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ダンテ戦記  作者: ドンキー
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 西の大地の覇者であり、東の大地への挑戦者でもあったバルドの生涯は、常に戦いの歴史の中にあった。バルドが群雄割拠の中から頭角を現し、西方世界と東方世界を繋ぐべく東への遠征を切り開いたのだ。

 その戦乱の申し子たる男が同じく戦乱の中に生まれた宿敵ブルーノを倒したその日に忽然と亡くなったのである。死因は浮遊石病による急死であった。ダンテは思う。

「あと一年あれば……」

 そう、あと一年あれば、完全に大陸を制覇できたはずだ。現に九割方、覇はなっているのである。

「無念だっただろうな」

 そう思わざるを得なかった。そんなダンテにチコは言った。

「王様は知ってたんだ。もう自分が長くないことを。あのとき、僕を枕元に呼んで王様は言ったんだ。あと一月だけ自分をありのままに生かしてくれって。だから、そう処方した。王様はこの戦乱の中を戦い切ったんだ。きっとあれで満足だったんだろうと思う」

 そうチコに諭されダンテは黙ってうなずいた。

 やがて、バルドの遺体の周りに組んだ木材に火が放たれた。火はたちまちバルドの遺体を飲み込み紅蓮の炎となって立ち上り始めた。

「王様ぁ」

 周囲から王の死を忍んで側近達の嗚咽が響いた。燃え盛るバルドの遺体を前にしながら、側近達が涙を流して別れを惜しむ中、ダンテは物思いに耽っていた。バルドに拾われてからダンテの一生は駆け抜けるようでもあった。そこに一区切り打った今、ダンテは目の前の火葬を眺めながらチコに聞いた。

「これからどうなるかな」

 チコは言った。

「この十年はバルドとブルーノの時代だった。その時代を設計をしたのはグレゴリーだ。奴は次の十年の設計を今、しているところだと思う」

 そのグレゴリーである。あれからバルダロス軍が東の大地を平定する中で全く姿を見せないのだ。どこで何をしているのか、ダンテ達にはさっぱり分からなかった。

 それが分かったのは、しばらく経った後のことだ。


「グレゴリーは、異空間にいる」

 そう話すチコにダンテは尋ねた。

「異空間って、前にチコが浮遊石で時空を変えたときに行ったあの草原か?」

「そう」

「何しに?」

「おそらく産卵をしにだと思う」

「産卵だって?」

 思わず聞き返すダンテにチコは説明した。

「ブルーノの遺体をよく調べてみたんだ。そしたら分かった。あのブルーノもやはりグレゴリーによってアレを植え付けられていたんだ」

 ダンテの頭にあの草原がよぎった。チコは続けた。

「ブルーノが死に、バルドもあとを追った。覇を唱えたもの同士の大量のエネルギーが今、その草原に集まっているんだ」

「だから、それらは浮遊石になるんだろう」

「いや、これだけエネルギーだ。おそらく奴はそれを浮遊石とせず自身の中にため込み次の覇を競うものの頭に植えつける卵にしようとしている節がある。僕達の頭に施したようにね。植え付けたあとはその宿主の頭の中に孵化し、草原のビジョンとなって残り続ける」

「選ばれし者として覇を唱えるべくこの下界で活動を開始する、という訳か」

 ふとダンテは首を捻った。

「けどちょっと待てよ。俺もチコも覇を唱える程の力はないじゃないか」

「目的が違うんだ。僕はローチェ家の人間として、この下界を賭場とするためにこのビジョンを植え付けられた。だが君は違う。君は覇を担う人物として植え付けられたんだ」

「俺が? おいおい。俺は奴隷上がりの、今も将とは言え、しがない末席の人間だ」

「だが、何らかの関係があるはずだ」

 チコは、ダンテの目を見ながら続けた。

「ダンテ、もうこんな猿芝居はやめさせよう。今がチャンスだ。産卵の瞬間はいかに奴といえども無防備になるはずだ。そこで奴にトドメを刺すんだ」

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