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ダンテ戦記  作者: ドンキー
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ダグラス

 カーラ水軍との連合で臨んだ海戦で南を固め、海上要塞攻城戦でも勝利し北の大地の覇を確立したバルダロス軍は、明らかにドリアニア軍に対し、優勢に立った。その後、幾つかの小競り合いを繰り返したが、その都度バルダロス軍は自らの領土を広げている。

 この時、バルドはブルーノに和平交渉を持ち掛けている。だがブルーノの返事はノーである。戦場で相まみえんーーそう言って譲らない様にバルドは好感を覚えた。

「流石はブルーノだ」

 共に大陸に覇を唱え、一度は自らの前に現れ槍でこの身を貫いた程の男である。同時に警戒も怠らなかった。死を覚悟した将ほど厄介なものはない。バルドはブルーノと決着をつけるべく更なる駒を慎重に進めた。


 海上要塞陥落の知らせを受けたとき、ブルーノは、驚かなかった。

「バルドならやるだろうと思っていた」

 これにより均衡は崩れ、明らかに劣勢に立つことになった。問題はブルーノが予想していたより早く海上要塞が陥ちたことだ。勢いに乗るバルドに一矢報いるには、まだ準備が足りない。

 時間を稼ぐ人柱が必要だ。その人柱には来るべき決戦に向けて兵を温存する必要からあまり兵を与えることが出来ない。貧乏くじとも言える損な役回りである。

 その人選に頭を悩ませていたブルーノの元へ、一人の人物がやって来た。ブルーノの弟、ダグラスである。

「ダグラスよ」

 ブルーノは、弟のダグラスを笑顔で出迎えた。

「兄上」

 ダグラスは、恭しくブルーノに頭を下げ、明確に言った。

「バルドとの一戦、なぜ私をお使い下さらないのですか?」

 意気込むダグラスにブルーノは言った。

「ダグラス、お前はまだ若い」

 ブルーノは、自身の弟を愛情を持った目で眺めた。ブルーノは決して家族の愛には恵まれていない。自らを愚か者と称し、周囲の目を欺いて来たブルーノは、そこに家族の愛も犠牲にした。だがこの弟だけはそんなブルーノの力を見抜き、常に敬意を払い、愛情を持って接してくれていた。自身の唯一の理解者と言っていい。

 それだけではない。ダグラスは戦さにおいて非常に筋のいいものを持っているのだ。それだけにダグラスをブルーノはじっくり育てたかった。言わばブルーノの秘蔵っ子である。

 不意にブルーノは、剣をとりダグラスを引き連れ、広間に出た。

「久しぶりにやろう」

 ブルーノは剣を引き抜いた。それをみたダグラスも微笑み剣を抜いた。互いに構え、しばし牽制しあったのち、一気に踏み込みあった。剣をぶつけ合う二人は、そこで無言の会話を交わした。

 何も言わずともお互いの考えが分かるのだ。ブルーノに取っては、もし自らの身に何かあれば、ダグラスにドリアニアの全てを任せるつもりでいる。だが、ダグラスは違う。自身の兄にダグラスはケンカで勝ったことがない。偉大なブルーノこそドリアニアの象徴であり、ドリアニアの軍そのものだと思っている。

 そんな二人は、しばらく剣を交え、やがて、意を決して踏み込んだところで止まった。互いが互いの喉元に剣先を突き付け合い相打ちの形でブルーノはふっと笑みをこぼし剣を引いた。

「成長したな、ダグラス」

「兄上も相変わらずお強い」

 ダグラスは自らの剣を鞘に戻し、頭を下げブルーノの元を去って行った。


 その夜、ダグラスは何も言わず密かに自身の軍勢のみを引き連れ城を出て、戦地へと赴いて行った。ブルーノに時間を稼ぐために自らの意志で打って出ることにしたのだ。

 見上げる空には月がぽっかりと浮かんでいる。その月光に照らされたブルーノの城を眺めながらダグラスは兄に密かに別れを告げた。

「兄上、どうかいつまでもご無事で」

 ダグラスの軍勢は、刻一刻とバルダロス軍が迫る陣地へと進んで行った。

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