10:赤く燃え上がる
『姿を現せ、――、――剥落――!』
「《万象燃えよ》!!!」
炎の矢が蝶を巻き込んで燃え上がる。こちらに意識が行っていなかったからか、今までで一番多くの蝶を巻き込むことができた。
「お前の相手は私なんだけど」
『――抵抗するだけの気概はあるようだな。だが今は貴様にかまっている暇などない――《ゼル・アスラ・グラァス》』
蝶の群れを中心に炎が巻き上がった。赤と黒、二つの色が重なり合って竜巻のように荒れ狂うその炎は地面に横倒しになっていくつかの蝶を巻き込みながらこちらへ迫ってくる。
杖を下に向けて《荒ぶ風》でそれを回避し、空中で《荒ぶる波》を使い水流を操作しつつ、重ねて《ダークメルト》を発動。空中に浮きあがった黒い球体がどろりと溶け落ちて《荒ぶる波》の渦とともに広範囲を殲滅する。
「よし、良い感じ……!」
『目障りな羽虫め――《イド・バル・ザム》!』
目の前の空間がゆらりと波打つ。反射的に風を起こして地面に着地し、回復薬で着地時のダメージを回復しながら走る。
《マッドスパイク》を発動して進行方向の蝶を撃破。地面から突き出した土塊を足場に跳躍し、前方の地面に杖を向けてレギメス。後方上空へ吹き飛ばされる私の眼下で土塊が削り取られたように形を変えた。空間ごと削り取る魔法か? ほとんど見えないのが厄介過ぎるな……。
透明の魔法に注意しつつ着地するまでの間で通常魔法を三発撃って、最後に《バーニングスマッシュ》で一帯を焼き払うと、それに合わせて一瞬赤いオーラが視界を覆うように揺らめいて消える。
何かデバフでも食らったかと思いつつ着地すると、拘束を抜け出したらしいルナが駆け寄ってきた。
「メアちゃん! 髪の毛!!」
「髪の毛? 私の水色のサラサラヘアーがどうかし……うわ赤っ」
綺麗な水色をしていたはずの髪がいつの間にか深紅に染まっていた。
ルナは慌てているようだったけど、私はこれが何なのかを知っている。魔法を連続で使い続けたときに髪の色が変わるというアレだ。
いつ変わるんだろうと疑問に思っていたけど、今このタイミングでようやく変わったらしい。
「なんか……テンション上がって来たわ」
本当にテンション上がってるの? とでも言いたげなルナの視線をスルーして蝶の方へと走る。
攻撃を回避するために弱めに《荒ぶ風》を発動して――想定以上の勢いで体が吹き飛ばされた。
そういえばこの状態の時は魔法の威力が上がるんだったか。
つまり普段の感覚で《荒ぶ風》を使うと制御できないレベルで吹っ飛ぶと……はいはい、なるほどね。
「馬鹿だろこれ!」
ヤバすぎる仕様を目の当たりにして取り乱しつつ、吹っ飛んだ身体を立て直すために無詠唱かつMP指定なしの最低値で《荒ぶ風》を発動。
気合でどうにか立て直したものの、理論上一番弱い発動でも通常時に弱めに発動したときよりも勢いよく身体が吹っ飛んでるのでどうしようもない……というか着地が絶望的すぎる。
それでもどうにか自力で衝撃を逃がしながら着地して、杖を構える。
森の中での初遭遇とは違って蝶の数は減りつつある。なら、ここで決めるしかない。
「《バーニングスマッシュ》!!」
大量のMPを注ぎ込んだ魔法は、太陽の如く燃え盛る火球を宙に生み出した。火球は徐々に縮小していき、やがて目に見えないほどの大きさとなった瞬間、その体積を一気に膨張させた。
数多の蝶がその暴走に巻き込まれ、翅を散らす。
それを皮切りに蝶の翅がブロックノイズがかかったかのように乱れ、一匹、また一匹と衝撃波をまき散らして砕けていく。
『結界の――で――、やはりカイ――足りぬ――』
声のノイズも一段と激しくなり、もはや何を言っているのか理解することも難しい。
声には苦痛の色が混ざり、その間にも蝶は砕けていき……
『その紋――ある限り――我が――――』
最後の一匹が砕け散って、それきり声は聞こえなくなった。
[『魔忌』ヴィムファロジカを撃退しました]
[アステリズムクエスト『精霊恢帰』が進行しました]