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ダンテ戦記  作者: ドンキー
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 果てして全軍を投入した壮大な一大土木作業が敢行された。着々と土砂や石、材木などが運ばれ海が埋め立てられていく。その延々と続く作業にカルロはため息をついた。

「おいおい、俺達は戦いに来たんだぜ」

「カルロ、これも戦いのうちだよ」

 ダンテは、笑ってカルロに言い返した。

 一方の海上要塞の守備兵はこの作業を笑った。

「バルドは馬鹿なことを始めた」

「すぐ諦めるだろう」

 だがバルドの意志は固い。少しずつではあるが、海上要塞への道は着々と伸びつつあった。このままいけばなんとかなるんじゃないかーーそんな思いをバルダロスの全軍が抱き始めたある日、大変な事が起こった。

 嵐がやって来たのだ。

「ダンテ、やばいぜ」

 作業を引き揚げカルロは、辺りを見渡した。風は吹き荒れ海は大荒れに荒れ、押し寄せる波飛沫が埋め立てた道を飲み込まんとしている。

 ダンテ達は祈る様な気持ちで嵐が止むのを待った。

 その嵐は散々に吹き荒れ、それが去ったのは、数日後だった。晴わたる空の元、ダンテ達は埋め立てた道が無残にも押し流れてしまった後を呆然と眺めた。

「なんてことだ」

 これまでの作業が全て無駄に終わったのである。一方、海上要塞の守備兵はその様を大いに罵り笑った。

「言わんことではない」

「諦めて撤退することだろう」

 だが、バルドは諦めなかった。再び性懲りもなく海上要塞への埋め立てを敢行し始めたのだ。同時に周囲の中立を貫いている港湾都市の調略にも手を出し始めた。船で戦えない以上、陸から海を制することによってドリアニアの海上勢力を締め上げる作戦に出たのである。

 ダンテとカルロは、使者として派遣され、あらゆる港湾都市を命がけで巡った。

「我が都市は、中立を貫いておる」

 そう話す有力者にまずは、カルロは凄みを持って迫る。

「我が王は、次の標的はあなたの都市だと言ってるぜ」

「脅しかね、そんなものは通用せん」

「脅しじゃない、我らの王、バルドは必ずそれをやる。現に今までがそうだったからな」

 そうやって動揺させたところでダンテが救いを入れた。

「今なら我が王は、あなた達を大歓迎で出迎える。自治権も認めてもいいと言っている。我がバルダロスはすでに西方を制し、ゼノスへの航路も持っている。この先、我らと交易すれば膨大な富が築けます」

 そうやってダンテとカルロはコンビで必死にバルダロスと手を結ぶことの利を説き、それをしないことに対して深刻な将来を想像をさせ、時には脅し、時にはなだめ、透かし、根気よく説いて回った。

 そうやって少しずつ中立都市をバルダロスに通じさせ、さらにドリアニアに通じた都市を離反させて行くことにより、ダンテとカルロは遂に自分達の軍が持っていなかった海上勢力を、ごく僅かながらも持つことが出来た。

「よしいいぞ」

 報告に戻って来たダンテとカルロにバルドは、うなずき、二人に砂の上に書いた地図を使って説明を始めた。

「目下、我が軍による海上要塞への埋め立ては順調に進んでいる。すでに九割方まで作業が完了し、後は海上要塞までの接岸を待つのみだ。だがその残りの一割、接岸作業が難航している。海上要塞側からその作業を妨害すべく激しい反撃が繰り広げられ、埋め立て地へ浮遊石砲が放ち艦船まで繰り出して来る連中にうちの埋め立て作業は完全にストップだ」

 バルドは身を乗り出した。

「いいか、お前達」

 バルドは砂の上の地図に矢印で線を引きながら指示した。

「海上要塞側の妨害工作は確かに凄まじい。だが逆を言えば、連中の意識はこの接岸間近の埋め立て地の一点に集中していると言える。さらに明日の夜、我が軍はこの作業を半ば強行に推し進める。連中の視線はますますこの一点に捉われるはずだ。後は分かるな」

 じろっと直視するバルドにダンテとカルロはうなずいた。バルドは言い放った。

「お前達に兵を預ける。それを率いて一気に隙をつけ」


 その夜、ダンテとカルロはバルダロス軍に通じた諸都市の艦船で構成した小艦隊を出向させた。船にはバルドから預けられた兵が乗っている。その兵とともに海上要塞に夜闇に紛れて少しずつ近づいた。案の定、海上要塞は埋め立ての接岸を目論むバルドの攻勢への対応に追われ、こちらに全く気づかない。

「よし、行こう」

 ダンテ達は海上要塞の裏側に回ると船を接岸し、一気に上陸を果たすや城壁を上った。

「カルロ、あれ!」

 ダンテが城壁に備え付けられていた浮遊石砲を指差した。

「よし、いっちょやるか」

 カルロはダンテにうなずき、二人で敵の浮遊石砲を奪うと海上要塞内の施設に向けて照準をつけ始めた。

「いいぜ、兄弟」

「発射!」

 轟音が響き、砲弾は海上要塞を次々と破壊して行った。海上要塞の守備兵は突如、裏手に現れた新手に腰を抜かした。海からの敵を守るべく備え付けられた浮遊石砲に自らの要塞を破壊され始めたのだ。さらに埋め立てが進む表ではバルドによる攻勢が続いている。表と裏の両側から挟み撃ちにされた海上要塞の指揮は混乱を極め、士気が一気に下がった。その守備力の弱体をバルドは見逃さなかった。

「今だ。一気に仕留めてしまえ」

 勢いは明らかにバルダロス軍にあった。総崩れとなった海上要塞の守備兵を前にバルドは遂に埋め立てによる接岸工作を成功させた。バルダロス軍は一気に城壁を上り、海上要塞の中へと侵入して行った。

 いかに鉄壁を誇った海上要塞といえど、海を埋め立てられ城壁を破られてしまえば、後はひとたまりもない。こうして北方地域の海上勢力の要であり象徴となっていた海上要塞は、その海軍力をほぼ封印されたまま、陸上からの攻撃により陥落することとなった。

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