12:瞬間心変わり
「さてさて、まず何から話そうか……というより、ロダメアちゃんがわざわざ私を頼ったってことはそれ相応のことが起きてるってことだよね? まずはその辺について教えてもらおうか」
ひとまず、私たちはヴィムファロジカに関する情報をすべて話すことにした。
どういう状況で出現したのかとか、どんな存在だったのかとか、あとは妖精恢帰とか。
それをすべて聞き終えて、ヒメユリは深くため息を吐いた。
「はー……とんでもない爆弾をよくも持ってきてくれたねぇ」
「そんなにヤバいのか?」
「このゲームでユニークってついてるものは基本的にめちゃくちゃ価値が高いって思っておいていいよ。ユニークっていうのは、設定上はこの世に一つしか存在しないものだからさ。……あくまでも設定上でね? 実際はユニーク素材は後続のプレイヤーでも入手できるようにもなってるし、ユニークモンスターは一度倒されても再戦が出来るようになってる。ただそれでも価値が高いのは……単純に遭遇するのも入手するのもとにかく難易度が高いんだよねぇ」
そういうものなのか。つまり初日で発見できたのはめちゃくちゃ運が良かったってことか?
「だからみんな見つけても隠しちゃうんだよ。なるべく独占しておきたいからさ」
「ちなみにユニークモンスターって今どれくらい発見されてるんだ?」
「えー……まず倒されてるのが『統機』、『花螂』、『聖譚』、『異炎』、『鮫軍』、『砂燼』の6体。まだ倒されてないのが6体で、合計12体だね」
「隠されてる割には意外と多いな」
「さっきも言った通りユニークモンスターは希少だから発見しても情報を独占するパターンがほとんどなんだけど、最初に討伐されたときに全プレイヤーにアナウンスされるようになってるから完全に隠し続けるのは難しいんだよねぇ。既に倒されてる6体も『花螂』以外はアナウンスで初めて名前が知れ渡ったって感じだし」
「なるほど……。まあ、ヴィムファロジカに関してはもう情報が出回ってるかもしれないけど」
いくら人の少ないフォストリエとは言え、私たち二人しかいなかったなんてことはないはず。
大量の蝶を相手にまあまあ派手な魔法で戦ったり、空を吹っ飛んだり……とにかく目立つ行動ばかりだ。誰かに見つかってないほうがおかしい。
「んー……ヴィムファロジカ、青い蝶、フォストリエ、魔忌、十二星群、ユニークモンスター。目ぼしいワードで掲示板とかSNSとか検索して周ってみたけど、二人が見たっていうユニークモンスターに関する話は一つも出てないねえ。まあ発見したユニークモンスターは秘匿するってのが定石だから分からないけど、とりあえず心配ないんじゃないかな?」
「理由は?」
「ロダメアちゃんなら分かると思うんだけどさあ、ボス戦入る前にちょっとラグるでしょ。実はあのタイミングでパーティ単位でボス戦用のフィールドに転送されるんだよね。見た目完全に同じだからぱっと見分からないけど」
「あ、そういえば私がメアちゃん見つけたとき何もなかったところに急に出てきてたかも! 見間違いだと思ってたんだけど、それが転送?」
「そそ。囲んで数の暴力でぶん殴ったりボスモンスターの取り合いになったりとかそういうのを防ぐためのシステムだと思うんだけど、これユニークモンスターにも適用されるから」
「だから目撃者がいないってことか」
「まあ、それ以前にヴィムファロジカと遭遇しているプレイヤーがいるかもしれないけど……フォストリエって全然人いないからなー。その可能性も薄い気がするんだよね」
まあ確かに人は極端に少なかったけど……最初の街付近の低レベル用のフィールドだもんな。そこに初心者すらいかなかったらそれはもう誰も見向きしなくて当然か。
PKクランの根城があったくらいだし、それだけ人がいないのだろう。
「ま、ユニークに関してはそんな感じかな。このゲームは一応PKもできるから、厄介なところに目付けられたらそれこそ情報を吐くまで粘着される可能性だってある。ユニーク関連の情報は出来る限り人に話さないほうがいいよ~」
「ならヒメユリに話したのは最大の過ちだったな」
「あはは! それじゃまるで私がPKerみたいじゃん?」
私の言葉がツボにはまったのか、ヒメユリは腹を押さえて笑って――
「――まあ、本当にその通りなんだけどね?」
「っ!!」
その声色が変わったのを聞いて咄嗟に《荒ぶ風》を発動し距離を取る。
後ろに吹き飛ぶ私の鼻先を何か鋭いものが掠めていった。着地に意識を割きつつ謎の物体を眼で追う。
パッと見はただの輪っか。しかし外周には鋭利な刃が備わっていて、一部分だけは手で握るための持ち手のような形状になっている。太陽の光を受けて輝くそれは、弧を描くような軌道でヒメユリの手元に戻っていく。
ヒメユリはそれをキャッチするのと同時に勢いを和らげるようにくるりと体を回転させ、その流れで更にもう一つの輪をキャッチ。
模様の違う二つの輪っかをヒメユリが身体の前で交差させたのを見て、私はその武器の名前を思い出した。
「チャクラムか」
「ご名答! 投げたらちゃんと自分の手元に帰ってくる優れモノなんだよねぇ。まあその分威力の調整がしにくいから……本気で来ないとワンパンしちゃうかもよ?」
ヒメユリが喋っている内容が本気なのか冗談なのか、付き合いの長い私でも全く分からない。
急な思い付きで寸前に言った内容と真逆のことをする人間に本気も冗談もないんだろうけど、とにかくこれがあるからヒメユリに頼るのは嫌だった。
「まあそれでこそって感じだけど……」
チャクラムを腕に通してクルクルと回すヒメユリに対し、私は杖を構えた。
こんなんでも仲は良いんです。
・チャクラム
舞闘家などのジョブが装備することのできる投擲武器。
魔力を込めることで自分の手元に帰ってくるようになっている。
舞闘家のメイン武器はチャクラムかダガーの二択だが、チャクラムを操るのは難しいうえにそもそも舞闘家自体がかなり高度な動作を要求されるため、ダガーを選ぶ人が多い。