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ダンテ戦記  作者: ドンキー
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「じゃぁ行こうか、カルロ」

「そうだな、兄弟」

 バルドの命を受けたダンテとカルロは、準備を整えた後、バルダロス軍が冬営を張る陣地を離れ、山岳地帯へと足を踏み入れた。山間部の現地に住む人間から直接、この辺りの情報を収集するためだ。

 雪が舞い散る中、旅装束に身を纏った二人は山という山にポツリポツリと生息する村人を見つけては、辺り一帯の地形、ドリアニア軍の配置、情勢等を探って行った。

 だが、どこに行っても住人の口は固い。ここの民は総じて西から遠征して来たバルダロス軍に良い印象を持っていないようだった。

「困ったな」

 二人は、途方に暮れつつ、来る日も来る日も山を練り歩き情報収集に明け暮れた。だが、そうこうするうちに、二人はある噂に行き着く。どうやらこの山岳地帯にはダグラスの軍がその地の利を活かして防御に徹する地域を迂回する間道があるようなのだ。

「確かなのか?」

 尋ねるダンテに住人は、どちらともつかない返事をしている。らちが開かない見たカルロは、迷わずその住人の前に金貨を積んだ。

「その間道はどこにある」

 金にモノを言わせ、地図を前に迫るカルロに、だが住民は口ごもりつつ、それ以上は話せないと首を降った。脅しても透かしてもなだめてもガンとして口を割らない住人の前にダンテとカルロは互いを見合わせ、ため息をつくしか無かった。

「収穫なしか……」

 力なく村落から引き返すカルロにダンテは言った。

「長期戦だ。しらみ潰しに根気よく当たっていくしかないよ」

 なんと言ってもバルダロス軍の遠征は二人の肩にかかっている。あの敗戦以降、バルダロス軍はこの山間部を前に進軍を停止させていた。なんとかしてダグラスの守るこの地域に間隙を見つけなければ身動きが取れないのだ。その重責を担っているだけに結果の出ない現状に気持ちのみがはやるのだった。

「今日も冷えるな」

 カルロはマントに身を包みながら白い息を手に吹きかけた。二人にとってこの山間部の寒さは特に身に堪えた。

「次はどうする?」

「この山岳を調べてみよう」

 地図を広げ尋ねるカルロにダンテは、言った。山の雪は深い。辺りが白一面の雪道を凍えながら、二人はとぼとぼと歩いていく。その足取りは重かった。


 その日も二人は、冬の山を歩いていた。と突然、山の向こうから女性の悲鳴らしきものが聞こえた。

「なんだ?!」

 二人は、慌ててその悲鳴の方に走った。そして、目の前にいる大きな毛皮を纏った生き物に息を飲んだ。

「熊だ」

 空腹の余り冬眠から這い出て来たのだろう。山の住人とおぼしき娘の前に牙を剥き出しにして今にも襲い掛からんと迫っている。ダンテはすかさず剣を取った。

「カルロ!」

「おぉよ、兄弟」

 二人はすぐさま息を合わせたようにその熊に立ち向かっていった。まずカルロが熊の眉間に矢を放ち怯ませ、時を置かずしてダンテが熊の懐に潜り込み一刀を浴びせた。致命傷とはならなかったが、熊は戦意を喪失したようで一目散で逃げて去って行った。

 それを見届けたダンテとカルロは、剣を鞘に納め、傍の木陰で震えながらうずくまっている娘に声をかけた。

「大丈夫?」

「もう大丈夫だぜ」

 娘は今だ恐怖から抜け切れないようだ。血走った目をぎょろつかせつつもなんとか落ち着きを取り戻し、二人に言った。

「た、助けてくれてありがとうございます」

 そして、ダンテとカルロを交互に眺めながら聞いた。

「旅の方ですか?」

 二人は目を見合わせ、苦笑した後、答えた。

「まぁね」

 そして、カルロが聞き返した。

「あなたは、この山間部の人なのか?」

 娘は、うなずき笑顔を投げかけながら二人に言った。

「よかったらうちに立ち寄って下さい。お礼をさせて頂きたいんです」

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