晨星落落(しんせいらくらく)
君のお気に入りの柔軟剤がなくなってしまった。物を多く持ってはいなかった君らしい形見ではあったが、どうにも君は僕を泣かせるのが好きなようだ。この匂いは、君の太陽みたいな笑顔に美しい声、心の底に大事にしまい込んでいた君との大切な思い出を浮かび上がらせる。私はこの匂いが好きだから。と、大量に買い込むだけ買い込んで、ほとんど使わずに逝ってしまった。そしてその大量な柔軟剤もついに使い切り、会社も売り上げがどうこうと製造、販売をやめてしまった。
「あぁ、君はもう本当にこの世にはいないんだね」君が死に、葬儀が終わり、果てしないほどの月日が流れたにも関わらず彼女がいないことを実感したのはこの時が初めてだった。
…彼の長い長い“人生”の中で最も涙を流したのはこの時だった。そして、200年、300年生きる彼の“人生”の中で、彼が初めて愛する者を亡くしたのもこの時が初めてである。また、彼が彼女のことを愛していたのだと気づいたのはこの時が初めて出会った。