2:遥か遠き翼の星
帰宅後、私はさっそくアリスフィア・フラグメンツ……略称はアリフラ? まあとにかくデータをヘッドギアにぶちこんでベッドに横になる。
初期インストールはすぐに完了したので、惑星を翼が包み込んでいるようなアイコンに視点を合わせ、私はアリフラにログインした。
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アリフラの世界にログインした私の前に、広大な銀河が現れる。ふわふわと漂うような感覚の中で、不意にウィンドウが現れた。
[キャラメイクを開始します]
その表示が消えたのと同時に二枚のウィンドウが現れる。一つは種族、もう一つは職業に関するものらしい。
種族ごとに相性の良い職があったりしそうだし、まずは種族の方から見てみるか。
そう思って種族タブを開くと、種族のリストみたいなウィンドウが開かれた。
結構いろいろあるらしく、一画面に収まってない。というかスクロールしてもなかなか下にたどり着かない。
「……え、何種類あるんだこれ」
種族っていうから、人! エルフ! ドワーフ! 獣人! ぐらいのものだと思ってたんだけど、パッと見ただけでも数十種類の種族がある。
「エーラ、シッカー、ガンドルート、エメラウス、ウィスドール、ソラリス、カジャク……すごいなこれ」
それぞれ見た目が違うし、種族特性というものもある。これはちょっと……先に職業から決めた方がいいかもしれない。流石にこの量を全て確認するのは骨が折れる。
というわけで職業タブを開く。職業は意外と常識的な数……いや種族のせいで感覚がマヒしてるだけで結構多いな。というかこれ上位の職業になるにつれて分岐がどんどん増えていくみたいなので最終的にとんでもない数になりそう。
「はいはいはい、そういう感じね。なるほどね…………直感で決めよう」
最近は侍とかアンドロイドとかそういうものにばかりなっていたんで、そろそろ根っからのファンタジーってものを試してみたい。それこそ……魔法使いとか。
今までやったゲームだと魔力みたいなパラメーターで魔法の威力が変化するものがほとんどだったけど、このゲームだと消費したMPに応じて威力が決まるらしいのでMPが高くなる種族を探す。
「えっと……このティムシーカーっていうのが一番MPが高いっぽいな」
ソート機能でMPへの補正順に並び変えるとティムシーカーという種族が一番上に来たので説明を見てみる。
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ティムシーカー
ティムシーカーは極めて貧弱な種族ですが、魔法に関する強さは他種属の追随を許しません。
ほとんど全てのステータスに下方補正がかかるものの、MPに最大の上方補正があり、魔法職への高い適性を持ちます。
種族特性:【マナの民】
MPの回復速度が上がり、魔法を一定数連続で使うと魔法強化状態に変化する特性を持っています。
また、先祖代々受け継がれてきた『命を守る為の魔法書』をゲーム開始時点から所持しています。
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ほとんどすべてのステータスに下方補正がかかるって文章がかなり怖い。これ実質極振りスタートなのでは?
「個人的には極振りってそんなに強く思えないんだけどなぁ……でも普通じゃ面白くないし、いいか」
今更常識人ぶって王道を歩もうにも体が勝手に邪道に向いてしまうのだからどうしようもない。
とにかくこれで種族と職業が決まったので、アバターの外見を作っていく。と言ってもこれまでに使っていたものを流用するので一瞬で終わるんだけど。
ただ、種族関連で追加される部位とかがあるのでそこは改めて決めないといけないらしい。猫耳とか角とか付いてる種族があったしそういう部分のことだと思う。
ティムシーカーには一般的な人間とのあからさまな差異はなさそうに見えるけど……一応必要な項目があるようだ。
「魔法強化状態での髪と眼の色……ああ、連続で魔法を使うと魔法強化状態になるってやつか。こうやって見た目が変化するのちょっとカッコいいかもな」
基本的に普段使っている外見データは現実とそこまで大きく変わっているわけでない。
背が少し小さく、胸が気持ち大きめ。髪型はその時の気分で変えるけど、今回は髪の色が変化するギミックがあるので長くしておこう。
目と髪の色は普段は水色で、魔法使用時に赤になるようにした。
これで見た目は完成。最後に名前を決める。
命名に関してはフルネームだったり名前だけだったり色々とできるらしい。今回はフルネームにしてみるか。
「ロダメア=アレキサンドラ」
名前に関してはめちゃくちゃシンプルに本名の「黒田芽愛」から先頭のくを抜いてロダメア。
色の変化でモチーフにしたのがアレキサンドライトだったので、苗字はそこからとった。
苗字はゲームごとに変えるタイプだけど、名前は基本的にロダメアにすることが多い。
まあそれで一回身バレしたんだけど……バレて困るようなことは特にしていないので。
[ロダメア=アレキサンドラ]
[幾星霜より目覚めた者よ]
[彼方より来たる星を拓く者よ]
[ようこそ、アリスフィアへ]
そんな声が脳内に響いて、それから引き上げられるような感覚が私の体を襲った。
その感覚に身を委ねながら、私は目を閉じる。
……この時の私はまだ気づいていなかった。
何となくで決めたティムシーカーという種族がゲーム内屈指の不人気種族であるということを。
そしてその理由が圧倒的な高難易度にあるということを……
序盤は主人公が結構wikiを参照します。オンライン要素のあるゲームだと序盤の効率のいい進め方とか調べたくなる……調べたくなりません?