ロキ
「ここがロキか」
やって来たロキの街でダンテは辺りを見渡し声を上げた。
「大きな街だなぁ」
「あぁ、東西交流の一大交易拠点だからな。うちの王様とも同盟を結んでいる都市国家の一つだ。我が軍の要所でもある」
答えるカルロも上機嫌だ。
「折角だ。ちょっと観光して行こうぜ。エセル、案内頼むよ」
エセルは、うなずくとダンテとカルロを連れてロキの街を周回し始めた。そして、街並みが見下ろせる高台に来ると辺りを見下ろしながら、説明した。流石に大都市だけあって、城郭もそびえ立っており、街並みも活気に溢れている。
その後、情報収集に務めていく三人は、ふと、妙な噂を聞きつけた。名門のローチェ家がこの都市国家に最近、盛んに触手を伸ばしていると言うのだ。
「ローチェ家か……」
ダンテは、表情を曇らせた。自身を奴隷として売ったのが、そのローチェ家だっただけにいい思いはしない。表では名家を気取っているものの、裏では人身売買も厭わず汚い事も平気で行い、とにかく利に聡いというのが専らの評判だった。
「この間、うちの王様を襲うようドリアニアに手引きしたのも奴らローチェ家だって話もあるしな」
そう話すカルロにダンテは、溜息をついた。
「証拠がない。エセルの姉のフィオナも逃げたまま行方が分からない」
「全くシャクな連中だ」
鼻を鳴らすカルロにダンテは、言った。
「皆、じっと見てるんだ。バルダロスとドリアニアのどちらに着くのが得なのかを見極めるためにね。このロキだって同盟都市の面をしてるけど、いつ掌を返されるか分からないからね」
カルロは、うなずいた。
「あぁ、乱世だ。強くなきゃ生き残れないよな、兄弟」
その後、ダンテ達はそのローチェ家の一団がロキにある屋敷にやって来ていると言う情報を聞きつけ、その屋敷に忍び込む事にした。
夕暮れ、見守るエセルを置いて屋敷の敷地内に潜り込んだダンテとカルロは、酒樽から這い出ると倉庫の中を見渡した。
「おいダンテ、これ見ろよ」
ふとカルロが手招きする方へ行くとそこには、武器が山ほど積まれていた。最新式の物ばかりである。
「この紋章、ドリアニアのものだ」
呟くダンテにカルロはうなずき言った。
「やっぱり、奴らドリアニアと通じてるんだ」
「でも一体、何を企んでいるのだろう」
そこへふと物音がして、二人は慌てて身を物陰に潜めた。倉庫に誰かが入ってきたようである。人数は四、五人程。その顔ぶれを見てダンテは息を飲んだ。
ーーフィオナ!
バルドを襲ったあのフィオナとその一団がそこにいたのである。フィオナは、隣の男に聞いた。
「武器はこのくらいか?」
だが返事がない。
「おい、コリン。聞いているのか?」
再び尋ねるフィオナにコリンと呼ばれた男は、面倒くさそうに答えた。
「あぁ、ここにあるので全部だ。このロキでクーデターを起こすには十分だろう」
ーークーデター?
物陰のダンテは思わずカルロと顔を見合わせた。
「ここはバルダロスにとっても要所だ。ここが落ちれば形勢はガラッと変わる。バルドも慌てる事だろう。な、グレイス」
コリンは大柄のグレイスに話しかける。グレイスは、ふんっと鼻を鳴らし答えた。
「我々の家主にとってはどうでもいい。要は戦が長引けばいいんだ。それでローチェ家はたんまり潤う。統一も和平も阻止するのが方針だ」
「その通りだ。決行は今夜の夜更、いいな」
念を押すフィオナに他のメンバーはうなずいた。そして、出ていこうとしたとき、聞き耳を立てていたダンテとカルロの近くで物音がした。
「誰だ!?」
フィオナは、振り向き剣を引き抜く。
ーーまずい……
ダンテとカルロは必死に息を殺した。フィオナ達は近づいてくる。万事休すとなりダンテ達が覚悟を決めたとき、柱に向かって鼠が走って行った。
「ふん、鼠か……」
フィオナ達は剣を鞘に収めるとそのまま倉庫を出て行った。




