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ダンテ戦記  作者: ドンキー
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雪解け

 雪解けが始まった春先、バルドは再び全軍をダグラスの陣地へと進めた。同時にダンテとカルロは自身の軍団を連れてシンディーから教わった間道を進んで行った。目指すべきはダグラスが展開する一帯の背後である。

 洞窟の中に入ったダンテとカルロは松明を照らしながら意外に整備された道を見渡した。

「ここはシンディーのシリナポリスが使っていた道らしいな」

 カルロが馬を進めながらダンテに話しかけた。

「あぁ、そうらしい。かつては栄えた王の道だ」

 覇を唱えては消えて行く王国、ただそのあとに残された道のみがかつての栄華を忍ばせている。幾度となく繰り返される争乱の歴史の中でどれほどの王が現れ、そして消えて行った事だろう。

「今度は俺達バルダロスが全土に覇を唱える番だ」

 カルロは意気揚々と進んでいく。ダンテはふとシンディーが言ったセリフを思い出した。シンディーは言った。ドリアニアは直に滅び、その跡を継ぐバルダロスも長くはない、と。それが何を意味するのかはダンテには分からなかったが、ただその傍観者としてのシンディーの達観したセリフが気にはなっていた。

 洞窟を抜けると、細い道が連なっている。ダンテとカルロは軍を一列にして進んで行った。そして、出た広間で二人は見た。ダグラスの陣地の背後がガラ空きで丸見えなのである。二人は剣を引き抜いた。

「兄弟、行くぜ」

「あぁカルロ、やろう」

 二人は剣をカチンと合わせると誓いを立てた。

 ーーここで一気に功を立てる。

「よし、ものども、敵は目の前だ。一気に攻める。行くぞ!」

 ダンテは声を張り上げ、自らの軍を鼓舞すると一気にダグラスの陣地に攻めかかった。


 いきなり背後から強襲を受けたダグラスは、思わず立ち上がった。

「おのれ、バルドめ」

 取るものも取らずにダグラスは、テントを出るとさらに部下が走り寄って来て報告を述べた。

「前方からもバルダロスの大軍が押し寄せて来ております」

 いかに地の利を得て大軍が不利な山間部に陣取りゲリラ戦術を取っていたとは言え、前後を挟まれ強襲されてはひとたまりもない。

 ダグラスは覚悟を決めた。

「俺はここで死ぬ」

 そして、周りの兵に言った。

「皆のもの、行くぞ!。続け!」

 ダグラスの兵は、全軍が死を覚悟した兵と化した。その奮闘ぶりは凄まじく、前方に迫るバルダロス軍を幾度となく押し返して跳ね除けた。だが背後を取られた致命傷は免れない。前後に分断されたダグラスの兵は次第にその数を一人、また一人と減らして行った。

 遂にダグラスは自らの部隊のみが残され、周囲をバルダロス軍に完全に包囲される事態に至った。バルドは言った。

「ダグラスよ。降伏せよ!」

 だがダグラスは、それを笑った。笑っただけでなく最後の力を振り絞ってバルドに向かって勇猛果敢にも突進し始めたのだ。ダグラスは走った。そして、その中でバルダロス軍の槍の中に貫かれ、遂に息絶えるに至った。

「兄上……」

 呟き息絶えたその顔は安らかな笑みを称えていた。


 ダグラス戦死の報を受けたブルーノは、使者に「そうか」と手短に言って下がらせた。ブルーノは無表情を装ったまま傍らの軍師グレゴリーに聞いた。

「爺、バルダロス軍への決戦の準備は出来たか?」

「はっ、ようやく整いましてございます」

 ブルーノはコクリとうなずき若干、震え気味の声で言った。

「いいか、次の一戦でバルドを血祭りにあげてやるのだ」

「かしこまってございます。弟君が身をもって稼いでくれた時間、決して無駄には致しません」

 そう答えるグレゴリーにバルドは、黙ったままうなずくと、王座を離れ自身の部屋へと潜り込み、崩れ落ちるように椅子に座り込んだ。机の上には弟の残した短刀が置かれている。

「グレゴリーよ……すまん……」

 ブルーノは、その短刀を抱きしめ最愛の弟の死に肩を震わせて号泣した。

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