは笑いながら言う。



「イル・ソラリスって種族っス! いわゆるロボッ娘っスね!」


「あー、なるほど……」



 状態が[骨折]とかじゃなく[損傷]だったのはそういうことか。

 どうやらこの種族は魔法の効きが悪いらしく、回復魔法はあまり効果がないらしい。つまりさっきの《癒す水(フーラー)》は……うん、まあ完全に無駄ってわけじゃないし……。



「で、その、少し謝らないといけないことが……あって……」


「?」


「あの……配信を切るのを忘れてたというか……」


「配信?」


「ごめんなさいっス!!」



 そう言ってアムネジアは頭を下げる。

 彼女の背後には、レンズのついた球体が浮かんでいた。なるほど、どうやら彼女は配信者だったらしい。


 私としてはどうでもいいんだけど、まあ人によっては配信に映りたくないって人もいるだろうし、その辺気を使ってるって感じなのかな。


 ……いや、確かヒメユリが「配信には名前は映らないようになってるし、自分の装備とか見た目とかが汎用モデルとして映るようになる設定もある」とか言ってたし、普通にゲームとして配信が許されてるなら別に良いんじゃないか?



「別に私は全然気にしてないけど……そもそも見られて困るようなものとか無いしな」


「そ、そうっスか? 明らかに空飛んだり変な動きしてたっスけど……」


「いや、アレは普通に自前だから」


「ええ……それはそれでマズい気も……いや、大丈夫なら良いんス、本当に」



 アムネジアに「何かお礼をしたいのでラバロンスまで一緒に行きませんか?」と言われたけど、正直護衛対象が一人増える予感しかしなかったので断ることにした。

 まあ何かの縁ってことで一応連絡先だけは交換しておいて、私は彼女と別れて再びラバロンスを目指し始めたのだった。



――――



 さて、アムネジアと別れてから十分ほど経った。

 地図を見るかぎり、今はラバロンスまでの道のちょうど半分くらいの位置にいる。まだ先は長いな。

 そう思いながら歩いていると、不意にファリスが私の服をキュッと掴んだ。



「こっちに近道があるんです。行きませんか?」


「そうなのか?」



 地図には書いてないけど……もしかしたらそういうのもあるのかもしれない。

 そもそもこの地図自体攻略クランが作ったものらしいので、NPCしか知り得ないルートなら載っていることもないだろうし。


 せっかくなので私はファリスの先導で近道とやらを通ることにした。

 一応ルートはメモしながら進む。将来的に役に立つ可能性もあるし。




 ……というわけで、ファリスの先導で進むこと数分。既に雲行きが怪しくなって来た。

 メモウィンドウに書いているマップが妙なことになっているのだ。


 行ったり来たりしていたり、同じところを回っていたり、やたらグネグネと進んでいたり、どう考えても近道には思えない。

 ……まあもしかしたら私のマッピングセンスが壊滅的ってこともあるのかもしれないけど、地図は昔やったゲームでノイローゼになる程描いたのでそこまで酷いことにはなっていないはず。


 ファリスに聞いてみても「これであってますよ」とか「分かりにくいけどこれが近道なんです」みたいなことしか言わない。


 流石におかしいと思いつつも、ここまで来て引き返すわけにもいかないし……


 どうしようか考えていると、いつの間にか開けた場所に出ていたらしい。森の中ではあるものの、この一帯だけは木が生えていないようで……そんな天然の広場の中心に、白いテーブルがあった。


 テーブルの上にはサンドイッチやスコーンの乗ったティースタンドや湯気の立っているティーカップなどが並べられていて、いわゆるアフタヌーンティーのような状態になっている。



「どういうこと……?」



 意味が分からない。なんで森の中にこんなものが……。

 私の言葉には反応せず、ファリスは何の不信感も抱かずにテーブルへと向かって行く。

 そうして向かい合うように配置された椅子の片方に座ると、机に肘をついて両手の指を絡ませ、そこに顎を乗せて小首を傾げながら口を開いた。



「さあ、座って?」



 この異常な状況に対し、私の体は自分の意思とは全く関係なく動き出した。ムービーシーンと同じ状態だ。

 私は声に導かれるままファリスの向かいに座ってしまう。



「ああ、私はこの日をずっと待っていたの……」



 今までとは全く違う、少女らしからぬ妖艶な声でファリスは呟いた。

 よく見れば彼女の髪色も金から黒に変化しているし、服も最初に着ていたごく普通の少女のものから黒を中心としたゴスロリ的な服に変わっていた。

 その変化を気にも留めず、ファリスは机の上に身を乗り出しながらうっとりとした表情で言葉を続ける。



「若くて、活きが良くて……強くて、従順で……」



 彼女は机の上に膝で立って、猫のような四足歩行で食事をなぎ倒しながら私のもとへと近づいて来て――



「……そして、あの忌々しいヴィムファロジカに敵対する魔法使い」



 それから彼女は私の顔に手を添えて、左頬の蝶のマークを舌でなぞった。

 椅子に座ったまま動けない私の前で、彼女は机の上に立ち上がって、狂ったような満月を背に微笑む。



「私はブルフローザ。私はあなたに全てをあげる。だからあなたも、私に全てを頂戴?」




[ユニークモンスター/十二星群(アステリズム)


[『厭夜(えんや)』ブルフローザに遭遇しました]


[クエスト『ある少女の大冒険』が破棄されました]


[アステリズムクエスト『夜に纏われて』が進行しました]



イル・ソラリス

種族特性:【魂なき種族】

魔法を扱うことができず、魔法の影響を受けにくい。弱体化の影響を受けにくいというメリットと回復系魔術の効きが悪いというデメリットが存在する種族特性。

MP以外の全てに上方補正がかかっているが、MPは一切増えない。

全体的に強いが、回復アイテムは専用のものを使用する必要があるなど個別の仕様が数多く存在するため、それを理解できる人間でないとパーティーを組みにくい。

ちなみにこいつだけ初期スポーン地点がエアリーズではなくソラリスの銀丘である。

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