実験
王様が自分と同じ草原の夢を見ているーーそれを聞いたダンテの驚きは並大抵ではなかった。
ーー王様も植え付けられているのだ……
もはや、目の前がクラクラする思いだった。
「どうかしたのか?」
怪訝な表情で尋ねるバルドにダンテはかぶりを振った。
「な、なんでもありません」
「そうか」
バルドはダンテにため息をついた。
「今の話は、戯言だ。全て忘れてくれ」
そう述べると、バルドはダンテに手を振り自身のテントへと帰って行った。残されたダンテは、呆然と突っ立ったまま何も考えられない状態でいた。
「なんてことだ……」
やがて、ダンテは自身のテントに戻ると横ではカルロが何も知らずに眠っている。それを横目に眺めながらダンテは考えた。
明らかにこの世界の、ゼノスに言わせるところの下界の争いは起こすべくして起こされている。覇を唱えるべく争いの中に身を投じ、その戦いを通じて神々の戯れ、というべき仕組みに翻弄されていく。だが、ダンテはいまだに核心に迫れない。
「俺達はどこから来て、これからどこへ向かっていくのか……」
かつてチコはダンテにこの世の真理を見せた。浮遊石とは覇を競って争う者達の身を焦がす様なエネルギーが凝縮させた成れの果てであり、それを抽出するための工場があの草原であり、その工場長が白髪白髭のグレゴリーである、というものだ。
だが、ダンテはこうも考えた。
「グレゴリーは、俺達の世界を争いの苗床にして浮遊石を培養するだけでなく、抽出した何人かの人間にビジョンを植え付け何らかのサンプルを取ろうとしているのではないだろうか」
そんな気がダンテにはするのだ。
「もしそうだとするなら、一体なんの目的で?」
めくるめく考えを連ねるダンテの意識はやがて、夜の微睡の中に消えて行った。
その頃、バルダロス軍の後方の城に残されたチコは、ある実験をしていた。以前から浮遊石の変質を見抜いていたチコは、そこから何かの真理を探ろうとしていたのだ。
浮遊石を砕き、他の物質との調合しては、実験を繰り返し観察を行っていくうちにチコはある現象に目を止めた。
「これは……」
それは、チコがこれまでに知っている知識ではあり得ない現象だったのである。
「まさか」
チコの頭の中である仮説が生まれた。だが、まだ確信には至らない。ペンを走らせ考えをまとめるうちにチコは、ダンテを思い浮かべた。
「今頃、ダンテはバルドと共に次の戦いに向けた準備をとっている事だろう」
チコは考えた。
「もしこの仮説が正しければ、鍵はダンテが握っていることになる」
チコは窓の外の向こうにいるダンテに思いを馳せた。
翌日、海辺に軍を進めたバルドは、岸から一キロ程離れた島に城壁がぐるりと囲まれた海上要塞を遠目に眺めた。
「あれがドリアニアが誇る海上要塞か」
バルドが呟き、配下の兵も目を見張った。海上に浮かぶ様にそびえ立つその海上要塞の威容は、それだけ際立っていた。
ここ北の大地は陸では快進撃を続けていたバルダロス軍も海ではそうではない。その原因は、この海上要塞の妨害に遭っているからと言っても過言ではないだろう。艦船も保有しドリアニア軍の基地にもなっているその海上要塞を攻略する必要があるのだが、それには艦船がいる。それがバルドにはそれがないのである。
カルロは、舌打ちした。
「陸上では勝てるのにな」
「仕方がない。ここでは海上では俺達は勝てない」
ダンテはため息で返した。だが、王であるバルドの見方は違った。彼は大胆にして、かつ、奇抜な作戦に打って出た。なんと持って来た工兵を中心に全軍を動員して目の前の海を埋め立てることにより、その海上要塞に続く道を作ろうとしたのだ。
要塞が海上にあるなら陸地と繋げることによって、勝てない海上での戦いを勝てる陸上での戦いに変えようとした訳である。




