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1:戦場へ赴く戦士のように

新作です、よろしくお願いします!



 夏休み前日の学校は、浮かれたムードに包まれていた。

 夏休みに何をするかとか、どこに旅行に行くとか、部活の遠征があるとか、そんな話題が耳に飛び込んでくる。

 

 まあ、かくいう私も明日からの夏休みのことを考えて密かに浮かれていたりするわけだけど。

 部活に入っていない私は明日からの夏季休暇を全てゲームに費やすつもりでいて、特に何をやるとか決まっているわけではないけど、それを考えることすら楽しい状態だ。


 自分の席に座りながらそんなことを考えていると、不意に意識が霞んでカクンと首が揺れた。徹夜でゲームをしていたから流石に眠い。

 しかし今日は夏休み前最後の登校日。普段は大半の授業を寝て過ごしている私だけど、今日は起きてよう。

 眠い目を擦りながらそう決意し――



「よし、じゃあくれぐれも大きな怪我とかはしないようにってことで……号令はいいや、解散!」



 ……あれ? 気づいたら12時になっていた。なんで?



「これが超常現象か……」


「寝てただけでしょ」



 声のする方を向けば、呆れた顔でこちらを見る少女が一人。

 長い睫毛に、ひまわりのような色の瞳。揺れる明るい色の髪はゆるくウェーブがかかっていて、全体的に春を想起させるような……そんな美少女。

 名前は浅桐(あさぎり)小白(こはく)。去年から同じクラスの、私のほとんど唯一の友達だ。



芽愛(めあ)ちゃん、一限からずっと寝てたから心配したんだよ?」


「昨日徹夜したからな……というか今日って最終日だから全校集会とかあったような」


「寝ながら体育館まで行ってたよ」


「マジで?」



 我ながらすごい技術だ。これも日頃の練習の成果かな。フルダイブって実質寝てるようなものだし。



「配られたプリントはまとめて机に入れておいたから」



 机の中をまさぐってみると、プリント類が綺麗に折り畳まれた状態で入っているのがわかった。

 私は授業の八割を寝て過ごしているけど、それでここまでやって来れているのは小白のおかげだ。



「結婚するなら、小白とだな……」


「けっ…………それはともかく、早く帰るよ。今日はウチ寄るんでしょ?」


「ああ、うん。夏休みにやるゲーム仕入れたいし」



 一つ伸びをしてからプリントを鞄に突っ込んで、私は小白とともに教室を後にしたのだった。



――――



 学校を出てから大体十分くらい歩いて、私たちは目的地にたどり着いた。

 照りつける日差しから逃れるように入り口の前に立つと、自動ドアが私たちを出迎えるように開き、店内から流れ出た冷たい空気が火照った体を撫でていく。



「いらっしゃい……って小白と芽愛ちゃんか。おかえり~」



 あまり広くない店内の奥。店主の(みどり)さんがレジでタブレット型端末を見ながらひらひらと手を振る。

 ここはGAMES(ゲームズ) HAZE(ヘイズ)

 ゲームの販売形態がダウンロード版を主とし、パッケージ版があまり流通しなくなった現代において絶滅危惧種(レッドリスト)に分類される個人経営のゲーム屋で……小白の家でもある。


 もちろん売り場で寝泊まりしているわけではなく、二階の居住スペースに翠さんと二人で住んでいるらしい。ちなみに翠さんは年の離れた小白の姉だ。


 ちょっと荷物置いてくるね、と言って店の奥に消えていく小白を見送って、翠さんがこちらに視線をやる。



「で、今日は何を買いに来たのかな? まあ夏休みに遊ぶ用のを求めてるんだろうけど。どんな死にゲーをご所望?」


「年中死にゲーを求めてるわけじゃないんですけど。……クソゲーとバカゲーもですよ? ちゃんと王道な感じで良いの無いですか。ジャンルは何でも良いんで」



 普段は自分で遊ぶゲームを決めるタイプだけど、こういう日には判断を委ねてみるのも良いと思って丸投げしてみる。



「うーん……MMORPGとか興味ある?」



 MMOというのは、オンラインゲームのジャンルみたいなもの。何の略かは忘れた。マルチプレイヤーなんとかかんとか?

 MMORPGはそのRPG版……って感じの理解度。やったことはないけどいつかやろうとは思っていたジャンルなので、腰を据えてゲームにのめり込めるこの夏休み期間に始めるのも良いかもしれない。



「まあ、いつかやってみようかなとは思ってます」


「じゃあこれ」



 翠さんが私に一本のゲームソフトを差し出した。名前は〈Alisphere Fragments〉。



「アリスフィア・フラグメンツ……どんなゲームなんです?」


「一般的なMMOだよ。組み合わせの幅が広いとかで今一番人気らしいね」



 MMORPGは観測範囲外だったけど、名前は聞いたことがある。

 調べてみると、発売日は4月1日。体感倍速は最近のスタンダードである3倍。発売が大体4か月前なので……ゲーム内時間では発売から丁度1年くらいか。



「今からやっても楽しめますかね」


「まあ大丈夫でしょ。こういうゲームは基本的に後発が先人の残した恩恵をモロに受けられるからね」


「なるほど」



 世界観はファンタジーっぽい。意外と最近やったゲームは和風だったりSFだったりで、ファンタジーものはやっていなかったのでちょうど良い。

 折角だしやってみようかな……なんて考えてると、翠さんが思い出したように口を開いた。



「あ。ってか小白も一緒に始めれば? こういうのは一緒にやった方が楽しいよ〜」


「え? 何の話?」



 いつの間にか戻ってきていた小白が首を傾げる。



「芽愛ちゃんがMMO始めるから一緒にやればって話」


「うーん……夏休みはイベントとか色々あるからなぁ……どうしよう」


「私は小白と一緒に遊びたい。小白さえ良ければ、だけど」


「……仕方ないな〜!」



 ありがたいんだけどなんかチョロさを感じるな。



「早速今日から始めるつもりだけど、小白は暇?」


「これからちょっとミーティングに参加しないとだけど、そのあとは暇だよ!」


「了解」



 まあ、最初はソロで動きの確認とかしておきたいし丁度いいか。

 というわけで8000円出してアリフラを購入し、GAMES HAZEを後にする。新しいゲームと高揚感を抱えて、私は家路を急いだのだった。



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