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ダンテ戦記  作者: ドンキー
9/66

包囲

「フィオナ姉さん、もうこんな事はやめて」

 必死に訴えかけるエセルにフィオナは、かぶりを振った。

「エセル、所詮、血塗るられた道なんだ。だがお前だけは助けたいと思っている」

「フィオナ姉さん……」

「とにかく考え直してくれ」

 そうエセルを説得したフィオナは、ふぅっと溜息をつき部屋を出た。そこへコリンが顔を真っ青にして駆け込んで来た。

「おいフィオナ、大変だ!」

「どうしたんだコリン、何を慌てている」

「バルダロスの軍がすぐそこまで来ている」

「何だって!?」

 フィオナは、驚きの声をあげた。さらにグレイスも駆け込んで来て同様の報告をしたのを受けフィオナは前髪を掻き毟った。

「一体、どうなってるんだ。ロキをクーデターで転覆させてバルドを出し抜いたはずじゃなかったのか」

 グレイスが腕を組みながら言った。

「バルドの奴、勘付いていたんじゃないか?」

 フィオナもうなずいた。

「かもね。流石バルドだ。それで軍勢は?」

「三万だ。艦隊も引き連れている」

「大軍だな……」

 フィオナは考えている。ロキを制圧したとはいえ、バルドの思わぬ到着でクーデターに加わった軍に動揺が走るのは必至だ。だが退路はない。

「籠城しよう。ドリアニアの本軍の到着を待つんだ」

 フィオナは決意の目で言った。それ以降、ロキは城門を閉め臨戦態勢に入った。


 ロキに到着したバルドはすぐさま軍を展開し、ロキをぐるりと包囲した。カルロから脱出を手引きを受けたギルはバルドに拝謁し、頭を下げた。これでバルドはロキ攻略の大義名分を得た事になる。

「よくやったカルロ」

 バルドの側近のアロルドは、ギルを連れて来たカルロに言った。

「でも隊長、ダンテとエセルが」

「分かっている」

 アロルドはカルロに小声で囁いた。それを聞いたカルロは思わず聞き返した。

「それじゃ……」

「あぁ」

 アロルドは、それ以上は何も言わず黙ってうなずいた。


 バルドは目の前で籠城を固めるロキの街の城壁を睨んでいる。ロキは海と川に面した東西南北の要所だ。それゆえ商業が発達し自治を持つにまで至ったのだが、ドリアニアへの進軍を考えたとき、いつ寝返るか分からない同盟都市のままにしておくのは危険だった。

 出来れば完全に手中に収めたいと考えていただけに今回の騒動は渡りに船と言えた。とはいえ城郭都市ロキは攻めようにも城壁も高く難攻不落である。陸からは難しい。となると海からだが、このロキを囲む海域は潮の流れが早くとても船で上陸する事は困難だ。さらに海へ抜ける川の手前には入江が広がっているがそこへ至る場所を塞ぐ様に障害物が敷き詰められ、さらに抵抗も激しくとても船では渡れそうにない。

 兵糧攻めにしようにもその間にドリアニアの本軍が到着してしまうだろう。その前に決着をつける必要がある。バルドは、かねてより対ロキ用に準備していた作戦を決行した。


 フィオナは、ロキを取り囲むバルドの軍を見て苛立っていた。

「ドリアニアの本軍はまだか……」

 全く現れる気配を見せない援軍を待ちわびるフィオナにコリンは言った。

「フィオナ、落ち着け。このロキは難攻不落だ。現に奴らは包囲するだけで全く攻めてこないだろう」

 フィオナはうなずくものの、それがなお不気味ではあった。

「何にせよ相手はあのバルドだ。どんな手を使ってくるのか予想が出来ない」

「あぁ、それについては気になる報告がある。バルダロスの艦隊が最近、姿を消しつつあるんだ」

 それを聞いたフィオナはほくそ笑んだ。

「このロキに海からは無理だからな。入江に入ろうにも障害物と鉄壁の防御に守られて海からは入れない」

 であるが故にロキは難攻不落なのだ。自然とフィオナ達の意識は海から離れた。だが、その数日後、そんなフィオナ達を驚かせる報告が入る事になる。

 何と消えたバルダロスの艦隊がそっくりそのまま入江に姿を表したのだ。報告を受けたフィオナ達は信じられなかった。それもそのはずである。海から入れ江への入り口は厳重に封鎖されているのである。では一体、どこから艦隊は入江に現れたのか。

 それは陸からだった。何とバルドは密かに海からの鉄壁の入り口を回避して陸路、船を移動させたのだ。船を車輪を付けた台車に乗せ、一斉に兵に引っ張らせて日夜、艦隊そのものを山越えさせたのだった。

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