クーデター
「フィオナ姉さんがっ!?」
戻って来たダンテとカルロから話を聞いたエセルは、驚きの声を上げた。
「あぁ、今度はこの都市国家ロキでクーデターを起こす腹らしい」
答えるカルロにダンテも合わせた。
「今夜だ、それまでに何とかしないと手遅れになる」
ロキは、東西交流の要所であるとともに対ドリアニアの要でもある。もしこのロキが離反するような事になれば、バルダロスの同盟全体に亀裂が入る事になるのだ。事態は深刻だった。
「本国に知らせている暇はない。俺達で阻止するんだ」
ダンテは決意の目で言った。
「でも、どうやって?」
尋ねるカルロにダンテは、言った。
「カルロ、このロキにうちの王様と親しいエディ様がいる。すぐこの知らせを届けてくれ」
「分かった」
カルロは、ダンテと落ち合う場所を確認し走り去って行った。
「エセル、このロキの自治の長は?」
尋ねるダンテにエセルは答えた。
「ギル様です」
「知らせに行こう。案内してくれ」
「分かりました」
二人は、早速ギルの元へと夜のロキを走って行った。
ダンテからクーデターの話を聞いたギルは、始めは信じられなかった。だが、周囲から続々と入ってくる異変の知らせに至急、兵を走らせた。だが、何分時間がなかった。
「今、仲間がうちの軍と親しいエディ様に応援を求めています。とにかくギル様は、一刻も早くここを離れて下さい」
そう詰め寄るダンテにギルはうなずき、側近のものを連れ屋敷を離れて行った。
「エセルも逃げて」
「え、でも……」
「いいから早く、俺がここで時間を稼ぐから」
ダンテにそう説得されたエセルは、うなずき屋敷を後にした。
ロキの街は至るところでクーデターの軍が押し寄せ物々しい空気に包まれている。その勢いは止まるところを知らず、たちまちロキの要所はクーデター軍の制圧下に置かれて行った。
「市内は概ね制圧です」
兵から報告を受けたフィオナは、うなずき視線をギルの屋敷へと向けた。既に周囲は取り囲んである。あとはギルの身柄を確保するだけだった。
「いっちょ暴れてやるか」
「あぁ」
いきり立つコリンとグレイスにフィオナが剣を引き抜いた。
「いいか、殺すなよ。生け捕りだ。分かったな」
そして、合図ととも一斉に屋敷の中に雪崩れ込んでいった。一気に中の兵と壮絶な斬り合いになり、その中を潜り抜けて奥へと入っていったフィオナに飛びかかる一人の少年が現れた。ダンテだ。
「フィオナっ!」
叫ぶダンテの剣を受けたフィオナは、ニヤリと笑った。
「フッ、お前はあのときの」
「ダンテだ。もうギル様はここにはいない」
「何だと!」
「勝負だ。フィオナ」
ダンテとフィオナは、互いの剣をぶつけ合った。火花を飛び散らせ一進一退の攻防を繰り広げる二人にある人物が駆け寄った。
「もうやめてフィオナ姉さん!」
ダンテは思わず目を見開いた。
「エセル!、なぜ戻って来たんだ!」
その直後、ダンテは背後から襲い掛かった大柄なグレイスの大振りの拳に思いっきり殴り飛ばされた。
「くっ……」
強烈な一撃をモロに受けたダンテは、床に転がりうずくまって意識を失った。
「ダンテっ!」
飛びつこうとするエセルの腕をフィオナが掴んだ。
「フィオナ姉さん!」
暴れるエセルを組み伏せるフィオナは、ダンテにとどめを刺そうとするグレイスを止めた。
「そいつは連れて行く」
「ほぉ、いいのかい?」
尋ねるコリンにフィオナはうなずき辺りを見渡した。
「屋敷は、ほぼ制圧した。ギルには逃げられたようだがね」
肩をすくめるコリンにフィオナは「仕方がない」とため息をつきグレイスの方を向いた。フィオナの目配せを受けたグレイスは、黙って床に横たわるダンテの体を持ち上げ、肩に担いでいった。




