10 「ここが神澤先生のヤリ部屋か~」
「ここが神澤先生のヤリ部屋か~」
感銘を受けたサキュ猫の声が室内に響いた。
四月某日、晴れ時々くもり、なろう塾特別教室。
本日の神澤ミズキの予定は午前中保護者との入塾面談5件、午後同じく面談4件。そのうち午後7時の面談は竜崎親子との三者面談だ。
体験授業をもう一度するのではなく三者面談にした方が良いだろうとのサキュ猫先生のアドバイスに従った次第である。竜崎ミサキも母と一緒の方が安心するだろう。
昼休みを使ってミズキは特別教室を案内中である。
「会社のお金でヤリ部屋つくるなんてセンセイ凄すぎ」
楽しそうに尻尾を振りながら廊下を歩きだした。
なろう塾が入居している雑居ビルの2階、住居用の1LDKを借りている。今夜予定されている竜崎親子との面談もここで行うつもりである。
「神澤センセ、抱き上げて」
催促されて不承不承黒猫を抱き上げた。
「さすがセンセ、触り方がイヤラシイ」
黒猫なのにポッと頬を赤らめるのでミズキは床に落としてやりたくなった。
「さぁ、なろう塾の本気、見せてもらうわよ!」
ミズキの腕の中でサキュ猫先生はオッドアイをキラーンと光らせた。案内は入口から進めるため、浴室、LDK、洋室の順番となっている。
〔浴室〕
浴室はありきたりなユニットバスだった。浴槽はお世辞にも大きいと言えない。
「二人で入るには少し狭いかな。洗い場も狭いから泡姫実技には向かないか。でも狭いなら狭いなりに工夫する楽しみもあるわね」
すごく前向き。こういう人が上司だったら部下も元気づけられることであろう。普通の職場ならば。
「お風呂はいつでも使えるようになってるの?」
「はい、ガスは通ってます」
「さすが神澤センセイ、やる気まんまんね!」
サキュ猫大絶賛。全く嬉しくないミズキは馬耳東風に聞き流した。
〔冷蔵庫〕
「冷蔵庫いってみよ~!」
LDKの端っこに鎮座ましましている冷蔵庫は堂々たる600リットルサイズで国内メーカー製品なのだが型落ち製品なところがシスタリヤ社長の人柄をしのばせる。
まず冷蔵庫の扉を開ける。中は教務部が用意した得体の知れない薬品が整然と冷やされていた。
「おっ、ちゃんと魔薬各種揃えてるじゃん。『姫殺し』『ヘヴン』『不邪淫蜜』『マンイーター』『プレデター』『性転換魔薬』『性転換魔薬』『閨秀詩人』『桃花源』『アンビバレンツ』……センセ、『アンビバレンツ』は嫌いな相手ほど性的快感が高まる認識改変魔薬だから使う時は気をつけて」
キラーンと目を光らせ忠告してくれるサキュ猫先生であるが、そんなもん使うわけないやろと百万回くらい突っ込み入れたいミズキであった。
「冷凍庫も見せて」
冷凍庫は冷凍、微冷凍二つあっていずれも抽斗タイプだ。
「『ヴァギナ・デンタータ』『生きてるコンニャク』『パライソ』……。『ヴァギナ・デンタータ』と『生きてるコンニャク』は建前上は男性用だけど、ホントは男の娘をメス堕ちさせるための制圧アイテムだから、先生が自分用に使ったらダメだよ?」
「もちろんです、サキュ猫先生」
ミズキは力強く頷いた。
〔ベッドルーム〕
LDKの隣、住居の一番奥にある個室は6畳の洋室になっており、ベッドルームに供されている。
扉を開けて目に入ってくるのはバカでかいクイーンサイズのベッド。
「やっぱり普通の賃貸だと大きなベッドは入れられないね」
サキュ猫が嘆息するのをミズキは理解できなかった。部屋の大半を占めており、大きすぎるくらいだと思っていたからだ。もちろん疑問に思っても質問などしないミズキである。
そんなミズキの内心を見透かしてか、サキュ猫先生はのたまうのだ。
「3~4人を同時指導できるくらいの特注サイズが望ましいわね。生徒は今一人だからこれでもいいけど」
ミズキの腕の中から飛び出してベッドに着地、ぴょんぴょん飛び跳ねてマットの柔らかさを確かめている。
「……ゆくゆくは一軒家に移らないとね。カオリさんがいくつか物件持ってるから、神澤センセイが快楽堕ちさせて貢がせたらいいよ」
目がキラーン。ミズキ、本日何度目かの舌打ち。
〔総評〕
「急ごしらえにしてはすごくできてると思いました。いきなり今日から指導始められるレベルです」
コラボ相手へのリップサービスなのか、ベタ褒めしてくれるのだがミズキの表情は晴れない。
「そうですか……」
残念です、と続けたいところなのである。
「竜崎さんトコの娘さんが来るのは今日ですよね? 何時からでしたっけ?」
「4限目、19時です」
ミズキは答えた。




