シンディー
娘の名は、シンディーと言った。
「間道ですか?」
ダンテとカルロを迎え入れた家でシンディーは聞いた。
「そう、この辺りを迂回できる道を探してるんだ」
地図を見せながら話すダンテにシンディーはうなずいた。
「知ってます」
「え、知ってる?」
「えぇ」
シンディーはダンテとカルロが見せる地図の上のある一帯を指差しながら答えた。
「ここに洞窟があります。そこを通ってこうやって抜けられる迂回できる道があります」
「ほ、本当かい?」
尋ねるダンテとカルロにシンディーはうなずいた。
「地元の人間しか知らない道ですけどね」
その瞬間、二人は思わず顔を見合わせた。
遂にダンテとカルロはダグラスの軍を迂回し背後に回る事ができる間道を見つける事ができたのだ。
「ありがとう、シンディー!」
思わずシンディーの手を取るダンテとカルロにシンディーは「ただし」と付け加えた。
「私がこの間道を伝えたという事は内緒にしておいて下さい」
「分かった。約束する」
二人は、喜んで約束を請け負った。
「でも、シンディーはこんなところでずっと一人で過ごしているの?」
カルロが、部屋を見渡しほぼ世捨て人のような状態のシンディーを気にかけた。
「えぇ、私はもはやこの世界に未練はありませんから」
シンディーは、ふふっと微笑みつつ、話し始めた。
「私は、シリナポリスの王家の末裔なんです」
「シリナポリス?」
キョトンとするダンテにカルロが言った。
「聞いた事がある。かつて、この地域で栄光を極めた王国だ。ただその後、ドリアニアに滅ぼされ消滅したはずだ」
「そうです。今となっては知る人も少ないですけどね」
「そうか。でも大丈夫だよ。俺達がドリアニアをやっつけて仇を打ってやるよ」
意気盛んに話すカルロにシンディーはうなずいた。
「そうですね、ドリアニアは直に滅ぶでしょう」
そして、驚くべきこと言った。
「そして、バルダロスも長くはもたないと見ています」
「え!?」
思わずダンテ達は、聞き耳を立てた。
「それはどういういこと?」
「深い意味はありません。ただそんな気がするだけです」
神妙な顔で尋ねる二人にシンディーはそう答えた。栄枯盛衰、覇を唱えては消えていくこの世の連鎖をシンディーは冷めた目で見ている。
「私は世捨て人ですから」
そう話すシンディーは、決して自分がこの先、この世界の表舞台に立つ事がない傍観者と決めつけているようでもあった。
やがて、バルダロスの陣地に舞い戻ったダンテとカルロは、その足でバルドに拝謁した。
「間道があるのか!?」
バルドは、二人の報告に思わず膝を打った。すぐさま二人に新たな命令を与えた。
「お前達、兵をやる。それでその間道沿いにダグラスを追い落として来い」
「え?、俺達がですか?!」
「そうだ、言わばこの山岳地帯を制圧するための特殊部隊だな」
さらにバルドから与えれた兵の数を聞いた二人は驚いた。
「で、でも俺達、ただの一兵卒ですが」
「期限付きで今からお前達はこの特殊部隊の軍団長だ」
二人は、バルドによってそれだけの兵を率いる身分に一気に引き上げられた。
「いいか、うまくやれよ。お前達なら必ず出来る」
バルドはそう話し、意気込む二人の肩を叩いた。
バルドの元から引き下がった後、カルロは両手を眺めながら呟いた。
「軍団長、かぁ……」
その横でダンテもうなずいた。
奴隷上がりの自分がここまで使ってもらえるとは思っても見なかっただけに感じるものがあった。
ーー自分にも運が向いて来た。
カルロは満面の笑顔でダンテの背中を叩いた。
「よし、気合入れていこうぜ、兄弟!」
「あぁ」
カルロにダンテは顔を引き締めてうなずいた。




