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ダンテ戦記  作者: ドンキー
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王手

 いよいよバルダロス軍がドリアニア軍に対し王手を掛けようとしていた。大陸制覇へあと一歩と迫ったのである。その頃には、ダンテとカルロも一端の将になっていた。

 相変わらず二人は、忙しい。いまだ抵抗を続けるドリアニア軍の同盟都市に対し、調略によって切り崩すために日夜、奔走していた。言わば戦わずして覇を決しようとしていたのだが、そこはブルーノの統率力である。軍師グレゴリーの指揮の下、士気も高く最終決戦に向け着々と準備を進めており、和睦に全く応じようとしてこなかった。

「やはり最後は決戦か」

 そう思われていた矢先、バルダロス軍に思わぬ異変が襲った。元よりダンテもカルロもバルドの反応が妙に遅くなっていた事に気付いて不審に思っていたのだが、風の便りでその噂を知らされ思わず耳を疑った。

「王様が倒れた?!」

「分からない。そういう噂だ」

 カルロは、小声で答えた。


 噂は事実だった。ある日、突然倒れたバルドは、連日、原因不明の高熱に侵され床に伏せていた。微睡の中に出てくるのはあの草原である。それが今回は、まるでそこに呼ばれているかのような症状なのである。

 実はこの症状は、兼ねてから大陸中で広まりつつあるものだった。浮遊石病という。なぜか浮遊石伝来とともに流行り始めたからそう呼ばれたのだ。浮遊石のことならば、とチコが野営陣地に呼ばれた。

 現れたチコにダンテは口止めを促した後、口を開いた。

「チコ、実は……」

「王様が倒れたんだろう」

 ダンテは驚いた。何とチコは知っていたのである。

「なぜ、それを?」

 尋ねるダンテにチコは、言った。

「浮遊石の変質がそれを告げていたんだ。この世界がまた大きく変わろうとしているってね」

 やがて、チコはダンテとともにバルドが寝込んでいる床までおもむいた。バルドは、譫言のように「呼ばれている」と呟いている。

 ダンテが知っているあの力強い王からは想像もできない姿だった。

 やがて、二人に気がついたバルドは、チコを枕元に呼び寄せ、何かを呟いた。それを聞いたチコは言った。

「承知しました」

 やがて、何やら作業を始めた。そんなチコにダンテは、言った。

「チコ、今、王を失うわけにはいかない。頼む」

 チコは、黙ったままうなずきバルドにある薬を調合し、飲ませた。それからしばらく付きっきりで介護したところ、バルドは先程までの高熱が嘘のように引き、元の元気な姿に戻って行った。

「おぉチコ、そして、ダンテ。礼を言うぞ」

 バルドは笑顔を見せ、配下に命じた。

「腹が減った。これでは戦さが出来ん。至急、何か用意してくれ」

 慌てて食材を取りに走る配下を横目にダンテは、呆然としている。そのバルドのあまりの回復力に、まるで狐に摘まれたような気分になった。

「何はともあれ、よかった……」

 ダンテは、元気になった王にほっと胸を撫で下ろした。

 やがて、ダンテはバルドの元を下がりながら、チコに言った。

「助かったよチコ。流石は、うちの王だね。あの様子だとすぐにでも……」

「ダンテ」

 チコは声を潜めて、ダンテにのみ聞こえるように言った。

「あの王、もう長くない」

 一瞬、ダンテはチコが何を言っているのか分からなかった。

「な、何言ってんだよチコ、王様はあんなに元気になったじゃないか!」

「ダンテ、事実なんだ」

 そう告げるチコの目は真剣そのものだった。それを見たダンテは、血の気が引く思いがした。

「なんてことだ……」

 ダンテは、チコの言葉の重さに目の前がクラクラした。全大陸の覇をかけて遠征に繰り出しはや十年、その制覇まであと一歩のところに来てバルドは命運尽きかけているのである。

「ダンテ、僕達には時間がない。次の戦いでバルダロスとドリアニアの勝敗は決するだろう。その時、この世の創造主、グレゴリーとエセルに一糸報いなければ、僕達も危ないんだ」

 ダンテは聞いた。

「どうすればいい?」

 チコはすかさず言った。

「まずは、王様を助けてドリアニア軍との戦さに勝つんだ。全てはそれからだ」

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